第71話 規格外な賢者パーティー
71.規格外な賢者パーティー
「魔王配下、四魔公ワルダークと、この世界の覇権を競おうではないか」
ビビアの姿を借りて、その男は、かすかな笑みを浮かべる。
「四魔公か。魔王の部下には4人の従順なしもべがいるとは聞いていたが、それがお前か」
「その通りだ。王国に潜伏し、長年にわたって魔神の復活を画策し……」
だが、
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおお! 隙あり! なのじゃあああああああああああああああああ!」
「むっ!?」
バキイイイイイイイイイイイイイイン!
コレットの回し蹴りがワルダークの側頭部を狙う。ワルダークはかろうじて防いだ。
「凄まじい威力。だが、魔神ポセイドンを取り込んだ我ならば、これくらい防ぐことは……」
しかし、
「ぐっ……!? 勢いが殺しきれぬだとっ……!」
ダメージは通っていなさそうだが、その威力ゆえに、防御しながら空中へと勢いよく吹っ飛ばされた。
だが、
「別にあんなもん攻撃でもなんでもないわい」
コレットは何でもない表情で、
「ちょっと、ここはわしにとっては狭いからのう! 旦那様、外でやろうではないか! かかかかかかっ!」
そう元気よく言う。
その言葉に残っていた観客たちが、
「人一人を場外にふっとばしておいて、攻撃じゃないだって!?」
「アリアケ様が率いる賢者パーティーの力はどれだけすごいんだ……」
ざわざわと。
逃げ遅れていた観客たちが驚嘆の声を上げる。
だが、こんなことで驚いていては、これから起こることに果たして意識を保っていられるだろうか。
そんなことを心配してしまう。
そして、案の定、彼らのことなどお構いなしにコレットは叫び、
「神竜化! 竜の血脈よ! 力を呼び戻せ! グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン」
漆黒のゲシュペント・ドラゴンの姿へと変わった。
「ド、ドラゴンだとおおおおおお!?」
「な、なんなんだよこれ! 夢か!? 夢なのか!?」
「り、理解できない! 俺は目がおかしくなっちまったのか!?」
余りの規格外さに、自分の目が信じられなくなってしまっているようだ。
まあ無理もあるまい。
俺たちが規格外なのは当たり前。それよりも、だ。
「コロシアムの外で戦闘か。なるほど、名案だな」
俺はコレットの行動の意味をすぐに理解する。
アリシアやラッカライも冷静そのものだ。
俺たちはすぐにドラゴンへと姿を変えたコレットの背に飛び乗った。そして、一瞬後にはすぐに上空数百メートルへと飛び立ったのである。
観客たちは一様にぽかんとしているか、俺たちを指さしながら何かを叫んでいるようだ。
「凄すぎる」とか「規格外!」という声が聞こえて来る。
「もしや神様なのか!?」といった、よく分からない絶叫も聞こえて来るが、まあそれが一番真実に近いのかもしれないなぁ。
(まあ、そもそも、残念ながら勇者パーティーとの「御全試合でじゃれあい」程度ならまだしも、俺たちレベルが本当の戦闘をするならば、彼ら一般人に理解を求める、などということがそもそも無茶だろうからなぁ)
俺たちの「レベル」とはそういうものだ。
「スタジアムは俺たちのフィールドにしては小さすぎた。せっかく海洋都市に来たんだから、海の上でやるとしよう。アリシア、出来るな?」
「もっちろんですよ。アリアケさんのリクエストに応えなかった聖女さんがいたでしょうか? いいえ、ありません!」
彼女はそう言いながら、詠唱を始める。
そして、一瞬にして広大な海域に結界を敷いた。
海が大地のように踏みしめられる
「まるで地の創造だ……」
「やはり本当に神様たちなのでは……」
コロシアムから逃げた大衆の一人が、目ざとく、アリシアの起こした奇跡を目撃して唖然としていた。
だが驚くほどのことではない。
逆に、俺たちレベルになると、こうした特別な場所がなければ本気が出せないのだ。
つまり、
「必要だから作っただけなんですけどねえ」
困ったような表情でアリシアが言う。
ま、そういうことだな。
強すぎること。人の枠に収まらない規格外の才能。その弊害が意外なところで出てくるものだ。
だからこそ、まだまだ未熟な勇者パーティーが羨ましくもなる。自由に戦う、という自由があるのだからなあ。
弱いこともまた特権なのだ。
それはともかく、俺たちが海に臨時のフィールドを形成したことに気づいた者たちが徐々に増えている。
そして沿岸でこの戦いを見届けようと目を凝らし、声をからして俺たちを応援しはじめていた。
中には、こちらに向かって手を合わせて拝み始める者もいる。
(まあこれだけ神話級の奇跡を立て続けに見せられてはな)
仕方あるまい。
人智を超えた力ゆえに、奇跡のように見える。単に俺たちの力が凄すぎる、常識外なだけに過ぎないのであるが・・・。
そうこうしているうちに、俺たちはアリシアが創った海上フィールドへ、ゲシュペ
着地する前に、俺たちの戦うフィールドを、沿岸の者たちにもよく見えるように映像を送ることにした。逆に彼らの行動もこちらで分かるようにしておく。こうすることで、彼らも安心するし、また俺たちもいざと言うとき彼らを助けることが容易になるだろう。これくらいのことは俺にかかれば簡単なことだ。
俺たちはフィールドへたどりつくと、すぐそこに降り立った。
すると、先に吹っ飛ばされ、待ち構えていたワルダークがこちらに向かって、
