第16話 ようやく…
「ちっ。ますます面倒臭くなったな。しかも、こんな大バトルの中に置いておいたら、一気に妖怪になっちまうぞ」
朱雀は素早く青龍に子どもを回収するように命ずる。
「させない!」
しかし、それにも妖怪化した少女が妨害してくる。しかも白虎と玄武にも攻撃してくるのだ。かなり厄介な敵である。
「あいつ、戦い慣れているな」
「朱雀は早く戻って。そこで降ろしてくれたらいいわ」
後方支援が中心のサラは戦力にならない。だから、この少女と一緒に身を隠しているのが一番だ。近くのビルの屋上に降ろして貰い、まずは少女が怪我をしていないか確認する。
「大丈夫? あっ、ここ怪我している。ばんそうこう貼っておくね」
「あ、ありがとう」
サラが肘に出来ていた切り傷にばんそうこうを貼ってあげると、少女は不思議なものを見るような目でこちらを見てきた。そして、疑わしそうにサラを見つめる。
「どうしたの?」
「あの。その、本物の妖怪っていうわりには」
「ああ。私は妖怪化した人間じゃないわよ。諸事情があって人間と変わらない部分も多いけど」
人間っぽい部分が疑問になったんだと、サラは察して説明する。それもますます人間臭いのだが、仕方がない。
実際、サラは元人間だし。
でも、現在起こっている妖怪化とはまるで違うわけだし。
案の定、少女は疑いを強めたようだ。じっとこちらを睨み、いつでも攻撃できるように気を溜めている。
「見てもらった方が早いわね。よっ」
仕方ないなと、サラは素早く黒猫姿へと変じた。これに、妖怪なんて慣れているはずの少女は目を丸くした。
「どう?」
猫のまま、人語で訊ねると、少女は呆然としていた。
「本物。本当に、本物だ」
まるで今までいるなんて想像しなかったかのような言い方に、サラの方が戸惑ってしまう。
「ほう。あの妖怪の仲間だな」
「っつ」
と、そこに第三者の声がして驚いた。が、視界に飛び込んできたその姿を見て、さらに驚く。
「晴明様」
いつの間にやって来たのか、そこにいたのは那岐自由だった。
正面から見たのは初めてで、そして、その顔があまりに出会った頃の晴明にそっくりで、つい、サラはそう呼んでいた。
それに自由は不快そうに顔を顰めたものの
「
まずは少女の体調を確認した。
「はい。大丈夫です」
貴志と呼ばれた少女はこくりと頷く。それに自由はほっと息を吐き出すと
「おい、猫」
と、今度はサラに呼びかける。
「サラ、です」
さすがに猫呼びはされたくないので、名前を告げておいた。すると、自由はますます顔を顰めたものの
「説明しろ。お前らは――認めたくないが、俺の前世から仕える式神だそうだな」
そう確認してきた。
「そうです。私は平安時代、晴明様が陰陽寮に入られてすぐの頃からお仕えしています」
サラはぽんっと人型に戻ると、真っすぐに自由を見つめて告げた。
自由は僅かに戸惑いを見せたものの
「妖怪の大ぼらにしては出来過ぎか」
諦めたように前髪をくしゃっと掻き上げる。
それは今までにない、那岐自由の癖だった。
サラは、やっぱり生まれ変わると少し違う人になるのよねと、懐かしくも寂しく思ってしまう。
「那岐先輩、彼女の言っていること、本当だと思います」
すると、意外にも貴志から助け船が出た。サラは驚くが
「だって、サラさん。愛おしい人を見つめる目をしてたんだもん」
と、貴志に笑われる。
「い、いと、愛おしい」
一瞬で見抜かれたことも恥ずかしいが、そう表現されるのはなおのこと恥ずかしい。サラは顔が真っ赤になってしまう。
「ほら。恋する乙女みたい。猫ちゃんなのに」
緊張が解けたようで、貴志がくすくすと笑う。それに、自由も毒気を抜かれたようだ。ふうっと溜め息を吐き出すと
「俺はあっちに加勢する。サラ、ここは任せたぞ」
そう言って、無意識に自由はサラの頭をぽんっと撫でた。
それに、サラは思わず涙が零れてしまう。
「お、おい」
「仰せのままに。妖怪化しそうな子どもがいます。その救助をおねがいします」
サラは慌てて涙を拭くと、状況を素早く伝えた。
「そういうことか。了解」
自由は聞きたいことが色々とありそうだったが、それを飲み込むと、バトルが続くビルへと目を向けた。そして、口の中で呪を唱えると、ひょいっと隣のビルへ飛び移る。
「凄い」
「ねえ。那岐先輩って突出した才能を持っているの。って、サラさんは知ってるわよね。まさか、安倍晴明か」
貴志はそこでサラににこりと微笑み
「私は
右手を差し出してきた。
サラもにこっと笑うと
「よろしく」
その手を握り返した。
これで、第一段階はクリアだ。瑠璃のおかげで、仲間になるという最も難しい部分がすんなりとクリアできたのは有り難い。
「どうか無事で」
そして、瑠璃と一緒に、戦いに向かった自由の安全を祈願するのだった。
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