二ノ巻エピローグ2  手がかりを握るのは


 平坂と黒田から話を聞いた後。

 崇春は腕を組んで息をついた。

「むう……つまり、何者から怪仏の力を得たんか、まったく分からんっちゅうわけか」


 うなだれたまま黒田が言う。

「ああ、誰かから渡された、それは間違いないんだが……誰なのか、どうしてそうなったのか……」


 平坂も首を横に振る。

「オレもだ、さっぱり分からねェ。記憶がそこだけ抜け落ちたみてェによ……気持ち悪ィ」


 斉藤まで同じようにうなだれる。その大きな背を、ちぢ込ませるように。

「ウス……オレのときも、同じ……ス」


 賀来が気づかわしげにのぞき込む。

「あー、その、斉藤くんまで気にせずともよいと思うぞ……そこで悩む必要は――」


 ふと、反応するように斉藤の眉が動く。

「悩、む……そう、ス……。悩んで、誰かに、それを――」


 黒田が顔を上げる。

「そうだ、誰かにそれを、相談した……のか? でも誰に、なぜ……」

 平坂が言う。

「相談てお前、そんなよく知ってる奴か? だいたい、斉藤も同じようなことあったってンならよ。どっちとも仲いい奴とか、相談するような共通の相手なんているのか?」

 黒田と斉藤は同時に首を横に振る。


 百見が小さく息をつく。

「まあ、そうだろうね。実は今朝、封じた阿修羅の記憶も――広目天の力で――映し出してみたが。それらしき記憶は抜け落ちているようだった。やはり、その人物の力で記憶が消されている……そう見るべきか」


 崇春が首をかしげる。

「むう? しかし妙じゃのう、昨日の阿修羅は、あのお方じゃの内緒じゃのと、その者を知っておるような口ぶりじゃったが」


 百見は鼻で息をつく。

「おそらく倒されるなどしたところで、記憶が消されるようになっているんだろう。まったく用心深いというか、厄介なことだよ」


 かすみは腕を組み、思わずうなる。

 まったく厄介で、歯がゆかった。誰かが、誰かが一連の怪仏事件に関わっている、それは間違いないのに。その黒幕があと一歩で分からない。

 逆に、分かる方法があるとすれば。怪仏か、それに取り込まれた人から聞き出すということか。その者を倒す前に、つまり怪仏の影響下にある状態の人物から。

 そう考えてため息が出た。

「無理ですよね、操られてる人から聞き出すなんて……怪仏から聞き出すなんてもっと無理ですし。倒してもない怪仏なんて、話してくれるわけ……ん?」


 自分で言って何かが引っかかる。どこに引っかかったのかは分からないが。

 どこにもおかしなことなどないはずだ、操られている人から聞きだすのは無理、怪仏からも当然無理。だいたい倒されていない怪仏なんて――


「あ」


 いた。

 何度も倒されたはずが、ちょっと光って消えてみただけだという、おかしな怪仏が。



(二ノ巻『闇に響くは修羅天剣』完――三ノ巻へ続く)

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