第30話 ゴーレムと潤う街
「おっ、おおおお……っ! ガンジョーさん、水が地面の中へ流れていきますよ!」
「地面の中に水路を作ってあるからね」
街にとっては一大イベントだけど、その
瓦礫の街と比べてオアシスは高い場所にあるが、その差はわずかだ。
ゆえに緩やかな傾斜を利用した水路の流れも緩やかになる。
「……思ったよりも地味ですね」
四つん這いになってオアシスを覗き込み、流れる水を観察しているマホロがつぶやいた。
ノルンは水路に興味がなく、オアシスに飛び込んで泳いでいる。
「まあ、本番はこの水が街に届いた後さ」
あの乾いた街に水が流れる光景はきっと心に残る……はずだ!
「少し休憩したら、街に戻ろう」
オアシスまで来たついでなので赤い木の実も回収し、泳いでいるノルンが満足して上がって来るまで待った。
「ニャー!」
数十分でノルンは泳ぎ終え、ブルンブルンと体を振って
これをなぜか俺たちに近づいてからやるものだから、ネコって不思議だ。
その後、強い日差しとオアシスを吹き抜ける風がノルンの毛をすぐに乾かす。
こうして、瓦礫の街に帰る準備は整った。
「マホロ、大丈夫かい?」
「はい、構わずに走ってください! 私の方でスピードに慣れます!」
勇ましいセリフだが、こちらとしてはスピードを落としてあげたくなる。
行きは風圧をモロに受けてヘロヘロになっていたからな……。
やはり、もっと乗り心地の良い移動手段が必要だ。
「じゃあ、出発だ!」
「ニャ~!」
行きと同じく全力で走るノルン。
少しスピードを落としている俺との差は当然広がっていく。
だが、ここでそれをマホロに気づかれてしまった。
「ガンジョーさん、本気で走っても大丈夫ですから~!」
マホロが風の中で叫ぶ。
こうなったら、手を抜くわけにもいかないか……!
「本当に無理な時は言ってくれよ!」
ノルンの背中を追って俺はスピードを上げ、結果として行きと同じペースで街に到着した。
「ほ、ほら……ガンジョーさん……! 私、大丈夫でしたよね……!」
髪の毛がボサボサになっているマホロが俺の肩から降りる。
うん……やっぱりゴーレムは乗り物としては不十分……!
「街の中でゆっくり休もう」
金板を鳴らし、門を開けてもらう。
開けてくれたのはメルフィさんだったけど、その雰囲気はいつもと違い妙に興奮している。
「おかえりなさいませ! 水が……無事に水が流れて来ましたよっ!」
街の中に入ってみると、修復した水路の中を透き通った水が流れている。
荒野では地下に埋め込んだ水路も、街では地上に姿を現す。
この光景を思い描いて、この光景を実現するためにやって来たけど……それが本当に叶った感動は想像を遥かに超えている……!
「この水……これから飲み放題ってことですよね……?」
マホロが震える声で尋ねてくる。
「ああ、もちろんさ」
「これから毎日水浴びしてもいいんですね……?」
「いい!」
オアシスでは水が流れる様子を地味と言っていたマホロ。
だけど、この光景には思うところがあったようだ。
感動か、驚きか、その小さな体が震えている。
これから先、流れてくる水は自由に使っていいんだ。
あのオアシスの地下には、自然エネルギーの塊である超純度魔鉱石がある。
一気に膨大な水を消費しない限り、自然の力によって水が枯れることはない。
「ニャ~!」
オアシスで水浴びして来たばかりのノルンが水路に入る。
流石にオアシスみたいな自由に泳げるほどの深さと広さはない。
ただ、水路の各所にはちょっとした水の溜まり場を作ってある。
そこは底が深めで、座れば肩まで水に浸かることが出来る。
お湯を使えないのは申し訳ないが、その溜まり場では体が洗いやすいはずだ。
生活に使う水は水路からバケツなどで
蛇口をひねれば各家庭で水が出るような環境はまだ実現出来ない。
それでも、命をつなぐ水の心配をしなくてよくなったことは、我ながら大き過ぎる一歩だと思う。
明日を生きることに確信を持てて、初めて人は生き残ること以外を考えて生きられるんだ。
「私も失礼して……!」
メルフィさんが靴を脱いで水路に入る。
そして、水の存在を確かめるかのようにパシャパシャと足で水を蹴る。
ちなみに街の水路の表面にはオアシスの砂をコーティングしてある。
使い続けていると水路も汚れるものだからな。これで掃除いらずだ。
「じゃあ、私も入りますっ!」
マホロも水路に入り、水をすくってメルフィさんに浴びせる。
「マホロ様ったら、やりましたね~!」
メルフィさんがお返しと言わんばかりに勢いよく水を蹴る。
すさまじい脚力で蹴られた水の勢いは強く、食らったマホロは水路の中に尻もちをつく。
「あっ! 申し訳ございません、マホロ様……!」
「ふふふっ! いいんですよ、メルフィ! 今日は
「ニャ~!」
マホロたち以外にも、街の住人たちが水路に触れて思い思いの反応をしている。
ひたすら水を飲む人もいれば、浸かる人もいて、突然のことに驚くばかりの人もいる。
しばらくしたら、水のある生活が当たり前になるだろう。
喜びや驚きは薄れてしまうかもしれない。
でも、それでいいんだ。
これからもっともっとこの街を復興し、快適に住める場所にしてくのだから!
「ガンジョーさんも入りま……せんね。その大きさだと……」
マホロが少し申し訳なさそうな顔をする。
おっと、そういう反応はよろしくない。
「いいんだよ、マホロ。俺はみんなが喜ぶ姿を見るだけで十分幸せなんだ。その証拠にこの街に水路が通って一番喜んでいるのは他でもない俺なんだ!」
俺は大きく手を広げて、喜びを全身でアピールする。
自分の言葉に嘘はない。一番喜んでいるのは俺だ。
「おお……! 流石はガンジョーさん! この街の守護神です!」
マホロの曇りなき
彼女の言葉を胸に、立ち止まることなく挑戦を続けていこう!
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