第31話 緊急対策会議

「つまり、ここには稀代の陰陽師が揃っているってことか。それは意図されたものなのか、それとも違うのか」

 混乱が収まったところで、色々と納得できねえんだけどと礼暢が割って入ってきた。それはそうだろう。誰だって意味が解らない。

「俺たちの生まれ変わりが重なるのは、どうやら天の采配らしい。だから、これは俺たちの意図というより、運命の悪戯だ」

 それに答えたのは、事態を正確に把握しているらしい保憲だ。昔から頭の回転が人よりも数段いい彼は、何かと物事を見抜いた後なのだろう。

「天の采配ねえ。じゃあ、こうやって妖怪化したり、呪術師の力が格段に強くなったのも、運命ってことか」

 礼暢は納得できねえなとさらに訊ねる。

「いや。それは様々なことが重なった結果だろうね。富士山の噴火によって霊力の封印がはじけ飛んだわけだけど、富士山が噴火するのは以前から解っていたことだ。そしてそれは地殻変動という科学の領域になる。しかし一方で、伝承を忘れ、霊的なものを勘違いとして追いやったせいで、正しい封じ手を忘れた人間の責任でもあると言える」

 保憲の説明は明確で解りやすい。礼暢も、少しは話を聞く態度になった。

「つまり、噴火や地震が吹っ飛んだ結界が原因ってことね」

 天夏も、根本原因について考えることに同意し、そう訊き返す。

「そうだ。そのあたりについては、そこの黒猫や式神たちが詳しい。どうだ? 一時休戦する気になったか」

 にやりと笑い、保憲は乗るかと訊ねる。

「ええ。そうね」

 乗るしかないでしょうと天夏は頷く。

「じゃあ、建物の中に移動するか。晴明、使える部屋はあるんだろ」

「ありますよ。って、晴明って呼ぶな」

「諦めろ。どうせ今の名前と使い分けるのが面倒になる。俺はさっさと今の名を使わないことにしたからな」

 保憲はすぐに慣れるさと笑い、さっさとビルの方へと歩いて行くのだった。




 ビルにあった長机とパイプ椅子、さらにはホワイトボードが用意され、即席の会議室が作られた。遅れてやって来た瑠璃はこの状況にびっくりしていたが、てきぱきと全員分の飲み物とお菓子を用意してくれた。

 こうして、初めてこの地で争っていた人たちが、落ち着いて話し合うことになった。司会進行役は、言い出しっぺの保憲だ。

「それぞれの言い分があるのは解っているが、まずは自分たちの力の源が何であり、今後何をすべきかを考えるのが第一だ。俺が調べた限り、俺たちが使っている力は、噴火や地震の影響で噴出した気によって強化されたものだ。つまり、元は己の身に流れているものだと考えて間違いない」

 ここまではいいかと保憲は会議室全体を見回す。

「呪術師が妖怪化しやすいのも、もともとは己の身に力が備わっているからだってことだな」

 それに応えるように、大江が指摘する。保憲は大きく頷くと

「そのとおり。つまり、根底には己の霊力というものが存在する。それが、周囲に溢れ返った巨大な気に翻弄されている状態だ。しかもこの気は陰の性質を帯びやすいようで、それが妖怪化という形に繋がっているんだ」

 ここまではいいかとサラたち式神を見た。

「それは間違いないと思います。そうでなければ、一般人というカテゴリーが存在することに説明が付きません」

 サラは合っていると大きく頷いた。

 そう、根本は自分たちに備わっているものだ。それに溢れ出した気がどう作用するかで、大きく力が変動する。自由たちと合流するまでは、呪術師は霊力が強化され、妖怪化した人間は妖力として体内で作用しているのだと思っていたが、そうではなかった。その身に溜まった気によって、性質が反転してしまうこともある。

 しかし、もともとが呪術師の性質を持つ人たちは、明らかに純粋な妖怪化した人たちと気が違うのも事実だ。つまり、呪術師として生きている人たちが生まれつき持っている気と、噴出した気は別物だということになる。

 それが、保憲の指摘した陰の性質を帯びやすいということになる。

 そこから推測できることは、呪術師は気に敏感で、内在する気とのバランスを保つのが難しいのだろうということだ。そして、その身に流れているのは噴出した気とは違い、神社などのような清浄な陽の気であるということ。

 一方、妖怪化した人たちは、その身に流れている気そのものが、もともと陰の性質に馴染みやすいものだったため、そのまま強化された形で発露した。呪術師や陰陽師の総てが人々を救うわけではなく、呪うこともあるように、彼らは呪いに近い力を使いやすいタイプだったのではないか。

「まあ、推論としては悪くないな。そもそも、気の噴出が起こったのは結界が消えたからだ。つまりそれは封じられていたもので、陰の気で間違いない。呪いとして働くというのは納得できる」

 サラの考えに、保憲は大きく頷いた。

「呪いねえ。なんか、納得できねえな」

 礼暢は自分の力が呪われたものだと言われたと感じたようで、むっとしている。

「人間は恨み、妬み、嫉みを持ちやすい。だからこそ、呪術師は普段から修行が必要なんだよ。欲望に忠実に動いている時点で、それは呪いの側だと考えるべきさ」

 それに対して、保憲は意地悪く言ってのける。それにサラはドキッとしたが

「確かに、このビルの一角にある清浄な結界。それを考えると、私たちの力は呪いだと言っても間違いないかもね」

 九尾の狐の性質を持つ天夏が納得できると割って入ったことで、ケンカに発展することはなかった。

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