第3話 義妹との生活
母さんの再婚がほぼ確実に決まり、俺に義妹が出来た。
――――どうしてこんなことになった。
母さんの再婚相手がまさか同じ高校で同じ部活の後輩の父親になると誰が想像しただろうか。こんなことが起こる確率、絶対に年末宝くじの十億円が当たる確率と同等のレベルだろ。普通ありえないだろ。
……そして俺と莉緒は今同じ家にいる。リビングでこれからの生活についての会議をしていた。俺達の仲が悪いことを知った母さんの命令で一ヶ月間、二人っきりで生活しなければならなくなったからだ。
「先輩、絶対に私に近づかないで下さい。変な菌が付くので」
「変な菌ってなんだよ、俺はゴキブリか?」
「いえ、ゴキブリ以下です。『ゴキブリ殺りん』でも撃退できないクソ厄介です」
今まではあくまでも「後輩」という立場をわきまえていたのか、「義妹」になった途端から俺に対する扱いがエスカレートしてきた。
「母さんの話聞いただろ?俺達仲良くしなくちゃいけないんだぞ?」
「友梨佳さんの話はちゃんと聞いていました。でもクッソ厄介とは絶対に仲良くしたくありません。私のプライドが許しません」
頼むから、そのクソ厄介って止めない?俺別に何も悪い事してないし。ライブ会場で「イエッタイガー!」とか叫んでないしさ。
「一体そんなに俺のなにが気に食わないんだよ」
「全部です」
「もっと具体的な答えをくれよ。それじゃ会話になんねぇよ、子供じゃあるまいし」
「……そういうところです」
莉緒は俺のことを鋭い視線で睨み指さした。
「……は?なに人のこと指さしてんだよ?」
「先輩のそういう上から目線の口調が気に入らないんです」
「先輩なんだからそりゃ、上から目線になるのはしょうがないだろ」
俺は当たり前のことを言ったつもりだったが、莉緒は反論してきた。
「そんなわけないでしょ!先輩は私が入部当時はそんな口調じゃありませんでした!最初はめちゃくちゃ優しかったですよ!?今じゃ月とスッポンですよ!」
「そんなの知らねぇよ!お前だってそうだっただろ!素直で礼儀正しく優しくて『可愛い女の子』だっただろうが!」
「……先輩……いま……なんて……いいました?」
「あっ?素直で礼儀正しくて『可愛い女の子』って言ったんだが?」
「わ、私のこと、可愛いと思ってたんですか……?」
莉緒が少し動揺した様子で質問してきた。
「可愛いと思って何が悪い。俺はお前みたいな金髪ツインテールを世界で一番愛しているんだ。その容姿だって申し分ないし、お前の性格が整っていたら間違いなく告ってた。お前は俺の探していた最高の美少女だ」
「……なんで……いま……そんなこと言うんですか……先輩は馬鹿ですか」
莉緒は頬を赤らめ、左手で口元を隠してそっぽを向いてしまった。
「でも、もう莉緒は義妹になっちゃったし彼女に出来ないのは本当に残念だ。また別の金髪ツインテール美少女を探さねば――」
「……先輩、一つ聞きたいことがあるんだけど」
先ほどまでとは違い、なにかを決心したのか莉緒が真剣な表情をしていた。
「兄妹になったわけだけど、なんて呼ばれたい……?」
「え?それ今聞く?」
「いいから!早く教えてください!」
「……そうだな、やっぱり『お兄ちゃん』って呼ばれるのが一番かな!金髪ツインテールの妹に呼ばれるのも俺の夢だったんだ!」
俺がどこかのラノベの設定にありそうな事を言うと、「そっか」と小さな声で莉緒が呟いた。しかしそんな事聞いて一体どうするつもりなのだろう、俺の性癖を洗いざらい吐かせるつもりなのか……?
だが、次に莉緒から出た言葉で俺は天国へのチケットを手に入れることになる。
「……お、お兄ちゃん、これから、よろしくね」
「え、莉緒、お、お前何言って……」
「べ、別に勘違いしないでよね!お兄ちゃんが呼んで欲しいって言ったから呼んだだけなんだからね!」
莉緒は顔を真っ赤っかにして二階への階段を全速力で駆け上がっていった。
「あ、あいつ、いきなりどうしたんだ……?てか、これからの生活についての会議はどうするんだよ。頼むから戻って来てくれ」
この短時間での莉緒の変わりように俺は呆然とするしかなかった。あんな莉緒今まで見たことが無かった。少し背筋が凍り付くような感じがした。
だが、俺は何故か金髪ツインテールの義妹に「お兄ちゃん」と呼ばせる事に成功した。おまけにツンデレも拝めた。もうやり残したことないのではと思ったが、この義妹との生活はまだ始まったばかり。
今まで見れなかった莉緒を見れると思うと心のワクワクが止まらない。
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