第26話 サバイバル試験⑬(追い掛けられる試験官達)

 オークロードの案内でログハウスに戻ってきたボクが最初に見たもの。

 それはログハウスを警備するオークロードだった。


「あれーっ! 豚ちゃん達、進化してるー!」


 正直驚きだ。

 ちょっと、ダンジョンコア見学に行っていたら、ログハウスを警備していたオークキングが、オークロードに進化していた。

 一体、ダンジョンになにが起きたのだろうか?


 バトちゃんとポメちゃんが心配になり、ログハウスの中に入ると、そこには――。


 ――そのままの姿でグースカピーと花提灯を作り眠るバトちゃんとポメちゃんの姿があった。


 近寄って頭を撫でると、バトちゃんは『触るな、ハゲ』と言わんばかりにブルブル鳴き、ポメちゃんは『眠いよー』と言わんばかりにクーンクーンと鳴く。


 よかった。この二匹に目立った変化はないようだ。


 しかし解せない。

 ほんの少しダンジョンコア観光をしていただけで、何故、こうもダンジョン内が様変わりしてしまったのだろうか?


「フゴッ、フゴッ(まあ紅茶でも飲んで一息入れましょう)」

「うん。そうだね。豚ちゃん!」


 ひたすらに眠るバトちゃんとポメちゃんを放置し、オークロードの煎れてくれた紅茶を口に含むと一呼吸入れる。


「うわぁー! これ、すごく美味しいねっ!」

「フゴッ、フゴッ(はい。ダンジョンで取れる最高級の茶葉を使用しております)」


 鼻を抜ける爽やかな香りに独特の風味。

 これを飲んでいると周りの変化なんてどうでも良く思えてくる。


 暫しの間、茶葉の香りに酔いしれていると、ログハウスの外から悲鳴が聞こえてきた。


『うるさいなぁ』と、ティーカップをテーブルに置き窓から外を見ると、そこにはモンスターの群れに追い掛けられている冒険者達の姿が目に映る。


 モンスターとの追いかけっこかぁ……。

 昔、修行の一環でやったなぁと感慨深く思っていると、オークロードが肩を叩く。


「フゴッ、フゴッ?(あれ、助けなくていいんですか?)」

「うん?」


 もしかして、なんで助けないんですかとか言ってる?

 なんで助ける必要があるのだろうか?


「これって、試験だよね? だったら助けたら駄目じゃない?」


 その時点で、試験終了になっちゃうよ?

 助けを求められたなら助けるけど、それ以外なら……ねえ?

 ボクが助けたことで、試験失格となり逆恨みされても困る。


 だからこそ、こういう時は助けを求められるまでは助けてはならない。

 それが人族の常識だと、故郷でそう父様と母様に教わった。


「フゴッ、フゴッ?(そういうものですか?)」

「うん。そういうものだよ。人間っていうのはね。君達の種族と違って面倒臭い種族なのさ……」


 変に介入して助けては逆に糾弾される恐れがある。

 それが人間だ。

 だからこそ、ボクは基本的に彼方から助けを求められない限り介入しない。

 バトちゃんやポメちゃんがお願いするなら別だけどね?


 窓からモンスターの大群に追い掛けられている冒険者達を尻目に、オークロードの煎れてくれた紅茶を啜っていると、『助けてぇぇぇぇ!』という叫び声が聞こえてくる。


 ……でも、まだ余裕そうなんだよなと、傍観を決め込んでいると先頭を走る女装姿の試験官、ローレンスさんがボクに視線を向けてきた。


「お、お願いだから助けてくれぇぇぇぇ!」

「ああ、それ、ボクに言ってたのね……」


 てっきり、他の人に言っているのかと思った。

 だって、森の中に、結構強そうな力を持った人達がいるみたいだし……。


 試しに、冒険者達を追い掛けるモンスター達の目の前に『挑発』の呪符を投げ浮かせ、それをそのまま森の中に突っ込ませると、森はまるで蜂の巣を突いたかのような騒ぎとなった。


 モンスター達に追い出され森から出てきたのは、冒険者ギルドの試験官の皆さん。

 どうやら皆、冒険者達がモンスターに追い掛けられている様をずっと注視していたらしい。

 見習い冒険者達が危険に陥れば、試験官が助けに来てくれる。

 このサバイバル試験が始まる前、試験官が言っていた言葉だ。

 きっと、試験官達も助ける隙を伺っていたのだろう。


 しかし、それにしては少し機を伺い過ぎている気がした。

 ぶっちゃけ、見習い冒険者達はもう限界そうだ。

 だからこそ、ボクが助け舟を出すことにした。


 ごく自然に冒険者ギルドに雇われた試験官が見習い冒険者達を助けることができる状況を用意してあげたつもりだったんだけど……。


「た、助けてくれぇぇぇぇ!」

「なんで、モンスターがこっちにっ!」

「し、死ぬ……。も、もう駄目……」


 ――といったように、マクスウェルさんやローレンスさんとは違う試験官達まで逃げ惑っている。


 仕方がない。


「……豚ちゃん。あの人達を保護して上げて」


 そうお願いすると、オークロードは少し戸惑った表情を浮かべる。


「フゴッ、フゴッ?(えっ、あれを私がですか?)」

「うん。そうだよー?」


 いま、試験官と見習い冒険者達を追い掛けているのは、ダークドラゴン、ホワイトドラゴン、レッドドラゴンの三体。そして、その眷属っぽいドラゴン型モンスターの大群だ。


 あれ位であれば、オークロード達が協力すれば倒せると思うんだけど……。


 そんなことを思いながら首をコテンと傾けると、オークロードが苦笑いを浮かべた。


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