とあるカフェの事情
キャス「よう、新入り。そんなに怯えんなよ。別に、噛みついたりしねぇよ」
俺(ニック)「ど、どうも。ここは、どこです?やたらと、騒がしいですね?」
キャス「ここは、俺らの住処さ。まぁ、一応、仮の住処ってことだけどな」
俺(ニック)「仮…ですか。その割には、みんな、くつろいでますね」
キャス「そりゃ、それが仕事の休憩ってもんだろうよ」
俺(ニック)「仕事…休憩なんですね。なるほど」
キャス「そうさ。…あ、ボスだ。ちゃんと挨拶しろよな。顔は怖いが、優しいんだ」
俺(ニック)「ボス…?」
キャス「ボス!こいつが今回の『箱入り』です!」
ボス(グラン)「……あぁ。キャス、もう行け。もうすぐ飯だ。あっちで、アカリが探してたぞ」
キャス「いっけね!一緒に食う約束だった」
ボス(グラン)「…俺は、グランだ。分からないことは、聞け。飯は、あそこで食う。来い」
俺(ニック)「あ…はい。どうも」
暗転
グラン「お前、名前は?」
俺(ニック)「あ、なんかニックって言われましたね」
グラン「そうか。…これは俺のだ。お前のは、あっちのだ」
ニック「あ…はい。どうも」
えり「あれ?ニック、もうみんなにご挨拶したの?グランが連れてきてくれたんだ?ありがとうね」
グラン「…あぁ」
ニック「どうも。キャスさんでしたか?こちらが、アカリさんですね?ニックです。よろしく」
アカリ「よろしくね。私、キャスのお姉ちゃんなの。キャスとも仲良くしてね」
ニック「あ…はい。よろしく」
キャス「新入りぃ、そんなに畏まるなよ。変な奴だなぁ。あ、あとな、あっちのがメイ。ボスの隣が、カイト。メイは食いしん坊だから、横取りされないようにな。カイトは、…何考えてるかよく分かんね」
ニック「そうですか…」
アカリ「今は、これだけだけど、別の所にもたくさん仲間がいるのよ?たまに一緒に出掛けたりするから、そのうち会えると思うわ」
ニック「わかりました」
えり「さ、みんな食べ終わったみたいだし、片づけちゃうわね。休憩終わりだから、みんなお客さんの接待、がんばって!よろしくね」
暗転
グラン「…こっちでお客の出迎えだ。いい顔しろよ」
メイ「グラン、相変わらず世話焼きね」
グラン「…あっち行け。お前と並んだら、こいつが客を取れんだろうが」
メイ「…ふんっ」
ニック「えっと、お客さん取らないと、どうなります?」
グラン「腹ペコで仕事だな」
ニック「それはキツイですね」
グラン「だから、良いところでいい顔しろ。固定客がつくまでは、キツイ」
ニック「わかりました。あ、あの、ありがとうございます」
グラン「…あぁ」
ニック「グランさんは、どれくらいここに居るんです?どれくらいで、固定客ってのついたんですか?」
グラン「…わすれたな…」
ニック「そうですかぁ…」
暗転
ニック「グランさん、お疲れ様です。この仕事、案外疲れますね。媚び売るのも、食い物のためならと我慢しますけど…眠いです…」
グラン「それが仕事だろう。今日は、まだいい方だ。客が、少ないからな。多いときは、それこそ溢れかえってるくらいだ。寝れるなら、今のうちに寝ておけ」
ニック「はい…失礼しますね…ふぁ~…」
キャス「あれ?ニック、寝ちまったんですね」
グラン「…あぁ。初日だからな」
キャス「そっかぁ。俺もしばらくは、しんどかったもんな。しょうがないっすね」
グラン「…あぁ。それで、何かあったのか?」
キャス「いや?なんもないっすよ」
グラン「そうか…」
メイ「グラン、ちょっといい?」
グラン「…あぁ。なんだ?」
