第25話 ワイバーンと食料不足

あの後、ササリアと外で昼食をとり、教会の離れに帰ってきた。


自室に戻りベッドに横になる。


・・・


「ワイバーンを狩るのに銃が必要なのか」


総士郎は呟いた。




ワイバーンは人を襲う竜種と呼ばれる魔力を持った生物だ。体長15メートル以上、体重は推定で20トン以上。そんな生物が空中を自由に飛び回れるのは魔力を持っているからである。


厄介なのは魔力を持ってはいるが魔物ではないので、あまり好戦的ではないところだ。人を襲うがあくまでも食料としてなのだろう。


商隊が平原を進んでいたら馬車の馬や人を急降下の一撃離脱で攫っていく。


迎え撃とうとしても弓矢や投げ槍、魔法では射程が足りずに有効な打撃を与えることが難しい。


運良く有効な打撃を与えたとしても応戦などはせずにそのまま逃げ去ってしまう。そのため完全に仕留めることはさらに難しい。


そんなワイバーンが各地で大量発生している。


対抗手段がない商隊などは各地を移動することができない。


そして、その結果、流通網が完全に使えなくなってしまったようだ。




そうして分断されてしまった街、村は衰退してしまう可能性が高い。


なぜならそれぞれで得意な生産物に差があるからだ。


村のような人の少ない集落では、その周りの多くの土地を農地にできるため人口に対して多くの食料を得やすい。


逆に、街のような人の多い集落では人の住む土地が多く、農地の確保が難しくなる。居住地の外に農地を広げようとしても、畑仕事に移動時間が発生するため街の端から10キロメートル以上遠くには農地を広げるのは難しい。結局、人口に対して多くの食料は得にくい。


その代わり、農業以外の産業は行いやすい。例えば、服を作る場合なら、綿花から種を外し綿を作る人、綿から糸を紡ぐ人、糸を染色する人、糸を織って布にする人、布を縫製して服を作る人とそれぞれに関わる人が必要となる。


更に、赤い布を織る人、青い布を織る人、黄色い布を織る人、、、などと考えていけば、一軒の服屋の服にどれほど多くの人が関わっているかがわかる。


これを人口の少ない村で行うことは難しい。


そこで、行われるのが行商人などによって行われる交易、流通である。


商人は村で食料を買い付け街で売る。街で服などの生活必需品を買い付け村で売る。


これがワイバーンによって行えなくなったのだ。


まず、人口の多い街に食料不足が発生する。


村でも服などの生活必需品が手に入らなくなれば生活に支障が出てくる。


そして、その状態が長く続けば最終的には滅びるしかない。




ロシェの話では、シェンが滅びた原因は「緑の砂糖の入手が困難になり、水化の病で人口が減少したから」のように思えるが多分違う。


シェンはワイバーンの増加により100年前にはすでに食料不足に陥っていた可能性がある。


そして、その食料不足がシェンの住人の栄養不足を引き起こし、それが水化の病の発症率を押し上げ、人口減少を招いた。


推測だが、この推測には一応根拠がある。


それは祝福の泉の祝福の水が出るレバーの上に書かれている「NUTRITIVE SUPPLEMENT WATER」つまり日本語では「栄養補助水」の文字だ。


水化の病はいずれかの栄養が不足することで発症する病なのではないだろうか?


