第二十三話

 一柳は聞いた。


「大丈夫ですよ。ところで岩佐さんは、雄輝君にドローンの操縦を教えていらしたんですか?」

「はい、私は仕事でドローンの操縦をしているんですよ。そのことを雄輝に話したら興味を持ったので、先日ドローンを買って今、操縦の仕方を教えているところなんですよ」

「なるほど。ねえ、雄輝君。ドローンの操縦は上手くなりましたか?」


 すると雄輝は、口を尖らせた。


「まあね。でも、おじさんのせいで落ちちゃったよ」


 一柳は

「そうでしたね、すみません。おじさんたちはもう行くから、ゆっくりとドローンの操縦の練習をしてください。

 岩佐さんも、ありがとうございました」と礼をして、その場から離れた。


 新田は告げた。


「これで宿泊者は全員、把握できましたね。でも私は思うに怪しい人物は、いませんでしたね」

「うーむ、ドローンですか……」

「え? ドローンが、どうかしましたか?」


 一柳も告げた。


「いや、今はまだ何とも言えませんが……。ところで行きたいところが、出来たんですが」

「え? どこですか?」

「はい、私たちが泊っている部屋の階にある、廊下です」

「あ、なるほど」

「はい、早速、行ってみましょう」と二人はホテルの中に入った。


 エレベーターに乗り三階で降りると、正面に扉があった。『天空廊下の入り口』というプレートがあった。


 一柳は

「ふむ。ここで、いいはずですが……」と扉を開けた。


 すると白い金属製の廊下が伸びていた。さっき地上から見上げた物だった。二人は歩き出し、廊下の行き止まりまで行った。高さ一メートルほどの柵があった。

 柵には金属製のプレートが掛けてあった。それには『この天空廊下から、何ものにも邪魔されずに壮大な景色を、お楽しみください』と書かれていた。

 確かに、そこから見る景色は遮るものが何もなく、まるで空から森を見下ろしている鳥のような気分になれた。



    野上ホテル

天空廊下 |—|  折り紙の塔

 |—――|―|   |—|

 |—――|―|   |―|

     |―|   |―|

—————|—|———|—|——



 一柳は、つぶやいた。


「なるほど、そういうことかも知れません……」


 隣にいた新田は、聞いた。


「え? 何がですか、先生?」

「はい、折り紙の塔が動いた謎ですよ、分かったような気がします……」

「え? 本当ですか? 私にも教えてくださいよ!」


 一柳は、考えながら告げた。


「いえ、まだ仮説の段階で実証は、していませんからね。しかし私の仮説が正しいとすると、実証するのは相当、難しいですね……」

「すみません、全然、話が分からないんですけど……」

「そうですね。でも私の中では一区切りついたので、ちょっと部屋に戻ろうと思います」

「はい、そうですね。私も少し疲れましたよ……」


 一柳は、再び告げた。


「では、それぞれの部屋に戻って少し休みましょう。私も、ちょっとやりたいことがあるので」

「え? 何ですか?」

「後で説明します」

「はあ、そうですか。それじゃあ、それでいいです。私は、とにかく部屋で休みたいので」

「はい、それでは」と二人は、それぞれの部屋に戻った。


 部屋に戻った一柳は、キャリーケースから愛用のノートパソコンを取り出し、デスクの上に置いた。そして椅子に座りノートパソコンの文書作成ソフトを立ち上げると、小説を書き始めた。


   ●


『Aの推理ファイル』


 Aの声が、つい大きくなった。


「だから何で経費で落ちないんだよ! これは捜査に必要な物なんだよ!」


 銀縁メガネが良く似合う、経理課の女性職員は冷静に答えた。


「いいえ、タバコは捜査に必要な物とは考えられません」

「だからタバコじゃないって! 電子タバコだって! 今までの紙巻きタバコとは全然、違うんだって! 何度、言ったら分かるんだよ!」

「同じです。従来の紙巻きタバコと同じく、電子タバコも嗜好品です。嗜好品は捜査に必要とは、考えられません」

「だーかーらー、必要なんだって! 張り込みとかしている時に! つい吸いたくなるんだって!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る