第4話 不落のイストリア城塞
「アツキ、これから言う奴らを集めてくれ。ストリオス、アメリア、セロン、フィオガ、エヴァン、カゲロウ、クリオス、ブライアン、アンナ、トレヴァー、カミーラ、ネイサン、クローディアだ」
「わかりました」アツキはディリオスが名前を上げる事に、その人物に直接呼びかけた。「全員からすぐに来るとの返事がありました」
「分かった。アツキにも、俺の考えた防衛線の突破に、挑戦をしてもらう。見落としが必ずあるはずだ。実戦のつもりで仕掛けて来てくれ。見つかったらその時点で脱落だ。防衛兵は刃黒流術衆二十名だ」
「わかりました。久々で緊張します」ディリオスの復帰を最も喜んだひとりの中に、アツキもいた。
イストリア城塞自体、難攻不落と呼ばれて、それを見た者はその凄さを伝えて言っていたほど、この五重門の扉を持つ城塞は今まで、一度も落とされた事は無かった。
今回はあくまでも戦闘ではなく、侵入であるため、城門は問題無かった。それ以外の侵入者の境界線を強化そして改善する必要があった。
幻覚での侵入を許したにせよ、侵入された事は確かだった。相手が幻覚者だから仕方ないと、黙って見過ごすような男ではないと、皆が知っていた。
ディリオスが最初に考えたのは、得意分野でもある布石を数段階にひいて、それら全てを、大きなひとまとまりの布石にしようと、考えていた。
糸と糸を壁に結んで、鉄製の板を重なるようにして、響きやすいそれを警戒音にするものだった。通常は動物などを警戒させるものとして広く使われていたが、その中に同色の合金糸を合せることによって、普通のように切ろうとすれば、切れる事はなく、鉄製の板が城壁にぶつかり音が出る仕組みにしていた。
更に重ねた鉄と鉄からも音が出る為、ディリオスはこれを城壁内部の、昔のままの岩肌と同じ色にして、侵入成功した者の安堵感から来る油断を利用して作らせた。
イストリア城塞の正門から尋ねて来る人は、現在はもう殆どいなかった。カミーユやディリオスたちは皆、城壁にそのまま飛ぶ移るからだった。
彼はそれを良く知っていた。だからこそ彼は、城門に対しての配慮は一切せずに、自分たちと同じように、敵も飛び移って来る事を前提として、城門外と城壁と城壁内側の三カ所に罠を張った。
城壁内部はすでに出来ていた。ディリオスは城壁自体を今回挑戦させるカミーラ・アビントンに城壁全体を鉄化させた。これだけで音も無く近づくのは、非常に困難だと彼は思った。
最期の仕掛けは、設備されていない草木が生えている一帯に、薄い板を敷き詰めさせた。
そしてかれらに三時間の時を与えて、突破口を探させた。当然、城壁の二十人の者にはいつ来るかは知らせなかった。攻の者たちにだけ、三時間以内に侵入を開始と定めた。守の者たちはには、一カ月以内に来るとだけ伝えた。
両軍には、攻撃系能力者の直接的能力の攻撃は無しと定め、守のほうは見つけるだけで捕縛と見なす為と、現実的に配備されるのは、非能力者が主だったため攻撃を主とした能力の使用は、一切無しとした。そして両軍共に、幻覚、幻惑はありとした。
両軍は不思議に思った。幻覚、幻惑の能力者は、攻勢のネイサン・バルスだけであった。サツキもアツキも能力は高度な能力を使いこなすが、それらしい能力者は誰一人としていなかった。
サツキとアツキ、ジュンはすぐに謎かけだと気づいたが、作戦計画中であったため、後回しにしてしまった。
これにより両軍の均衡をある程度保った攻守の争いになった。攻撃部隊は三時間以内に作戦を決め、実行に移す事により、焦りと不安が出た。
サツキ、アツキ、ジュン、レガ等はディリオスの言葉で、いつも悩んでいた。言葉をどう解釈するか、即座に判断できるように、彼はかれらを人間同士しか分からない言葉を度々使っていた。今回もそうであった、その言葉は、今回は二つあった。
まずは、両軍には、攻撃系能力者の直接的能力の攻撃は無しと定めとディリオスが言った。この中で攻撃系能力者の直接的能力の攻撃という所が重要なものであった。
攻撃系能力者でなければ問題無く攻撃可能という意味を入れた。直接的能力の攻撃とは、罠等を張る能力者が意味さえ理解すれば、使用可能という意味であった。これに該当するのはレガであったが、レガは気づかなかった。
