第6話 エイシャの町に入町①

「……陛下。前皇帝が残した負の遺産の処理及び土地の接収が完了致しました」


 ここはアクバ皇国の皇宮。

 代替わりした新皇帝アクバ六世は、仕事の手を止め安堵の息を吐く。


「……そうか。よくやってくれた」


 前皇帝であるアクバ五世が謎の死を遂げ一ヶ月。新たな皇帝として即位したアクバ六世は、占術士にアクバ皇国の吉兆を占わせた。


『……前皇帝陛下が各地に撒いた呪物をすべて土地ごと接収なさい。さもなくば、この国は近い将来滅びの時を迎えるでしょう』


 実績ある高明な占術士ニセーメイがそう占ったのである。

 民は弱い。国あっての民だ。

 民が安心して生きることのできる世を作るためならばと、私はそれを聞きすぐ行動に移した。


 各地に兵士を派遣し、占術士の指定した土地の接収。そして、全ての呪物の回収を断行したのだ。


「……呪物を一箇所に集めニセーメイ様に検分を」

「はい。既に検分を依頼しております。一ヶ月程で見分が終わることでしょう」

「そうか……。しかし、土地の接収。民は驚いただろうな」


 私がそう言うと、大臣達は恭しく頷いた。


「……ええ、しかし皇国の土地は全て皇帝陛下の物。それを民から取り上げるのは、当然の権利にございます」

「そうか……」


 国法でそうなっているのであれば問題はない。これで国が安定すればよいのだが……。


「……して、占術士の言う通り、土地ごとすべての呪物を接収したのだろうな?」

「はい。間違いございません呪物はすべて接収致しました。後のことは、ニセーメイ様に任せておけば問題ないかと……」

「ふむ。ならばよいが……」

「まずはニセーメイ様の検分をお待ちしましょう」


 宰相は皇帝に対してそう言うと、頭を下げ部屋から去っていく。


「私の代で国を滅ぼす訳にはいかないのだ。土地を接収された民よ。悪く思うなよ……」


 窓を見つめながらそう呟くと、空に暗雲が立ち込めてきた。



 ◇◆◇


 ポメちゃんとバトルホースのバトちゃんを連れ、町の門に並んでいると、バトちゃんがボクに頭を擦り付けてくる。


「どーしたのバトちゃん?」

「ブルッ、ブルッ(腹が減った。食べ物をくれ)」

「うーん……。ああ、そうか!」


 何を言ってるのかわからなくて戸惑ったけど、バトちゃんのこの仕草、きっと、ボク達に自己紹介を促しているのだろう。


 ボクはバトちゃんの頭を撫でながら、自己紹介を始める。


「そういえば、自己紹介がまだだったね。ボクは呪符使いのリーメイ。こっちがポメラニアンのポメちゃんだよ。バトちゃん。これからよろしくね」


 ハッピースマイルを浮かべながら、バトちゃんに話しかける。

 すると、バトちゃんが体当たりをかましてきた。


「う、うわっ。もう。痛いなぁ……」


 どうやら自己紹介をせがんでいた訳ではないらしい。


 体当たりが痛かったので、バトちゃんの頭に拳をごっつんこすると、バトちゃんがなにを求めているのか、改めて考える。


 バトちゃんがなにを考えているのか……。

 うーん。中々、難しい。


 とりあえず、喉が渇いているのかなと思いバトちゃんの目の前に亜空間から取り出したフードボウルを二つ置き、その中に水と果物を入れていく。

 すると、バトちゃんはフードボウルに顔を突っ込み果物を食べ始めた。

 どうやらお腹が空いていたらしい。


 ポメちゃんも尻尾を振ってボクを見つめている。

 ペットの世話は飼い主の義務。

 ポメちゃんの目の前にも亜空間から取り出したフードボウルを二つ置き、その中に水とお手製クッキーを入れていく。

 すると、バトちゃんと同様、フードボウルに顔を突っ込んだ。


 ポメちゃんとバトちゃんが食事をしている間、クッキーを摘まんでいると、列が動き出す。フードボウルを少しずつ動かしながら列に並んでいると、ようやく、門の前まで辿り着いた。


「キャンキャン(もっとクッキー頂戴)」

「ブルッ、ブルッ(もっと果物をよこせ)」

「えっ? もうお腹いっぱい? そうだよね。それじゃあ、そろそろボク等の順番が来そうだし、列に並んで待とうか」


 キャンキャン、ブルブルと鳴くポメちゃんとバトちゃんの頭をワシワシなでて、フードボウルを下げると、『洗浄』の呪符をフードボウルに付し亜空間に収納する。


「キャンキャン!」

「ブルッ、ブルッ!」

「はいはい。わかったから、静かにしてようねー」


 フードボウルを下げてからというもののポメちゃんとバトちゃんが騒がしい。

 これでは門に並んでいる他の人達に迷惑だ。

 あまりに騒がしいので『鎮静』の呪符を二匹に付すと、二匹は借りてきた猫のように大人しくなった。


 それから二十分位待っていると、ようやく、ボク達の順番がやってくる。


「お待たせして申し訳ございません。通行許可証か冒険者ギルド等の身分証はお持ちでしょうか?」


 随分、腰の低い門番さんだ。


「いえ、どちらもありません。許可証か身分証がない場合、どうしたらよろしいでしょうか?」


 住んでいた土地から離れたことがなかったから、町の入門に身分証が必要だとは知らなかった。正直、予想外だ。まあ考えてみれば当たり前のことか……。


「そうですか……。それでは、こちらの水晶に手を乗せて下さい。犯罪歴を確認し、通行料として銀貨一枚を頂けれは町に入る事ができます。バトルホースと……。ドイチェスピッツの子供? に関しては、町で暴れぬようモンスター専用の首輪を付ける必要がありますので、別途、銀貨四枚手数料がかかりますが……。よろしいでしょうか?」

「はい。問題ありません」


 亜空間に手を突っ込み銀貨五枚を取り出すと、そのまま門番さんに銀貨を手渡す。

 すると、門番さんは驚いたかのような表情を浮かべた。

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