第12話 イシドルの秘策
イシドルは悪魔の兵士たちが、倒された事の報告を受け、
また奴の仕業かと思うと、自制心が乱れ
殺気だっている男は立ち上がると、北の前ハウンド部隊養成所に向かって行った。
吹雪の中でも、猛る感情が、その冷たさを感じさせない程、言葉には出さないが、そのぶつけようの無い怒りが消える事は無かった。
イシドルはその施設につくと、施設の女警備隊長アクリーナ・バザロフと女警備副長キーラ・バーベリが出迎えた。
そして既に暖められている自室へと、足を運んだ。
そこから見えるマジックミラーには、天使が捕らえられている部屋が見えた。
ディリオスたちの予想通り、第六位の天使長であるウルフェルがいた。
「これはどちらの能力で抑え込んでいるのだ?」
「わたしの能力です。ですが、徐々に回復してきています。己を取り戻るのは時間の問題です」副長のキーラは報告をした。
「アクリーナの能力は通じないのか?」イシドルは豪勢な椅子に座りながら言った。
「はい。申し訳ありません。一番弱っている時でさえ、私の能力は通じませんでした」
「いかがなさいますか? 完全復活すれば、ここの施設を消し去る程の強者です。イシドル様しか、押さえこむ事しか出来ません。我々には、手に余る相手です」
「あの黒衣の男が、また我らの邪魔をした。そして、この天使には、二つの封印がある事が判明した」
「二つと申しますと、例の第四の勢力も封印されているのですか?」
「そうだ。何者にも扱う事の出来ない恐るべき獣よ」
「何者が封印されているのか、お分かりになったのですか?」
「いや、それは分からぬ。どこに出現するのかも何も分からぬが、封印されておる事だけは確かだ。故に、ここに置いておく事はできぬ。これからこやつを草原まで連れ出し、殺す。連れ出す準備を整えよ」
「わかりました。すぐに準備に取り掛かります」
もしもの時の為に、警備副長キーラも同行した。
しかし、もし復活すれば、命が燃え尽きるまで能力を使っても、再び抑え込む事は出来ないであろうと、キーラは思っていた。
最初は能力がバレていなかったから、抑え込めただけで、二度目が通じるような相手では無い事は、キーラが一番よく分かっていた。
第六位の天使を殺せるのはイシドルだけである以上、イシドルも同行するから安心できた。
一行が施設から出ると、すぐにサツキは気づいて、ディリオスの元へと向かった。
「ディリオス様! イシドルが動きました。そして天使の指揮官である、第六位の天使長も一緒に動いています」サツキの言葉を聞き、ディリオスは焦らず、読んでいた本を閉じると、熟慮に入った。
彼はイシドルはバレるのを承知で、天使長を連れ出した事に目を付けた。
天使長を操れる可能性は、元ハウンド部隊を育成していた二人の能力者の事を、リュシアンから聞いていた。「能力者は何人連れている?」
「イシドルを含めて二名だけです。どういう事でしょうか?」
「第六位の天使長と能力者二名か……悪魔の兵士は何名連れている?」
「悪魔の兵士は百名ほどです」
「奴め、面倒な事をやる気だな。それ以外に動きはあるか?」
「いえ。それ以外には動きはありません」
「わかった、ご苦労。高閣賢楼にいる者は高閣賢楼から動くなと伝えて、イストリア城塞にいる者や近くに出ている者は、急ぎイストリア城塞に戻るよう指示を出せ」
そう言うと、ディリオスは装備を整えだした。
サツキが言葉を発する前にディリオスが声を出した。
「ストリオスとの関係は良好か?」珍しくサツキが頬を赤らめた。
ディリオスはその顏を見て、微笑んだ。
「兄に聞いたのですか?」男は気持ちのいい顏をして、装備を整えながら頷いた。「別に悪い事じゃない。むしろ良い事だ。サツキは、皆への伝言を頼む」
入念に装備を固めている姿を見て、彼女は何が起こるのだろうと考えた。
「その様子では、分からないみたいだな。まあ、それくらいで、幸せをもたらすなら問題ない」
「一体何が起こるのですか?」
「厄介極まりない事が起こる。まあそれだけじゃないがな……現時点で、俺の次に強いのは誰か分かるか?」サツキはその言葉に、嫌な予感しかしなかった。
「ハッキリとはお答えできませんが、リュシアン様、カミーユ様、ネストルさんとセシリアさん、ブライアンさんも、それ以外の方々も皆さんお強くはなってます」
「一応、イストリア城塞にいる、手練れの者たちを、城壁に配備しておいてくれ」
「わかりました。何名ほど配備致しますか?」
「任務でついていない、全ての手練れだけを配備しておけ。俺の予想では悪魔の兵士は囮だ。このイストリア城塞まで悪魔の道を作り、誘導するつもりだろう。
そして、第六位の天使長は、第四の勢力を封印しているはずだ。
奴らは何者にも屈しない者たちだ。
逆説的に言えば、敵対する者は全て敵になる。
イシドルがどう動くかは今の所不明だが、ベガル平原で第六位の天使長を殺して出てきた奴を、悪魔たちにこのイストリア城塞まで、誘導させるつもりだろうが、既にそうなった場合の事も考えてある。
俺は現地で戦う事になるかどうかもまだ不明のままだ。イシドルの動きも警戒しなければならない」
サツキの表情から笑顔が消えた。
「それでしたら、高閣賢楼へ行っている者たちも、イストリア城塞に戻すべきではないですか?」
「そうだ。だが下手をすれば、高閣賢楼が狙われる。爺さんがいるならともかく、いつも通り結界を張ってるだろ? いるかいないか分からない状況で、高閣賢楼を狙われたら全滅することになる」
「確かに、結界を張っています……」
「結界を今も張っているなら、爺さんも多少状況が見えているようだな。状況はだいたい分かった。サツキはアニーに乗って、高閣賢楼にいる者たちに状況を説明してこい。奴らの動き次第では、この城壁で奴らを挟撃するつもりでいたが、高閣賢楼の爺さんの命に従え。更に結界を強める可能性がある。交信も爺さんが大丈夫だというまではするな」
サツキは曇り顔で頷いた。
「俺はどのみちイシドルの所に行くしかない。これは今まで一番不味い状況だ。すぐに行くんだ。地上では、何が起こるか分からないから空から行け」
「わかりました。精鋭だけを城壁の守りにつかせてから、アニーをお借りします。では行ってきます」
ディリオスは装備を整えると、時間の許される限り、ミーシャの元で色々話してから、セシリアに事情を説明して、自らは最前線に向かって走り出した。
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