第51話 ゴーレムとメタル

 自分の手のひらを見つめると、全体が銀色で金属特有の光沢を持っていることがわかる。

 腕や脚を見てみると、岩石の体の時より凹凸おうとつとエッジが増え、少し刺々しくなった印象を受ける。


 言うなれば、序盤の雑魚モンスターから中盤に出て来る亜種になったような……。

 そんな強そうな雰囲気が今の俺にはある。


「ガンジョーさん……ですよね? 中身は変わってませんよね……?」


 マホロが不安そうな顔で尋ねて来る。

 俺は胸を張って答えた。


「ああ、俺はガンジョーさ! 外見は変わっても、中身は全然変わってないよ。正直、俺もここまで見た目に変化が起こるとは思ってなかったな……あはは」


 一般的な岩石に対して、鉄鉱石は約二倍の密度を持つという。

 だからと言って、岩石を圧縮して密度を高めた結果、体が鋼鉄になるとは……!


 ガイアさんがMETALメタルって言うし、俺もふと頭の中に思い浮かんだから『メタルゴーレム』と名乗ったが、実際は結構驚いている。


「良かった……! いつものガンジョーさんだ!」


 マホロが飛びかかるようにして俺に抱き着いて来る。

 形状が人の体に近くなったから、人のようにマホロを抱きとめることが出来る。


「おっとっと! 体がトゲトゲしてるから、気をつけないと危ないぞ」


「大丈夫ですよ! トゲトゲしてるようで、ちゃんと先端が丸まってますから!」


 確かに体の尖った部分は、子ども向けの玩具のように先端が丸みを帯びている。

 突き刺さる心配はなさそうだけど、それでもぶつけると痛そうだ。

 マホロを傷つけないように優しく抱きかかえる。


〈ガイアゴーレムの進化……予測出来ない結果です〉


 ガイアさんのわずかに動揺の混じった声が聞こえて来る。


〈ガイアゴーレムは完全なる存在、大地の守護神……ゆえにその先を考えることが『ガイア』には不可能でした。これは『ガンジョー』によって引き起こされた現象、新たな可能性です〉


「えっと、これは褒められてるってことで……いいですか?」


〈正しい認識です〉


 ガイアさんに褒められるなんて光栄だなぁ。

 俺じゃなければ起こせなかった現象、新たな可能性……か。


 いつもガイアさんにはお世話になりっぱなしだから、俺にしか出来ないことがあるっていうのは、ありがたくてちょっと誇らしい。


「ガイアさんもガイアさんのままですよね?」


〈はい、『ガイア』に変化はありません。メタル化により最も変化が大きかったのは、究極大地魔法による金属加工能力が大幅に向上したことです〉


 体が金属になったから、金属を扱う能力が高まったということか。

 これは俺がひそかに考えている計画……ジャングルまでトロッコのレールを引く計画にとても役立ちそうだ。


 レールを引いてトロッコを通せば、それだけたくさんの食料をジャングルから持ち帰れる。

 それだけ住人の胃袋も満たされるし、活力も湧いてくる。

 街の再生もより進むというものだ。


「何はともあれ……これで灯台にも上れますね、ガンジョーさん!」


「ああ、一緒にね!」


 これにて一件落着!

 抱き着いていたマホロを地面に降ろし、手をつないで灯台の中に入る。

 手のサイズも人間に近くなっているから、こういう触れ合い方も出来るようになった。


 灯台の内部は事前に作った3Dモデルをしっかりと反映した作りだった。

 入口は金属製で両開きの扉、中には螺旋階段と電磁魔動式エレベーターがある。


「そうだそうだ、電磁魔動式エレベーターの挙動を調整しなきゃならなかったな!」


 おじさんが一足先にエレベーターに乗り込み、四角柱しかくちゅうのコントロールパネルに触れる。


「……んんっ!? すでにしっかりと回路が組まれている……!? もうボタンを押すだけでこのエレベーターは動くようだぞ……!」


 おじさんは驚愕する。

 おそらく、俺たちの話を聞いていたガイアさんが、灯台の建造と同時にエレベーターの調整も済ませておいてくれたんだ。


 電磁魔動式は雷属性魔力と地属性魔力の産物。

 大地の守護神たるガイアゴーレムなら、その調整は朝飯前だろう。


「とりあえず……みんな、乗り込んでいいぞ!」


 おじさんがエレベーターに乗るよう手招きする。

 それに従い、俺たちはエレベーターに乗り込んだ。


 俺の金属の足とエレベーターの鉄の円盤がぶつかり、カンカンッと高い足音を鳴らす。

 ただ歩くだけでも新鮮な気分になるもんだ。


「よし、動かすぞ。真ん中の円柱には触れないようにな。触れたところで感電したりはせんが、一応安全のためだ」


 おじさんが『▲』のボタンを押すと、円盤は揺れることなくふわっ……と上昇を始めた。

 俺がいた世界のエレベーターより、ずっと優しい挙動だ。

 これなら何かに掴まって体を支える必要もない。


 円盤はぐんぐん加速して、あっという間に約百メートルの上昇を果たした。

 停止する際も揺れはまったくなく、それはそれはなめらかな減速だった。


「後はこの扉を開けば展望台に出られる」


 俺は入口と同じような両開きの扉に手をかけて……開く。


「わあ……っ!」


 夕日に照らされた黄昏たそがれの大空、眼下にどこまでも広がる荒野――

 展望台へと通じる扉の向こうには、今まで何度も見て来た大空と荒野の、今までに見たことがない姿があった。

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