ナイチンゲールは夜に啼く

Garm

Dia.1「救世の徒、断絶する糸」

「ねえ、何してんの。行こうよ」

「……何処へ?」

「何処って、……私たちが住んでた街へ」

「まだそんな夢を見ていたのかい」

「夢? バカ言わないで、君を解放するために私は」

「要らないよ」

「え」

「要らない。安寧なら此処にあるだろう」

「は?

 ……本気で、そんなことを言ってるわけ?」

「そうとも。僕はいつだって本気さ」

「目を覚ましなよ!

 家族も待ってる、アイツらも君のことを本気で心配してるんだ、それでも君はッ」

「だから何?」

「……え?」

「だから、なんなの?

 帰るなら君だけで帰りなよ。僕は此処にいるから」

「ああ、もう。

 君の意思なんて関係ない。君は私と一緒に帰るんだ」

「随分と、身勝手だね。それが何を意味するのか、本当に分かってる?」

「……キミ、いつの間にそんな目をするようになったんだい」

「強いて言うならさっきかな」

「……はぁ。

 ……、分かってる。君を連れ戻せばまた同じことが起こる。今度は、タダじゃ済まないかもしれない。だから自分のところでそのサイクルを断ち切る。そういうふうに考えているんだろう」

「そこまで分かってるなら早く手を離」

「離せるわけがないだろう!?

 君以外が一人死んで悲しむほど私は薄情じゃないんだ!

 知らない誰かより、私は知ってる君を優先する!」

「身勝手だ」

「ああ身勝手さ! でもね!

 人間ってのは誰しもそうだろう!」

「いや。

 ……僕は違う。君達とは違う。

 自分のために誰かが死ぬなんて許せない。

 それに、どうせはぐれ者だった僕が役に立てるんだ、命ぐらい投げ出すさ。もっと言うなら、ここでの生活はいいものだ。僕を傷付けるものはなんにもないからね」

「そんなの、つまらないだろう?」

「いいや、僕はこっちの方が好きなんだ」

「おかしいだろ」

「決めつけは良くないなぁ」

「……本気で、言ってるのか……?」

「僕のために泣いてくれる人っていたんだ。少し嬉しいな」

「はぐらかさずに答えろよ、なぁ!」

「……うん。もちろん本気さ」

「はァ……。本当に、救えないな」

「元々救われる気なんてなかったしね」

「……。」

「けどまあ、少し寂しいかも」

「だろうね。泣いたってもう知らないよ」

「まあきっと、そのうち忘れる」

「……そうだね。じゃあ、──」

ッ」

「……見たところここじゃあ、時間は経過しないと見た。

 神様アイツに飽きられるまで、その痛みで私達を思い出すようにしてくれたまえ」


「……はァ。

 ……はは。ははははは、ああ、ああ、ああ!!

 なんて……、───なんて残酷な事をするんだ、君は。」

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