つまり、


シェンではワイバーンにより流通網が破壊され食料不足が起こった。


なんとか飢えを満たすことはできたが栄養バランスまでは満足に満たすことはできなかった。


栄養バランスが大きく崩れたことで水化の病の発症率が跳ね上がった。


ワイバーンの増加により緑の砂糖の入手も困難になり死者が増え、表面上はそれが人口減少の原因に見えた。


そういう流れが推測できた。




「テラクタが本当に人の住む最後の土地である可能性もそれなりに高いな」


総士郎はため息をついた。


テラクタには海畑があり、街としては高い食料生産能力を持っている。


そのため今でも人々の生活が成り立っている。


しかし、それも危ういバランスの上に成り立っているような気がする。


30年前のように、もう一度、大きな疫病が蔓延すれば、シェンと同様に都市機能の維持ができなくなり一気に滅びへの道を転がっていく可能性があった。


「急いだ方がいいのか?」


総士郎は呟いた。



コン、コン、コン


部屋の扉をノックされた。


「ササリアです。ちょっと来ていただけますか」


「わかった。今、行く」


ベッドから起き上がり、台所兼リビングへ行く。


「教会から魔物の素材などが届きました」


部屋の床には大きな麻袋が6つ置かれていた。


「こうして見ると結構量があるな」


「ここに置いておく訳にもいかないので部屋に片付けていただけますか?」


「俺の部屋にか?分配はどうするんだ?」


「私は祝福の水をあれだけの量頂いたので、これらは全てソウシロウさんのものにしてしまおうと思うのですが」


「うーん、流石にそれは申し訳ない気がするな。あと、本堂の絨毯を拝借した分くらいはササリアがとったほうがいいんじゃないか?」


地下迷宮には急遽行くことになったため絨毯を準備できず、この教会の本堂から拝借していた。


「あと、素材の使い方や、売りに行くにしてもどこで買い取ってくれるのかと、その相場もわからないから教えて欲しい」


「なるほど、そうですね。そこら辺のお話もしたほうがいいですね」


と、いう訳で素材を一つ一つ見ていくことにした。


二人はテーブルのいつもの席に付く。


「まずは魔石ですね。極小サイズのものが44個、小サイズのものが2個、中サイズのものが1個ですね。買取りだと極小サイズのものが銅貨8枚程になりますね。小サイズのものが銀貨1枚、中サイズのものが銀貨5枚程になります」


「コレって何かに使えるのか?魔力を持っていると言っていたが」


「魔石を左手に握って魔法を使えば、使用する魔力を軽減することができます。魔力酔いが起こるまでの魔法の使用回数を増やすことができますね」


「結構、便利な気がするな」


「極小サイズでイム級、小サイズでホウ級、中サイズでジク級の魔法1回分の魔力消費を軽減してくれます」


「、、、俺には不要だな」


「ですね。換金してしまうのがいいと思います。教会本部の近くに魔石を専門に扱っているお店がありますのでそこで買い取って貰えます」


「ササリアは使わないのか?」


「私もいくつかはストックはしてあります。でも、今回、私は魔法を使いませんでしたから」


「なるほど」


次に大きな鉄の剣と盾が2つずつ。アイアン・スケルトンのものだ。


「なんか普通に使うには無骨な感じがするな。デザインのほぼ全てが直線でできてるからか?」


「そうですね。そのまま人が使うにはやや難ありとして素材としての値段しか付かないと思います。でも、材質はいいので全部で銀貨10枚にはなるでしょうか?職人街に金属素材の買取をやっている店があります」


「値段は結構するんだな」


「今は良い鉄は不足しているので交渉や売りに行く場所次第でもっと良い値を付けてくれるかもしれません」


次にアイアン・スケルトンのボディが2つ分。


「これも鉄として買い取ってもらうしかないですね。一体分で銀貨20枚くらいですかね」


そして、次は大ムカデの、、、


「それをテーブルに乗せないでください。あと、袋からも出さないでください」


ササリアは総士郎が大ムカデの外骨格を取り出そうとしたところで言った。顔が少し怖い。


「それは50センチ四方と大きくて質も良いものですので1枚が銀貨5枚から10枚にはなりますね。売りに行く場所は難しいですね。職人街なら買い取ってくれる店はあると思いますが高く買い取ってもらおうと思うと足を使う必要があるかもしれません」


外骨格は地下迷宮にあと30枚は残していたので、それも剥いでくればよかった、と、思ったがササリアの前では発言をひかえた。


「あと、ソウシロウさんがそれを持ってるのは少し変なのでロシェ様の偽装工作がどうなったかが確認できてから買取りなどに出してくださいね」


「そうだな」


最後に角の生えた兎の角が5本。


「これは薬や香の材料になりますね。一本銅貨10枚くらいですね。薬屋さんが買い取ってくれます」


「安い相場で考えても全部で銀貨100枚を超えるな、、、」


「改めて数えるとすごいですね。でも、普通はこうはならないです」


「そうなのか?」


「まず、重量の問題ですね。アイアン・スケルトンが装備無しで一体100キロ程になりますから5人で分担し、一人20キロ程が持ち帰ることができる限界になります」


「それだけだと一人銀貨4枚にしかならないのか」


「はい。次に、大ムカデも本来は地下4階に出てくる魔物と言われています。地下4階には行くだけで最低4日かかりますし、危険も多いので銀貨100枚でも割に合わないと考える人が多いです。もちろん、これも重量などの制限があり一人が銀貨100枚分の素材を持ち帰るのはかなり困難です。それらが西の地下迷宮にほとんど人がいない原因ですね」


「そう考えると「浮く絨毯」は地味だけど役に立つ魔法なんだな」


「そうですね。でも、実用レベルの使い手で危険な地下迷宮に付いて来てくれる人はほぼいませんから」




その後、話し合いの結果、絨毯代と報酬として銀貨20枚をササリアの取り分と決め、素材の現金化ができた後に渡すことになった。


そして、麻袋全部と買い取る形になった絨毯を総士郎の部屋に運びこんだ。


その結果、部屋がかなり狭くなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る