第33話 スサノオ
「なんだ?」
「あれ!」
「あれは」
そこにいたのは、あの少女だ。妖怪化による暴走。その顕著な状態で、少女は会議室の入り口に立ちはだかっていた。
「どうやって牢から出たの?」
ちゃんと連れて行ったよねと、白虎は朱雀に確認する。それに施錠はしっかりやったぞと朱雀は焦った。と、そんな慌てふためく二人に、少女は容赦なく先ほど放ったものと同じ、高密度の妖気を弾丸のように発射してくる。
「ヤバいぞ。かなり強い妖怪の力を得ているらしい」
朱雀たちが避けると同時に、他のメンバーも椅子から立ち上がって戦闘態勢に入る。しかし、あまりに強い力に、どうしたものかと焦りがあった。
「あれは、スサノオだわ」
そんな中、一人だけ驚愕の表情でそう叫んだのは、あの毒を操る宮津月乃だ。その月乃の身体から、少女に呼応するように妖気が立ち上る。
「な、なんだ」
「彼女は
「なんだって!」
天夏が明かした月乃の性質に、自由はとんでもない奴がいたもんだと叫んでしまう。
「八岐大蛇に
保憲は困ったもんだねと苦笑しているが、その目は真剣そのものだ。
「富士山やその他に封印されていたモノってことか」
自由も、そう考えろってことねと、あまりに敵が強大だと気づいて額に汗を浮かべたが、呪術を使うべく構える。
だが、少女は何かに気づいたように攻撃を止めると、次に、大きく跳躍した。
「なっ」
「えっ」
「きゃああ」
少女が飛びついたのは月乃だ。そして、小学生とは思えない力でぎりぎりとその首を絞めようとしている。
「な、なんでっ」
「止めなさい」
天夏が助けようとするが、そのパワーに弾き飛ばされる。
「くそっ」
鬼の力を持つ礼暢が殴り掛かるが、少女はあっさりと片手でその拳を止めてみせた。
「マジかよ」
妖怪化した人間の中ではかなり強い部類に属するはずなのに、まったく歯が立たない。その事実に、礼暢の顔が引き攣る。
「これは、今までにない事例のようだな」
保憲はそう呟くと、ポケットから呪符の束を取り出し、少女に向けて投げつける。
「ぎゃあああ」
獣のような咆哮を上げ、少女が月乃から離れた。
「月乃」
「わ、私は大丈夫です」
呪符が当たったところを押さえてのたうつ少女とは違い、同じく呪符が当たったはずの月乃は平然としていた。
「やはりか」
「どういうことですか」
思わず過去に引きずられて丁寧に訊ねてしまった自由だが、今は本気で何がどうなったのか教えてもらいたい。だから、ぐっと嫌そうな顔になるのを堪える。
「ふっ。簡単だよ。あれは妖怪だ。それも、本物のね」
「えっ」
「まさか」
思わず反論の声を上げた朱雀とサラだったが、お前らが言うなよと咲斗からツッコミを入れられることになる。
「妖怪化という性質だけを引き継ぐ人々がいる一方で、こうやって本物の妖怪になってしまう人がいたってことさ。これも、今まで対立していたから見えなかったことだろうね」
「そんな」
その指摘に一番驚いていたのは、強い力をもつ妖怪化した人間を束ねている天夏だ。
まさかこんな特殊事例が存在したなんて。
しかも見落としていたなんて。
その事実が信じられず、しかし、先ほど起こった呪符に対する反応の差が説明できずに戸惑っている。
「ぐあああ」
と、今はじっくりこのことをけんしょうしている場合ではなかった。呪符のダメージから復活した少女が、今度は保憲目掛けて攻撃しようとする。
「駄目」
その道筋にいたサラが咄嗟に飛び出す。すると、少女が弾かれたように飛び退いた。
「えっ」
「今度はなんだ?」
理解できない新現象の数々に、また驚きの声が上がる。しかも、これには保憲も戸惑っていた。
「サラ、大丈夫か」
その間に青龍がサラに近寄り、少女との間合いに入る。だが、少女はここにいるのが危険だと判断したのか
「しゃあああ」
威嚇するような声を上げ、そのまま窓の外へと躍り出た。
「なっ」
「逃げた」
「ちっ」
全員が窓へと駆け寄ったが、少女は遥か向こうのビルを移動している姿が目に入るだけだった。
「何なんだよ」
「どうなっているの?」
それぞれが戸惑いの声を上げる中、サラだけは、あの少女がこの混乱を収める鍵だと確信していた。
「私も人間から妖怪になった、特異な存在です。彼女との間に、何か関係があると思うんです」
戦いで壊れてしまった会議室から移動して、別の部屋に落ち着いたところで、サラは先ほどの、少女が触れられなかった事象について、そう考えを述べていた。
「確かにな。いくら今まで見逃されていたとはいえ、人間が完全に妖怪に変わってしまうのは、そう簡単には起きないはずだ。俺たちだって気づいてなかったし。っていうか、俺たち以外に妖怪がいないことを、不思議に思っていたほどだし。それにサラは、あれだろ。タイムトラベルの影響だし」
朱雀がどうなんだよとサラと、それから保憲と自由を見る。
状況を説明することは出来るが、それに対して明確な説明や理論を付けるのは人間にしか出来ない。
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