第8話 冒険者ギルドカフェー勘違いの始まりー①

「へ、へえー。あんた、それどうやったんだい?」

「えっ? 『縮小』の呪符を貼っただけですけど……?」


 普通のことだよね?

 ボクの住んでいた土地では、呪符を用いた生活様式が普通だった。

 それはどの町でも変わらないと思うんだけど……。


「へ、へえ? そうなのかい?? 随分と変な場所で育ったんだね」

「そうですか? ボクが育ったところではこれが普通だったんですけど……」

「ま、まあいいさ。それで何泊希望だい? 宿泊料金は一律銀貨五枚だよ」

「えっと、それじゃあ、十泊でお願いします」


 亜空間から小金貨五枚を取り出すと、マッチョンお姉さんに手渡す。


「はいよ。十泊だね。それにしても、あんた、今、どこから小金貨を取り出したんだい? もしかして、それがユニークスキルって奴かねぇ?」

「ユニークスキル?」


 なんだろう?

 ユニークスキルって??


「おや、違うのかい? てっきり、そうだと思ったんだけどね。ユニークスキルっていうのは、人が独自に持つ特殊なスキルの総称さ。まあ、私も持ってないし、詳しいことはわからないんだけどね。ほら、これが部屋の鍵だよ。無くしたら鍵代として小金貨一枚請求するからね。無くすんじゃないよ」

「はい。気を付けます」


 そう言って鍵を受け取る。

 鍵を手に取ると一号室と書いてあった。


「その部屋があんたの泊まる部屋だよ。うちは朝食も夕食も付かないからね。食べるなら外で食べてくるんだよ」

「わかりました。それじゃあ、ポメちゃん、バトちゃん。早速部屋に入ろうか」

「ブルッ、ブルッ」

「キャン、キャン」


 相変わらず、何を言ってるのかわからないけど、部屋のドアを開けると中に入ってくるから、多分、ボクの言ってる事は通じている筈だ。


 腕の中で暴れるバトちゃんを放してあげると、我先にベッドへ飛び乗った。


「キャン! キャン、キャン!」


『ここは私のベッドよ!』と言わんばかりに、ポメちゃんがバトちゃんに向かって吠えている。

 しかし、我が物顔でベッドを占領するバトちゃんは離れない。


「まったく、バトちゃんもポメちゃんも……」


 そう言って、バトちゃんをベッドから抱き抱えると、そっとペット用ベッドに運んでいく。

 すると、バトちゃんが信じられないといった表情を浮かべた。


「……ここはボクが寝る場所だよ。バトちゃんとポメちゃんはこっち」


 一応、ボク以外がベッドに潜り込めないよう『立入禁止』の呪符をベッドの四方に貼り付けるとバトちゃんとポメちゃんが、ブルブル、キャンキャン鳴き出した。


 滅茶苦茶うるさい。もし、ここがペット可の宿じゃなかったら、追い出されているところだ。


「バウッ、バウッ!」

「キャン、キャンキャン!」


 それにしても、この二匹。『隷属』の呪符を付しているのに全然、効かないな……。

 仕方がない。


 モンスターの躾をする時は、どちらが強い存在なのか見せつける必要があると、聞いたことがある。

 バウバウ、キャンキャン鳴くバトちゃんとポメちゃんの前で、亜空間から妖刀ムラマサを取り出すと、二匹の鳴き声がピタリと止んだ。


 二匹の様子を見ると、心なしか怯えているようにも見える。


「二匹ともこれ以上騒いだらメッ!だよ?」

「バ、バウッ、バウッ!」

「キ、キャン、キャンキャン!」


 少しだけ妖刀ムラマサから瘴気を流すと、二匹ともペット用ベッドに潜り込んでしまった。少し脅し過ぎただろうか?


「それじゃあ、バトちゃんとポメちゃんはここで待っててね。ボクはこれから冒険者ギルドに行ってくるから」


 身分証は大切だ。

 身分証がないと、また町に入る時に面倒な手続きをしなければならない。


 ペット用ベッドに潜り込んだバトちゃんとポメちゃんを後目に部屋から出ると、鍵を閉めて宿の外に出る。


 確か、門番さんは、あっちの道をまっすぐ進んだところに冒険者ギルドがあると言っていた。門番さんが言っていた道を直進していくと、一際高いレンガ造りの建物が見えてくる。


「これが冒険者ギルドかな?」


 盾と剣のマーク。酒場も併設されているようだ。

 ボクの頭の中にある冒険者ギルドの知識と一致する。

 絶対にここが冒険者ギルドだ。


 中に入ると「いらっしゃいませー!」と声がかかる。

 どうやら冒険者ギルドには、ウエイトレスさんがいるらしい。

 初めて知った。


「お一人様ですか?」

「あ、はい。冒険者ギルドに登録したくて来ました!」


 元気よくそう答えると、ウエイトレスは笑みを浮かべる。


「なるほど、冒険者ギルドに登録しに来たんですね。わかりました。それでは、席に案内しますね」

「あ、はいっ」


 緊張しながらウエイトレスに着いて行くと、何故かテーブルに案内される。

 そして、メニュー表のようなものを渡されると、「ご注文がお決まりになったらお申し付け下さい」と、そう言われた。


 ウエイトレスはそう言うと、注文票を持ってやってくる。


「お待たせ致しました。ご注文をどうぞ!」

「はい。それじゃあ、水をお願いします」


 メニューの中にそれ以外、頼めそうなものがまったくない。

 あるのは酒と酒のつまみばかりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る