レガの能力は、石や土、水などに命を吹き込み兵士として戦わせる事ができるものだった。
ディリオスに似てはいるが、レガの場合は操らずに命を吹き込むため、身体精神の両エネルギーが必要ではあるが、レガが命令しなくても、レガの心で思う行動を自動でしてくれる。例えば(敵を排除しろ)と命じれば、レガが敵視している敵にのみ多才な技で戦い続けるものであった。
これは攻撃系能力者ではなく、仮にそうだとしても直接的能力の攻撃では決してない。ディリオスの言葉を、柔軟性を以て理解出来るようになれば、それらを上手く利用できるように、彼は皆に対して、言っていた。それは中位、高位の天魔に対する、人間独自の言葉でそれを伝える為の訓練でもあった。
そしてかれらが更に困惑したのが、幻覚、幻術はありだと言った点だった。攻勢のネイサン・バルス以外には誰も幻覚、幻術系能力者はいなかった。ディリオスは昔からまだ神木にいる頃からアツキやサツキに言っていたが、言葉をしっかりと理解する為に、理解する速度を上げるように指導していた。
ここでディリオスは一言も幻覚、幻術系能力者とは一言も言っていなかった。
しかし、かれらは言葉から勝手に幻覚、幻術が使えるのは、その手の能力者だと思ってしまった。レガの能力を使えば、十分な戦力になる。しかしこれも理解が及ばず、使用しなかった。
これはレガだけではない。他の者も同様であった。言葉をしっかりと解釈する事で戦局大きく変える事になる。仮にアツキの場合だと、彼の身分なら城内部の兵たちに城壁に集合せよと命じる事も出来た。しかし、自分の能力外だからという理由で、片付けた。
フィオガも炎を操る能力者であった。彼は攻撃系能力者であり直接的攻撃はできなくても、囮には使えると言う風には考えなかった。
柔軟な発想を持たせる為に、彼はかれらを鍛錬していたが、自分に迫るタイムリミットはいつかは分からないが、いつか来る事を考えると、口頭で教えるしか、もう時間が残されていなかった。
ディリオスの生い立ちから生まれたものだが、一度ミスをし、二度ミスをし、三度目のミスに対しては己に対する罰を考えていきてきた。それほどまでに重要だった。命の懸かったものだったからだ。そして彼はそれを忠実に守ってきた。
「サツキは第一陣の成果次第では、高閣賢楼に行かせるつもりだ。調べたいことがあるものも行かせる。強くなりたいのであれば、私が稽古をつけてやるから、ここに残れ。手強い仕掛けだ、皆心してかかれ」
そして防壁の守備隊長はレガに担当させ、一カ月以内に来るとしか伝えられていなかった。レガ防勢特務師団たちに、二度目の訓練の準備をさせた。一度目の敗北を活かす鍛錬に備える為、今度は隊長であり、一番強いレガの力を活かす戦い方を、主軸に置いて訓練すると伝えられていた。出発は一カ月以内だと、レガは皆に伝えた。
両軍ともに肌に突き刺さるような、ピリピリ感が伝わってきた。
ディリオスはその様子を、ミーシャの部屋から一緒に見ていた。
「どっちが勝つと思ってるの?」
「どっちでもいいさ。俺は奴らを、柔軟に、真剣に、鍛える場を与えるだけだ」
「それならわたしと賭けようよ」
「ミーシャから賭けなんて言葉が出るようになったか」
ディリオスは微笑んだ。
「俺は賭けられるものは、俺しかいないが」
「それそれ! それが欲しいの」
「もう俺はミーシャのものだと思っていたが、正式にってやつか?」
彼女は頷いていた。彼は左腕を出した。そして想い出に浸った。
これから全てが始まった。彼はミーシャの横に寝転んで、あの時の事だけを考えていた。ミーシャが八歳で泣いていた。まだ幼かった。俺には涙を流すミーシャを救いたかった。そこから始まった。
「俺が勝ったらどうするかなー。そうだ。俺に何があっても、俺の事を信じてくれ」
「それはいつも信じてるよ!」
「いや、何があってもだ。ここを忘れないでくれ」
「季節は時間通り巡っているようだ。春咲きに入った事だし、結婚しよう。約束とかじゃない。ミーシャの事を愛してるから結婚したい」
ミーシャは嬉しそうにベッドで丸まっていた。
「ただ先に安全度を高くする。桜が咲いたら結婚しよう」
彼女は喜びのあまり泣いていた。
「昔からよく泣くな」
ディリオスは良い顏で笑った。
