第44話 賢者パーティーの爽快なる戦闘

44.賢者パーティーの爽快なる戦闘




『ブボボボオ・・・ゴロズ・・・アリアゲエエエエエエエ!』


悍ましく、ガラスをひっかいたような不快な声が赤黒い球体のどこからか鳴り響いた。


ハインリッヒの怨念が捕食されてなおヘル・ミミックに残っているようだ。


その化け物に対し、俺たちは素早く戦闘態勢に移行する。


煉獄神殿のような狭い場所でコレットをドラゴン化するわけには行かない。ダンジョンを吹っ飛ばすなどバカのすることだ。そんな奴はいないとは思うが・・・。


どんな時でも状況に合った適切な戦闘方法・・・・・・・というものがある。


ポーターである俺を中心に、前衛にコレットが立ち、少し斜め後ろに大聖女アリシアが陣取った。


「局所戦だ。使える技もスキルも制限される。細かい支援がカギだ。離れすぎると俺の支援が遅れる。基本陣形を維持してくれ」


「はい!」「分かったのじゃ!」


「よし、まずは、≪時間制限付き無敵付与≫、≪時間制限付き素早さ向上≫、≪時間制限付き回避能力向上≫。コレット、最初は戦いすぎるな・・・・・・! 当てたら、逃げろ」


「ぬお!? よく分からん! じゃが、了解なのじゃ!」


「スキルの効果時間は17秒だ。時間制限がある分効果は通常より高い。次にアリシア」


「はい」


「今から16秒後に一旦スキルが切れる。その後10秒間俺の防御を頼む」


「了解です! あと15秒後に支援結界を張ります」


アリシアは、コレットではなく俺へ支援結界を張る理由を聞かない。


彼女だけが、勇者パーティーで唯一、俺の指示の意味をくみとりながら動けていた。


「よーし、いっくのじゃあああああああああああああああああああ!」


コレットが化け物へ突っ込んでいった。


俺のスキルの加護を受けているおかげで、触手の攻撃を回避しつつ、本体の赤黒い球体部分に迫る。


「どっせえええええええええええええええええええええいい!」


少女の細腕とは思えないほどの風切り音を上げて、化け物の体をえぐる。通常のモンスターならばこれで終わりという程の衝撃が神殿を震わせた。


『ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンッ・・・!!』


ブシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア! 


化け物の雄たけびと、赤い体液がまき散らされる。


「勝ったのじゃ! しかし『戦いすぎずに逃げる』なのじゃ!」


コレットは俺の言う事をちゃんと覚えていて、深追いせずに一歩距離をとる。


その瞬間、


『ガチイイイイイイイイイイイイイイン!!』


「ぬおおお、敵の傷口が・・・新しい口になっておるのじゃ⁉」


コレットのえぐった場所が、今はガチガチと歯を鳴らしていた。


「深追いしてれば腕一本行かれていたな」


「旦那様にはこれが分かっておったのじゃな⁉」


尊敬の目を向けられるが、


「そんなわけないだろう。ミミックだから、何かに化けてカウンターはありうると思っただけだ」


「いえ、それ普通に正解ですから」


アリシアが呆れたように言った。


「ん? そうか? 全然違うと思うが」


俺は首をひねる。アリシアはなぜか嘆息していた。


「ま、とにかく、再生能力は確認できた。まずは第1段階完了だ。スキル停止3秒前。一旦、陣形を立て直す」


「分かったのじゃ!」


コレットが後ろに大きく退こうとする。


だが、獲物を定めた化け物の触手は執拗に彼女を追った。


「ぬはははははは! 旦那様のスキルのおかげでまったく当たらんわい!」


コレットがすいすいと避ける。


しかし、そのせいでごうを煮やした触手が、突然俺にターゲットを変更した。


「なぁんとぉ⁉ 旦那様を狙うじゃとぉ⁉」


コレットが悲鳴を上げるが、


ガギイイイイイイインン!!


俺の1mm目の前で、凶悪な触手が暴れ狂っていた。だが、紙一重で俺には絶対に届かない。


「・・・0秒。作戦通りだ、アリシア」


『≪聖域結界セイント・オブ・ガーデン≫』


大聖女の結界は例え災害級モンスターですら阻む。まさに人類の守護者『大聖女』の名にふさわしい力だ。


が、俺がそんな風に感慨にふけっていると、


「いえ、アリアケさん。いい加減余裕のないスキル使用はやめましょうよ。私、心配で心臓が止まります」


どうやら、不服であったようだ。


「ハインリッヒの意識が多少残っていたようだし、俺を狙ってくることはお前も予想できていただろう?」


「いえ、そーいう問題じゃありません。もう。・・・だって、もしもアリアケさんに怪我でもあったらどうするんですか・・・」


「ん? 何だって?」


後半が聞き取れなかった。まあ、それにだ。


「アリシアのことを信頼しているから、問題ないさ」


「なっ⁉」


なぜかアリシアが絶句した。まずいことを言ってしまったのだろうか?


「・・・く~・・・、惚れた弱み~・・・。もう! なんでもありません‼」


何かブツブツ言いながら顔を真っ赤にした。


よく聞こえなかったが、どうやら、また怒らせてしまったようだ。


おそらく、デリカシーのない俺がまた何かしてしまったのだろう。


まったく、どうすれば、彼女に嫌われない様な男として、振る舞えるようになるのやら。


と、そんなやりとりをしているとコレットが、


「か・・・」


か?


「かっこいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」


なぜか目をキラキラさせていた。


「旦那様もアリシアも、秒レベルの予測をしながら戦っておるのか⁉」


そして何やら興奮していた。


「まあ、これくらいはな」


「こういう強敵の時は、むしろせざる得ませんね」


俺とアリシアはあっさりと答える。


「わ、わしもそれやってみたい! かっこいいからっ!」


興奮気味に言う。うーん、しかし、


「止めはしないが、面倒だぞ? それにこういうのは適材適所だ。全員がやる必要はないさ」


「やれんでも良いのか?」


いい、と俺は頷く。


「全体を見渡せる支援スキルや支援魔法使いがやればいい仕事なんだ。前衛がそんなことまでしていたらパンクする。それに、だ」


俺はにやりと笑う、


「コレットはちゃんと活躍している。お前のおかげで敵について分かったことが2つある」


「2つ? 1つではないのか? 再生能力があるという」


「1つ目はそれだ。驚異的な再生能力。そして2つ目は・・・」


結界の向こうの化け物を見据えつつ、


「『弱点』だ。”傷を傷のままにはしておけない”というな」


俺はそう言って敵殲滅のための作戦に着手したのである。

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