ゴーレム転生 瓦礫の中から始めるスローライフ

草乃葉オウル@2作品書籍化

第1章 ゴーレム大地に立つ

第1話 ゴーレムと転生

 目を覚ますと、俺は今にも崩れそうな廃墟の中にいた。


 ボヤけた視界、激しい頭痛、なぜ自分はこんなところにいるのか……。

 混濁した記憶を整理し、自分の身に起きたことを思い出す。


 そうだ……人に話せる趣味もない俺は、世間体せけんていを気にして登山でも始めようと、装備一式まで買い揃えて週末に山を登っていたんだ。


 そこで突然地震が起こって、落石が発生して……。

 俺の前を歩いていた子どもに石が降って来たから、とっさに覆いかぶさって……俺は頭に落石の直撃を受けた……。


 その後の記憶はわずかにしか存在しない。

 強い衝撃、グシャッという肉が潰れる音、骨が砕ける音、子どもの悲鳴、泣き声……。


 あの子はきっと無事だと思いたい。

 でも、俺は……確実に頭を潰されて死んでいるはずだ。

 それなのに、俺は今こうして頭で考えることが出来ている……。


 意識と感覚が少しずつハッキリしてくる。

 頭痛はなくなり、視界もある程度クリアになってくる。


 今いる場所は石造りの建物の中のようだ。

 ひび割れた床に崩れた壁、散乱する木材に割れたステンドグラス……。

 なんだか教会のような場所だが、山の中にこんな建物なんてあったか?


 頭は冴えて来たのに、状況は呑み込めない……。

 いくら天涯孤独で、死んだ後に引き取り手がいない俺でも、流石に事故の後に病院に運び込まれることなく、廃墟に放置されることはないだろう。

 登っていた山は人気があるし、週末だから人もいたしなぁ……。


「とりあえず、外に出るか……。ここは今にも崩れそうだ」


 今はまだ何かの奇跡で自分が生きていると信じて、生き残るために最適な行動を取ろう。

 そう思って一歩を踏み出した瞬間、全身に強い違和感を覚えた。


「重い……!? 体が石のように……!」


 もう若くはない年齢だが、体型は結構スリムだった俺。

 だが、今の体の動きは体重3ケタどころか、4ケタはいってるんじゃないかと思うほどだ……!


 それに自分の視点が高いことに気づいた。

 まるで普段の身長の倍……3メートル強くらい身長があるように思える。


「体の重さも、目がおかしいのも、頭を怪我した後遺症なのか……?」


 こんな状態じゃ歩くこともままならない。

 しかし、この廃墟の中では安心出来ない。


 足元をよく見て1歩ずつ、確実に進んでいこう……。

 そう思って視線を真下に向けると、足元に小さな女の子がいることに気づいた。


「うわっ……!?」


 危うく蹴飛ばしてしまうところだった……。

 その女の子は真っすぐな金髪と青い瞳が特徴的で、外国の子に見えた。

 俺が落石からかばった子とは別人だけど……彼女なら何か知っているだろうか?


「ぶつかりそうになっちゃってごめんね。あの……ここがどこなのか、わかるかな? おじ……お兄さん、今ちょっと怪我をしてて……」


「やったー! 大成功ですっ!」


「え……ええっ!?」


 女の子は両手を上げて喜び始めた。

 訳がわからない俺は、ただただその姿を見守るしかない。


「心を持ったゴーレムさんの創成そうせい、大成功です!」


「心を持った……ゴーレム?」


「あれ? ゴーレムさんは自分がゴーレムだって知らないんですか?」


 女の子は俺の方を真っすぐ見て言う。

 どうやら俺のことをゴーレムと呼んでいるらしい。

 ゴーレムと言えば巨大な岩石の体を持つ怪物だ。


 あいにく俺の体は大きくなければ、岩石と呼べるほど鍛えられてもいない。

 それどころか、疲労から猫背気味で背が縮んで見えるし、最近は至る所に贅肉ぜいにくも……。

 一体この子は俺のどこを見てゴーレムと言うのだろう?


「ほら、鏡を見てください。この街では貴重な割れてない姿見すがたみです」


 女の子が俺を壁に立てかけてある大きな鏡の前に誘導する。

 そこに映っていたのは……巨大な岩石の体を持つ怪物だった!


「うわあああああああああっ!?」


 俺は驚いて腰を抜かす!

 その衝撃でズシンッと地面が揺れ、ボロボロの教会の一部が崩れる。


「きゃあ! 教会が……! この街じゃ珍しい屋根のある建物が!」


 女の子は教会が崩れたことがショックだったのか、ふらふらとその場に倒れ込んでしまった。


「ご、ごめん! 君の教会を崩してしまって……」


「いえ、完全に崩れなければ大丈夫です……。それに私が倒れたのは、ゴーレムさんの創成に魔力を使いすぎたからなんです……」


「魔力……?」


 創作物の中じゃよく聞く言葉だけど、ゴーレムになった自分の体を見せられた後では、その意味合いが違ってくる。

 この世界はまさか……俺のいた世界とは違うのか……?


「すいません……。そこのソファーまで連れていってください……」


「あ、ああ……」


 女の子を抱えてソファーに寝かせる。

 このソファーもポツンと1つだけ置かれているボロボロのものだ。


 それに女の子の体が異常に軽く感じるのは、この子がやせ細っているからなのか、それともゴーレムの体が持つパワーのせいなのか……。


「ありがとうございます……」


 ソファーに寝転んだ女の子はすぐに寝息を立て始めた。

 とりあえず命の危険はなさそうだけど、この子の置かれた環境がまともじゃないことはわかる。


「とにかく、一度外へ出よう……!」


 巨体を動かし、ボロボロの教会の外へ出る。

 そこに広がっていたのは……。


「うわぁ……なんだここは……!」


 見渡す限り、瓦礫がれきだらけの街だった。

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