「油断したわ! だが、我を海に
荒れ狂う大津波を魔術で顕現させた。
数百メートルの高さの波。これがそのまま都市を飲み込めば、壊滅的被害をもたらすことは明白なほどの、恐るべき大魔術だ。
海辺で俺たちの戦闘を見ていた大衆たちから、
「ひ、ひいいいい!? なんて大津波だ!?」
「逃げられない!?」
「ああ、世界の終わりだ……。あんなもの、神様にだって止められるはずない!」
そんな絶望の声が届く。
だが、俺は微笑みながら、冷静に指示を出す。
「ラッカライ、行けるな?」
「はい、お任せください、先生! では、アリシアお姉様! コレットお姉様! 手伝って頂けますか?」
「かわいい妹の頼み! いいですとも!」
「ぐおおおおおん!」
ラッカライの言葉に、二人は元気よく頷くと、
「黄昏の神エルキドゥ。血の流れに逆らいて、時の流れを逆巻いて。偉大な貴方の名において、我が聖脈を等しくすることをここに誓わん。
『ものみな眠る天空よ 蒼穹を飛ぶことぞ竜の本懐 空気の流れを頬に感じ 荒れ狂う嵐を笑い飛ぶ 震える大気を飲み干して 咆哮高く神を呼ぶ 赤き濡れたるひとみの奥に 戯れ遊ぶ うれしさよ
アリシアの蘇生すらも可能とする唯一の聖魔力と、神竜の末姫の与える加護が、聖槍ブリューナクへそそがれて行く。
それは神性の合唱のようなものだ。
そして、その間に俺はもう少し具体的な指示を出した。
これほど遠いのに視界いっぱいに広がる大津波、その左端を軽く指差しながら、
「ラッカライ、そうだな、だいたいあそこ辺りから……」
「はい」
「あの辺までだな」
そう言いながら右の端までツーと指でなぞる。それはほとんど地平線をなぞるような行為だ。
「分かりました」
とラッカライは淡々と頷きながら返事をした。
「あっちから、あっちまでの、全ての次元を、斬りますね」
彼女は何でもないことのように言うと、聖槍を構えたのである。
なお、
「次元を?」
「斬る?」
「???????? え?」
観客たちは混乱しているようだ。うーむ、配慮してこちらの映像を見せているが、逆に混乱させてしまったかもしれない。
あまりにも規格外なものを彼らは理解できないだろう。
それはともかく、
「
「わしの竜神としての魔力も存分に使うが良いぞ!」
「はい、ありがとうございます、お姉様がた。はあああああああああ!」
ラッカライはそう言って、聖槍を片手で持ち上げる。と、その瞬間、
『バチ! バチ!』
聖槍から紫電ともいうべき、魔力があふれ出す。
その紫電は渦巻くように聖槍ブリューナクを中心に恐るべき速さで回転しだす。
回転するごとにそれは2倍、4倍、16倍、256倍……。指数関数的にその威力を上げていく。
周囲の空気を吸収し、海の水を吸い込み、周りのマナを吸収してもまだ足りない。
ラッカライの聖槍の周りだけが、時空震のように鈍い裂帛音が断続的に鳴り響く。
「聖槍ブリューナク。それはあらゆる結界を斬ると言われるその槍の正体は、次元をも切り裂く神代からの聖遺物」
その真価は、槍と、その槍が放つ次元断の周囲のみに発生する特異点化にある。
すなわち物理の法則、魔法の法則を無視し、世界の構造そのものに干渉する力。
それこそが、
「≪必中付与≫。やれ、ラッカライ」
「はい! 先生! 喰らえ! いななけ! 聖槍ブリューナク! 7つの次元の1を断ち切れ!
ラッカライが聖槍を横なぎに払った。
その瞬間、「パン!」という風船が割れたような音がしたかと思うと、地平線に大きな割れ目がぱっくりと現れたのである。
まるで布をハサミで切った時のような光景。『だらり』と、今まで空だった部分が、布切れのように垂れ下がる。
そして、その割れ目の向こうには常闇が広がっていた。
「す、すごい……」
「空間が割れた……?」
「しかも、その中に数百メートルはあったはずの大津波が飲み込まれていく……」
観客たちの信じられないといったうめき声にも似た何かが、映像の向こうから響いた。
人間は信じられない光景を見たとき、言葉にすることが出来ないものだ。
聖槍スキル『次元断』。
無論これはラッカライだけで発現させることは難しい技だ。聖女アリシアとドラゴンの末姫の力があればこそ。
その意味で、彼女たちがしっかりと普段から連携し、良い仲間であること自体がある種の奇跡なのかもしれなかった。夜な夜な何か秘密の会談を持っているようだが、残念ながら男の俺は入れないのだが……。一体何を話しているのだろうか。
ま、それは今はどうでもいいことか。それよりも。
「さてと」
俺は一歩前に出る。そして茫然とした様子で、何とかさっきの次元断を逃れてきた、ずぶ濡れな様子の目の前の男に問うた。必中が津波を対象にしていたおかげで助かったな。
「どうする、魔神ワルダークとやら。あきらめて降参して牢屋に入ったらどうだ? 国家転覆を図ったんだから、四魔公か何か知らんが、牢屋の中で罪をつぐなうといい。ああ、あと、あの勇者パーティーにも謝っとけよ? 何かしらんが、迷惑をかけたんだろう? きっちり頭を下げて、詫びをいれるがいい」
「ぐ、ぐがががががが! ぎぎぎっぎぎぎぎぎいい! 人間風情がああああ!」
だが、ワルダークは、ビビアの表情そのままに、悔しいのか、憎々しげに俺を見上げると、言葉にならないとばかりに、醜い歯ぎしりを見せたのであった。
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