第55話 お疲れ様会
「お疲れさまでした勇者様、ミストルティア」
既に光の塵となりつつある大魔竜ドラグバーンを横目に、安心しきったリュスターナがのほほんと告げる。
「リュスターナもお疲れ」
「リュスターナさんおつかれー」
「それにしても最後はすごかったな。まさか≪ホーリー・ビーム・ピンポイントレーザー≫を反射させて後ろから狙い撃つとは思いもよらなかったよ」
俺は勝負を決定づけたリュスターナを手放しでほめるとともに、頭をポンポンと優しく撫でてあげる。
「えへへ、ありがとうございます」
「ベリーナイスなアイデアだったよねー。さすがリュスターナさんだよ」
ミストルティもうんうんと頷いた。
「あれが無かったら間違いなく負けていた。サンキューな。どうやって思いついたんだ?」
俺はずっと気になっていたことを聞いてみた。
「戦闘を観察していたんですけど、大魔竜ドラグバーンが≪ホーリー・ビーム≫を避けた後に、その行く先をまったく見ていないなって思ったんです。あ、これ跳ね返したら後ろから当たるんじゃないかなって」
「ふへぇ、そんなところまでよく見ていたな」
「実はですね。メイリンから、
『はっきり言おう。リュスターナの戦闘力じゃ大魔竜ドラグバーンと直接戦うことはできない。だからその代わりにしっかりと相手を観察するんだ。戦っている本人には分からなくても、外から見ていれば分かることもあるからね。特に敵の目だ。目は口ほどに物を言う』
って言われてたんです」
リュスターナがメイリンの口調を上手に真似た。
意外と演技派だなリュスターナ。
声質まで似ていたぞ?
美人だし日本に生まれたらアイドル声優になれるんじゃないか?
そして俺は専属マネージャーをやるのだ。
ふふっ、いいな。
実にいい。
「しかしメイリンのやつ、まさか最終決戦がどういう展開になるかまで見通してたのか? いやまさかな……でもありえそうだから怖い……」
「まさに天才軍師の面目躍如ですね。ちなみに反射技≪プロテクション・ミラーリフレクタースタイル≫も、メイリンに言われて練習していたんです。分散や収束がさせられるなら反射もできるんじゃないかって」
「もうそれ天才っていうか予知能力者じゃないか? 実は未来が見えてるんじゃない?」
「かもしれませんねぇ」
俺のボヤキにリュスターナがなんとも曖昧に微笑んだ。
ま、まさかリュスターナは真実を知っているのか!?
メイリンは本当に予知能力を持っているのか!?
聞いてみたいけど、俺が尋ねることを予知したメイリンにあらかじめ口止めされているかもしれない。
そして秘密を知ったことも予知されてしまった俺は、世界を裏で操っていたメイリンにこっそり暗殺されて――。
「もうおにーさん、そんなに細かいことばっかり気にしてたらハゲるよ? もっと大らかにいこうよ? 強敵を倒した! ボクたちは強い! ハッピー! イェーイ!」
「ほんとお前はノリが軽いよな。あと俺はハゲないからな。絶対にな。絶対にだ!」
男が最も恐れるもの。
それが年齢とともに襲い来る薄毛の恐怖である。
この世界に育毛剤(もしくは育毛スキル)があることを切に願う。
「それはそうと勇者様。大魔竜ドラグバーンを倒したことを早く陽動部隊に知らせに行かないとです。もう人とドラゴンは戦わなくていいんですから」
「おっとそうだったな。早く伝えて戦闘を終わらせないと。ミストルティア、俺たちを乗せていってくれるか? 実を言うと俺、力を使い過ぎて結構ヘトヘトでさ」
正直、今から陽動部隊がいるエリアまで飛んでいくのはかなりしんどい。
「うーん、ボクもちょっとお疲れなんだけど……でもがんばるね!」
そう言ってミストルティアがドラゴンの姿に変身しようとした時だった。
『皆さま、さぞやお疲れでしょう。ここはどうぞ、わたくしの背中にお乗りください』
突然そんな声が聞こえてきたのは。
「なんだ?」
「ど、ドラゴンです! しかも超上位種の……!」
声のした先に視線を向けると、そこにはキラキラと七色に光る美しいドラゴンの姿があった。
穏やかな口調ながら、その身体に秘められた気配は強大の一言だ。
俺は反射的に
よりにもよって、ここで上位種ドラゴンかよ。
正直戦う力なんて残ってないぞ?
だがもう俺たちは戦う必要はないんだ。
なんとか説得をして戦わずに済ますんだ――なんてことを必死に考えていると、
「あ、ハイペリオルドラゴンじゃん。久しぶり、やっほー!」
ミストルティアが軽ーく手をあげながら、のほほーんと挨拶をした。
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