第44話 ゴーレムと三流建築家
霊園に鉱山で亡くなった方の亡骸を埋葬し始めて数日――
名前を刻んだ墓石の数は、百個を超えようとしていた。
これだけ大きな街の発展を支えていた鉱山だ。
そこで事故が起これば、犠牲者の数が膨れ上がるのも納得ではある。
それでも暗い坑道の中で新たな亡骸を見つけるたびに、複雑な想いが込み上げて来る。
すべての亡骸を埋葬するまでに、まだ時間がかかるかもしれない。
追加の墓石をどう配置するかを考えつつ、鎮魂のための灯台をどこに建てるかも考える。
前の世界にいた時、何気なく見ていたテレビで全国の灯台が特集されていたことがあった。
石造りの物だと、大体四十メートル超えてれば十分だった気がする。
四十メートルの建造物……まず防壁の中に立てるわけにはいかない。
圧迫感がすごそうだし、住居の再建も続けているから、あまりスペースが残っていない。
防壁のすぐ外というのも、圧迫感という意味では大差ないだろう。
やはり霊園近く……何なら霊園のシンボルとして霊園の中に立てるのが良い気がする。
「……となると、墓石の配置を改めて考えないといけませんね」
「灯台の前に並べる形にするのか、灯台を囲うように周りに配置するのか……」
その日の埋葬を一通り終えた夕方、霊園の中でマホロとこれからのことを相談する。
「霊園の入口から見て一番奥に灯台を建てて、その前にズラッと墓石を並べるのが、一番無難な気がします」
「そうだね。あくまでも霊園の役割は埋葬、そしてお墓参りだ。シンボルとなる灯台は一番奥にして、墓石を手前に配置しておくべきだと思う」
殺風景で寂しい感じがした霊園も、これで少し賑やかになるだろう。
「とりあえず、墓石はさらに百個増やしておこう」
墓石を追加したところで、俺とマホロは今日の作業は終わりだ。
教会へ帰ろうとしたその時、霊園にある人がやって来た。
「よっ! 元気してるか? マホロの嬢ちゃんにガンジョーの旦那!」
クラウス・エーデルシュタイン……通称おじさんだった。
「お久しぶりです、おじさん。俺たちは元気でやらせてもらってます」
「おじさんも元気そうで何よりです!」
息子さんの遺骨を持ち帰った後、おじさんはあまり外で見かけなくなった。
まあ、最近の俺は日が昇っている間ずっと霊園と廃鉱山を行き来していて、街にいる時間が短いというのも見かけなくなった理由の一つだろう。
「今日は……息子の遺骨を埋葬してもらいに来たんだ。ずいぶん一緒に過ごして、俺も決心がついたよ。そろそろ静かなところで眠らせてやらないとな」
おじさんの表情は晴れやかなものだった。
少し若返ったようにも感じるくらいだ。
「それで息子の墓はどこだったかな?」
「こちらです」
俺はおじさんを息子さんの墓石まで案内する。
すでに『ヘンリック・エーデルシュタイン』という名前が墓石に刻んである。
「ありがとよ。墓の数が増えてて、ビックリしちまった。やっぱ、まだまだ亡骸が眠ってるんだな……あの鉱山には……」
「はい。あと何人の方が取り残されているか、まだわからないです」
俺は正直に答える。
坑道がとにかく複雑で、まだ立ち入っていない分かれ道が結構ある。
ただ、ガイアさんの記憶能力のおかげで、脳内に鉱山のマップを作ることが出来ている。
時間さえかければ、あの鉱山のすべてを見て回ることは可能だ。
どこに行ったか、行ってないかで混乱することもない。
「こうして再会出来たことが、どれほどの奇跡か……。どうか安らかに眠ってくれ……」
墓石の前に骨壺を埋め、おじさんの息子ヘンリックさんの埋葬は終わった。
膝をついて手を合わせていたおじさんは立ち上がり、霊園を見渡して言った。
「落ち着いた雰囲気のある立派な霊園だ。まあ、もう少し遊び心というか……墓石以外にシンボルになるような目立つ建物があってもいい気がするな……って、偉そうなこと言っちまった。すまん、忘れてくれガンジョーの旦那!」
「いえ、そのことなんですけど……!」
「おじさんに協力してほしいことがあるんですっ!」
俺とマホロは食い気味に言った。
おじさんに灯台建設を手伝ってもらいたかったけど、実際に会うとこちらから言い出せる雰囲気ではなかった。
そこへおじさんから目立つ建物の話が出たんだ。
話を切り出す大チャンスを逃すわけにはいかないと焦るのも仕方がない。
「お、おう……話を聞かせてもらおうか……」
目を丸くして若干引いているおじさんに、俺たちは消えない炎の灯台の話をした。
最初は驚いていたおじさんも、マホロの願いと灯台の意味を聞くと嬉しそうな笑みを浮かべた。
「荒野を照らす灯台とは……流石はマホロの嬢ちゃんだな! こんな発想、凡人には思いつかねぇ。俺がどこまで役に立てるかわからねぇが手伝わせてもらおう。三流でも建築家だからな!」
「ありがとうございます!」
俺とマホロは頭を下げてお礼を言う。
これで消えない炎の灯台が現実味を帯びて来た!
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