メイ「今日の新人の事だけど…随分世話焼きじゃない?あの子が、エアリアに似てるから?もう、エアリアは居ないのよ?」
グラン「…俺の勝手だろう?お前に、何か言われる筋合いは、ない。それだけなら、もう行く」
メイ「…ふんっ」
暗転
グラン「……ろ。起きろ、ニック」
ニック「‥‥‥ん?んん?グラ…ンさん?」
グラン「起きろ、飯の時間だ。寝るのは良いが、飯の時間には起きていろ。食いっぱぐれるぞ」
ニック「ふぁ~…はい。ありがとうございます」
カイト「やっと来たのか。めんどくさいやつ…」
ニック「すいません…」
グラン「食え」
カイト「はいはい」
アカリ「カイトったら、意地悪ね。気にしなくていいわよ?ニック」
ニック「はい。ありがとうございます」
キャス「でも、飯は大事だぜ?時間が決まってるからな。腹ペコじゃ、病気になっちまう。病気にでもなったら、追い出されちゃうんだぜ?」
ニック「そうなんですね。グランさん、それで起こしてくれたんだ…」
アカリ「グランは、あぁ見えて優しいのよ。病気になったり怪我をしたりして、どこかに行った子もたくさん見てるしね。お客と一緒に出て行った子もいるけど、ほとんどの子はここを出るときは病気やケガだもの」
ニック「そうなんですね…」
アカリ「それに、グランはエアリアの事もあるから…」
ニック「エアリアさん?とは?」
アカリ「グランの恋人だった子よ。今はもう、空の上だけど…」
キャス「その名前は出しちゃ駄目だぜ、アカリ…ニックも口に出すなよ?」
ニック「わ…わかりました」
暗転
グラン「ニック。これから、夜の営業時間だ。また、あそこで客を取れ」
ニック「あ、はい。分かりました」
カイト「グラン、今日の寝床はあいつとか?俺が来た時も、何日かは一緒に居てくれた。あいつも、そうするのか?」
グラン「…あぁ、そのつもりだ。何かあるのか?」
カイト「いや…何もない。聞きたかっただけだ。……最近、飯の量減ってるから…」
グラン「…心配したのか?大丈夫だ」
カイト「わかった…」
アカリ「カイト、エアリアの事考えたんでしょ?あんた、グランとエアリアの事、大好きだったもんね。大丈夫よ。グランは、強いんだから。それより、あんまりニックにきつくしないであげてよ?」
カイト「…ふんっ」
アカリ「…はぁ~、まったく…カイトのグランべったりにも困った物ね…」
キャス「アカリ、あんまり悩むと禿げるぜ?」
アカリ「キャス!あんたが能天気すぎるのよ!!」
暗転
えり「今日もみんな、お疲れ様。しっかり、休んで明日も頑張ってね。じゃ、また明日ね!」
グラン「ニック、こっちに来い」
ニック「はい…うっわ!ふかふかだ!」
グラン「俺の寝床だ。お前の好きな寝床が決まるまで、ここで寝たらいい」
ニック「えっ…ご一緒していいんですか?やった!ありがとうございます」
グラン「あぁ。…お前、なんでここに来た?」
ニック「俺、捨てられたんすよ…いいじぃさんとばぁさんだったんですけどね。かぁちゃんが生きてた頃は良かったんですよ?でも、かぁちゃん死んでから、あの人たち、たまに自分たちの食事まで忘れたりとかしてて…で、俺、どっかの施設に入れられちゃって。気づいたら、ここに…」
グラン「そうか…ここには、最低限の食事と寝床がある。せいぜい、元気にやれ」
ニック「はい。あの、グランさんは?どうしてここに?」
グラン「俺もお前と似たようなものだ。ここは、多かれ少なかれ、事情を抱えたやつばかりだ。仲良くやれ」
ニック「…はい。おやすみなさい」
グラン「あぁ…」
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