「俺はダグラス王に報告してくる。ミーシャはセシリアと話でもしててくれ」
ドアを開けると、セシリアの視線の先にはミーシャがいた。
いつも喜んでいるが、いつも以上に喜んでいた。
彼女はそれを察知して前向上にはなるが、ディリオスに対して
「おめでとうございます」と言った。
彼も一応前向上にはなるが、カミーユもネストルもまた再び高閣賢楼に通わせる事にしたと言い、セシリアにそれを話すということは、自分も行っていいのだと解釈し、喜んでいた。
「二人で話でもしててくれ。俺はダグラス王に報告してくる」
彼は王の間のダグラス王の前まで行き、膝をついた。
「この春に桜が咲いたら、ミーシャと結婚しようと思ってます」
「それは実に喜ばしいことです。娘の事をよろしくお願いします」
「勿論。ご安心ください。ですが今は、このイストリア城塞の安全性向上と、カミーユ、リュシアンたち、人数はおそらく十五人から二十人を、再び高閣賢楼に行かせるお許しを頂きたく参りました」
「それほどの人数を行かせるのであれば、守備隊長の適任者はお決まりですか?」
「はい。私にお任せください。暫くは、かれらは皆通いたいはずですので、私の直属部隊を新たに増やして、波止場と城門一帯の防御は私が指揮を執るので、ご安心ください」
「わかりました。物資は手配させましょう。結婚式はいつ頃のご予定ですか?」
「春の芽吹きが過ぎ、花が開いた頃にしようと思っています。色々ありましたが……普段の私なら内に秘めるだけで、動揺はしません。それが指揮を執る者の務めです。ヨルグの場合は、特別だったと、ご理解ください」
「お気持ちは理解できます。再び立ち上がるのをお待ちしてました」
「ありがとうございます。それでは色々やる事がありますので、失礼します」
彼はダグラス王から見えない位置まで行くと、そのまま城門周辺が一望できる場所まで行った。レガに一月以内だとは言ったが、彼を良く知るレガは、初日を過ぎれば、それから三日か一週間以内だろうと思っていた。
その理由は、無駄な時間を使わせる訳がない事と、初日に来なければ、侵入部隊の経路で迷いが生じているからだと思った。そしてレガはミスを犯した。彼は不用意に部下たちに出発は一カ月以内だと言ってしまった。
これによりディリオスは、レガに対して、一カ月以内だと伝えている事がバレた。
サツキとアツキ、ジュンなど闘い慣れているものからしたら、大きな情報だった。
しかし実際には、侵入開始までに残された時間は少なかった。
このレガの発言が本当なのかどうかを思案してみたが、資源等の動員人数により本物だと判断した。そして行動に移す事に決めた。
バレずに侵入する為、レガが守備隊長にいる以上、ジュンの影も見つかると判断して、注意を引く作戦で行く事にした。エヴァンの能力とジュンの能力の組み合わせとブライアンの注意を引くためだけの破壊行為からの秒差でカミーユに城壁よりも硬度の高い矢にしてもらい、クローディアに城壁内部の壁へ等考えていたが、最重要課題であるのはディリオスの警報の三重トラップであった。
エヴァンの能力である瞬間移動も、彼は整備された道以外の場所には薄い板を敷き詰めていた。これにより移動に必須の印を窪みがある為、記すことが出来なくされていた。板自体も薄くしてあるため、上手く走らなければ、割れてしまうため、侵入組は苦悩していた。
侵入不可能ならそれは別に挑戦を諦めてもいいと、ディリオスは思っていた。
ただ、サツキやアツキや他の色々な使い手がいても、侵入不可能かどうかを確かめたかった。
時間だけが経過していき、ディリオスは城門から出てかれらのいる場所まできた。
「どうだ? 突破可能性はどのくらい自信がある?」
「全く付け入る隙はありません。これはディリオスさまお一人で考えたのですか?」
「そうだ。これより城内に移動する。お前たちには特別に色々教えてやる。高閣賢楼にはいつでも行っていいが、お前たちに稽古面だけで言うなら、俺も爺さんも変わらない程の差はある。後特別に、柔軟性が如何に大切かを指導してやる。俺の予測では、柔軟性さえあれば突破する可能性は五十%はあった」
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