第15話

 物語だけでなく、文体や表現もそっくりだった。


 読んでいくうちに、なんだか気持ちが悪くなってきた。

 

 自分が書いたのかと思うくらいよく似た書き方なのだ。

 それが、メイジーの詩の一部になっている。


 絶対にフェリシア自身は書いた覚えがないのに、そこには自分が書いたとしか思えない文章が書かれていた。


(これ、何……? 気色悪い……)


 フェリシアは思わず口元を手で覆った。


 目を閉じて、息をゆっくり吐きだす。

 そして、静かに聞いた。


「メイジー……、これの、後ろのほう、私の詩を見て書いた……?」


 メイジーははっとしたようにフェリシアを振り返った。

 どこか引きつったような笑顔を浮かべて、小さく首を振ってから言った。


「フェリシアの詩も……、少し、参考にさせてもらったの……」

「参考に……」


 じっと見つめるとメイジーは視線を逸らした。


 そのくせ、妙にはっきりとさっきの「正論」を繰り返し始める。

 まだ近くにいるキャシーやブリトニーにも聞こえるような、しっかりした声で。


「さっきも言ったけど、何からも影響を受けないで書くってことは、ありえないよね。誰でも、何かを参考にして書くと思うんだけど」


 フェリシアは何も答えられなかった。

 メイジーが言っていることは、確かに「正論」なのだ。


 けれど、自分が感じているこのやりきれなさは、いったい何だろう。


 どう説明すればいいのかわからないが、あれは「盗まれた」ものだ。

 ほかには考えられない。

 誰にもわかってもらえなくても、メイジーはあれを「盗んだ」のだ。


 レイチェルの詩も……。

 

 さっきのレイチェルも、きっと今のフェリシアと同じ気持ちだったに違いない。


『あんたに盗ませるために、あの詩を書いたんじゃないんだからね!』


 レイチェルの叫び声が耳によみがえる。

 当事者になって、初めてその苦しさを理解した。


 何かを参考にすることも、何かの影響を受けることもある。

 それは事実だ。


 フェリシアは詩を書く時に、何かを参考にしただろうか。

 知らないことは調べているし、何も見ないで書いたとは思わない。

 今までに読んだ詩の影響ももちろん受けている。


 けれど……。


(誰かの詩を、詩そのものを、見て書いたことはないわ……)


 世の中にある美しいもの、自分が好きだと思ったもの、あるいは疑問に感じたこと、不思議に思ったこと、それらを伝えるために、自分が知っている言葉を紡いで詩物語を作ってきた。

 自分が発見した世界の美しさを、どうしたら伝えることができるか、表現を工夫しながら。


 世界には最初から美しい何かがある。それは誰のものでもないから、同じ題材を得ることもあるだろう。

 けれど、その美しさをどんなふうに見つめるかは人それぞれだ。

 

 誰かが感じた美しさを、そのまま自分のものとして書くことは、やはりおかしい。


 けれど、作者がどのようにしてそれを書いたのか、似ているものがあっても、偶然なのか、あるいはどちらが先に書いたのか、どちらかが真似したのか、それらは、他者の目にはわかりにくい。


 たぶん、盗まれた者にしかわからない。


(それに……)


 フェリシアもよく知っていた。


 盗作だと騒ぐ人は、今までに何人もいた。

 その中には「考えすぎ」か「被害妄想」だとしか思えない例が、驚くほど多かった。


 だから、同じようなことが話題になっても「またか」と思う。

 みんなも。

 もしかしたら、フェリシア自身でさえ……。


 レイチェルが、まわりの誰かにこそこそと言われた言葉を思い出す。


『被害妄想』


 メイジーはそれも知っていて、あんなふうに「正論」を口にしているのだろうか。

 だとしたら、自分が何をしているのかを、ちゃんとわかっていることになる。  

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