第23話:復讐

 わたくしはただひたすら馬を駆ってクウィチェルムに近づきました。

 近づくほどに邪魔をしようとする者が現れました。

 完全鎧を装備した騎士はもちろん、槍を持った兵士もしました。

 中には武器を振るってわたくしを殺そうとする者もいました。

 ですがまだ護りの奇跡が発動しているようで、わたくしに武器を向けた者は、全員その武器を自分の心臓に向ける事になるのです。


「クウィチェルム、わたくしを無実の罪に落とした復讐に参りました。

 その首もらいます、覚悟しなさい」


 クウィチェルムも何が起こっているか分からなかったのでしょう。

 あるいは恐怖のあまり逃げ出す事もできなかったのかもしれません。

 クウィチェルムが騎乗していたら、騎士の誰かが軍馬に鞭を入れて逃がしていたかもしれませんが、この日のクウィチェルムは馬車に乗っていました。

 金銀宝石を散りばめた、とても高価な馬車です。


 比較的気性の大人しい巨大な輓馬ですが、万が一にもクウィチェルムを乗せたまま暴走しないように、事前に安静の魔術をかけていたのだと思われます。

 わたくしとヨハンが騎士や兵士を殺しながら近づいても、全く動じず逃げようとはしませんでした。

 それどころか、優しい視線をわたくし達に向けてくれています。

 まるでクウィチェルムを早く殺してしまいなさいと言っているかのように。


 ドッカーン


 まだ効果のある護りの奇跡を利用して、馬車のドアを無理矢理開けました。

 ですがこの後使う事を考えて、城門のように破壊しないようにしました。

 開けたドアの中には、茫然自失となっているクウィチェルムがいました。

 護衛や話し相手がいるかと思いましたが、クウィチェルム一人です。

 クウィチェルムが寵愛している女性や子供がいなくてよかったです。

 一緒に殺す気は毛頭ありませんが、人殺しの現場を見るのは辛いでしょうから。


 ギャアアアアア


 わたくしは例え許し難い相手でも嬲る事はありません。

 敵であろうと、できるだけ苦痛を与える事なく殺すべきだと思っているのです。

 力ある者が、力ない者を嬲るのは美しくないと思っています。

 力ある者こそ、力の使い方に誇りを持つべきなのです。

 美しく力を使ってこその王侯貴族だと思っているのです。

 幼い頃に母上様を殺され、直接教えていただけた事は極僅かですが、その教えを考えると、そうしなければいけないように思うのです。


「マイロード、復讐を果たされた事、お見事でございます。

 逃げる者は追いかけない事にして、以前お教えいただいた通り、他国に行って豊かに暮らすための準備をいたします。

 馬を集め、死体から武具と衣服をはぎ取り、旅の資金にいたしましょう」


 ヨハンはわたくしのやり方を覚えてくれたようですね。

 いえ、これはチェンワルフのやり方でしたね。

 いつの間にか変な影響を受けてしまっているようです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る