第12話 ~閑話 一方その頃、勇者ビビアたちは②~
「くそ、暗くてまったく先が見えねえじゃねえか‼ どうなってんだよ、プララ」
「ちょっ、ちょっと、怒んないでよ勇者様、一生懸命やってんじゃんか!」
「アリアケは簡単に洞窟一帯を明るくしてたろうが! なんで半径10M程度しか明るくできないんだよ!」
「・・・」
俺は怒鳴る。
俺たちは今、呪いの洞窟のダンジョンにいた。
アリアケと言う邪魔者を追い出して初めてのダンジョン攻略であった。いわば肩慣らしであり、簡単に攻略出来て当たり前であった。
だが、俺たちの空気は重かった。
「何だよ、なんで黙っちまうんだよ」
俺は不機嫌さを隠そうともせず言う。プララは黙りこんでしまった。くそ、一体何だってんだ!
「たかだか、洞窟中を明るくするだけだろうが‼」
そんな簡単なことを・・・っ!
だが、「はぁ」とため息の声が聞こえた。
今まで何も言わず、後ろから俺たちの様子を眺めていた聖女アリシアだった。
「そんなこと、アリアケさん以外に出来る訳ないでしょう?」
「・・・は?」
淡々とした言葉に、俺は思わず唖然としてしまった。
「馬鹿な・・・たかだか光で洞窟中を照らすだけで・・・」
「ダンジョンは外とは違います。ここは他の生物の体内と言っていい。ダンジョン自身の魔力で満ちている。異物である我々が使える魔法には一定の制限がかかるのです。その中でも”光”というのは最たるもの。なぜなら、諸説ありますが、恐らくダンジョン自身が我々の視野を奪うように仕向けているからです」
そう言ってから、更に続けて、
「アリアケさんもおっしゃっていたではないですか。聞いていなかったのですか? あの方の教えを?」
・・・そう言えば、そんなことを言っていたような気もするが、正直よく覚えていなかった。
「くそ! 役に立たねえ!」
俺は思いっきり悪態をついた。
そんなことは今までなかったから、プララをはじめ、他のメンバーが委縮する空気が伝わって来た。
くそ、役立たずどもが・・・。
ちっ。くそ、落ち着け。俺は勇者なんだ。選ばれた男なんだ。アリアケがいなくなって、少し勝手が違うだけで、こんなことはすぐに慣れる。
そうだ、そうだ。ははは、いや何を焦っていたんだ。たかだか光源がいつもより少し狭いだけじゃないか。
「いや、すまなかったな、みんな。もう大丈夫だ。プララも怒鳴って悪かった。さあ先に進もう」
できるだけ明るく言った。
「え、ええ、ええ! それでこそビビア様です」
「俺たちの勇者はさすがだな。すでに戦略を立て直したようだ」
「う、うん。ちょっと、びっくりしちゃったよ。もー」
よし、いつも通りだな。俺のリーダーシップにみんな何も言わず従う。
だが、
「大丈夫でしょうか? 視界を遮られた戦いに私たちは慣れていません。今まではアリアケさんがその最大の課題を取り払ってくれていましたが・・・。今回は、念のため一度引き返し戦略を練り直したほうがいいのでは?」
聖女が口をはさんだ。
「は?」
引き返す? 引き返すだと⁉
こんな冒険者ランクCレベルのダンジョンで引き返すようなことがあれば、戻ってから下々の人間どもになんていわれるか分かったものじゃない。国王からも失望されるだろう。
「そ、それは慎重論が過ぎるな。それに慎重も過ぎれば、逆に危険を招くことになる」
咄嗟に反論した。だが、言ってみるとそのような気がしてきた。そうだ、そうだ、敵に背を見せることは死につながることもある。
それに、と俺は続けた。
「俺は選ばれし男なんだ。これくらいのダンジョンで苦戦することなんてありえない」
そう言うと聖女は納得したのだろう、黙ってしまう。どうやら説得がきいたようだ。
よし、と踵を返し進もうとする。
「・・・返すことも戦略の一部だと・・・はおっしゃっていましたが・・・」
「ん?」
聖女が何かを呟いたように思って、俺はもう一度聖女を見る。
だが、聖女は何事もなかったように、口をつぐんでいた。そしてその視線は一切ぶれずに、10M先の暗闇を見つめていた。
プララの作る光源が届かない暗黒を。
そこから、今しも何者かが飛び出して来るのを警戒するかのように。
(何か聞こえた様に思ったが気のせいか。それにしてもこの聖女は心配性すぎるな。気配くらい俺たちなら簡単に察知する。『冷静でさえいれば』不意を突かれることなどありえないというのに)
そんなことを思いつつ、俺は今度こそ先を進み始めたのである。
「おい、デリア。同じところをぐるぐる回っているんじゃないか?」
「え!? そ、そうかしら?」
「まさか、道に迷ったのか⁉」
「えっと、いえ、その」
俺の言葉にデリアは焦った様子を見せた。
「地図があるのに何で迷うんだよ! 何度も来たダンジョンだろうが、ここは! それにまだ25階層だ。半分も来てないんだぞ⁉」
いつもなら一瞬で通過する程度の階層だ。
「で、ですけど、こうも暗いと自分たちがどこにいるのか、分からないんですよ!」
「はあ? たかだか地図を読むだけで何を大層なことを言ってるんだ・・・。それに、あのアリアケですら初見で案内できてたってのに」
俺は呆れる。
すると聖女が口を開いた。
「あの人が異常なだけです。マップだって完全ではなかったのに、その都度修正しながらナビゲートしてましたからね」
「だが、今はそのマップは修正して完璧だろうが!」
「マップはそうですね。ですが、明りが無ければ、見える光景は異なります。目をつむっているのと基本的には同じなのです。だから、道に迷うのはあたりまえです。ゆえに進むのはいつもの倍は慎重にしなければなりません」
彼女はそう言ってから、後ろを指さした。
「なんだ?」
「先ほど、以前見かけた壁の傷を発見しました。確か、そこを曲がれば下の階層へ続く階段があったはずです」
「さっさと言えよ! よし行くぞお前ら」
聖女に対してぞんざいな口をきいてしまう。だが、アリアケを擁護するような聖女の口調がいちいち癇に障った。
俺はそれをごまかすかのように足早にそっちへ向かおうとする。
だが、
「アリアケさんがつけておいてくれた傷ですね」
「は?」
俺は何を言われたのか分からず、おかしな声を上げてしまう。
「いざと言う時のために、アリアケさんがつけておいた傷ですよ。ダンジョンでいつもマップを見られるわけではありません。戦闘中や何かしらの緊急時には特に。ですから、自分なりの目印を作っておくのです。これもアリアケさんが講義していたでしょう?」
「ふん。そんないつ使うか分からないもんに、ご苦労なことだな」
「そうですね。ですが、今、役立ってます」
「そんなの偶然だろう!」
俺は思わず怒鳴り、先へ進もうと足を踏み出す。
「⁉ 止まってください!」
「はぁ、うるさいぞ! これ以上おれに指図・・・」
するんじゃねえ!
その後半の言葉が口から出ることはなかった。
『冷静でさえいれば』、その気配に気づかないことなど無かったろう。
だが、今は他の一部しか視界のきかないダンジョンの中、道に迷い、集中力は限界に達していた。
だから俺はそのモンスターからの一撃をもろに受けたのだった。
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