第41話 俺は希代のクズ勇者

『なぜだ、なぜ……なぜついさっきまで敵同士で全力で殺し合いをしていた奴らが、こんなにもぴったりと息を合わせることができるのだ……』


 力のないかすれた声で呆然とつぶやくギガントドラゴンに、


「逆なんだよな」

 俺はギガントドラゴンへの冥土の土産に、俺たちの勝利の鍵を説明してやることにした。


『逆……だと……?』


「ずっと2人で全力で戦ってきたから、ぴったしタイミングを合わせられたに決まってるだろうが」

「そうだよねー♪ お互いに動きの癖は十分ってほど分かってたもんね♪」


『ふっ、そういうことか……そんなことにも気付けないとは、オレ様もまだまだだったようだな……だが結局のところキサマらは大魔竜ドラグバーン様には勝てん。あのお方は特別なのだ』


「負け惜しみかよ? んなもんやってみなきゃ分かんねぇだろうが」


『いいやすぐに分かるさ。大魔竜ドラグバーン様はこのオレ様ですら次元が違うと恐怖する圧倒的な強さなのだ。ま、キサマらは言っても聞かんだろうがな……』


「もちろん聞くわけなんてないな」

「ボクとおにーさんの力を合わせれば余裕だし!」


『くくっ、今のうちにせいぜい吠えておくがいいさ……そして絶望しろ……オレ様はキサマらが絶望の淵で無様に敗北を喫する様を、あの世でとくと見物させてもらうとしよう……』


 最後にそう言い残すと、ギガントドラゴンは聖なる光に焼かれて光の粒子となって消えていった。


 最後に不安を煽るようなことを言われたが、ラスボスが強いのは当然だろ?

 それがなんだってんだ。

 俺は光と消えたギガントドラゴンのいた場所から、隣にいるミストルティアへと視線を向けた。


「正直死んだかと思ったよ。一緒に戦ってくれてありがとうミストルティア。感謝してる」


「ううん、ボクは自分の気持ちに従っただけだから気にしないで? せっかく気持ちよく戦ってたのに、邪魔された上にあんなズルされたら許せないよね、まったく」


「ミストルティアはほんとズルが嫌いなんだな」


「戦いは正々堂々やらないとだよ。おにーさんもあんまりズルしちゃだめだよ? わざと体勢を崩したあれ、すっごくズルなんだからね! 今度やったら怒るからね!」


「なんかその言い方だと、また元気になったら俺と戦うってことか?」

 また何時間も全力で殺し合いとか、正直勘弁してほしいんだが?


「ううん、もうおにーさんとは戦わないよ」

 だけどミストルティアは大きく横に首を振った。


「それは助かるな」

 俺は心の底からそう思ったんだけど――、


「だっておにーさんは未来の夫だもん、死なせるわけにはいかないからね♪」

 ミストルティアがいきなりそんな爆弾発言を投下したのだ!


「は? 未来の夫? なんだよそれ?」

 何の脈絡もなく婚約宣言された俺は思わずミストルティアに問い返した。


「なんだよそれって、だってキスしたでしょ?」

「え? ああおう。したけどそれがどうしたんだよ?」

 信頼の証とか言われていきなりされたアレな。


「ドラゴンのキスはつがいになるって意味なんだから」


「つがい……って夫婦のことだよな?」

「うん」


「え、夫婦? はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?????????????????」

「はぁぁ?ってなに? まさかおにーさん、ボクとのことは遊びだったの!? ひどい!!」


「遊びも何も、一方的にお前の方からキスしてきたんじゃないか。そもそも俺には既に、リュスターナっていう未来の妻がいてだな」


「それがどうしたの? ボク知ってるよ? ハーレムって言って、強い人間のオスはたくさんのメスを妻にするんでしょ? おにーさんもそれをすればいいじゃない?」


「俺とリュスターナは純愛系カップルだからそういうのはちょっと……リュスターナも嫌がるだろうし……」


 俺のことを好き好きなリュスターナに『こいつはハーレム2号のミストルティアだ、これから仲良くしてくれな』とか言えるわけないだろ。

 さすがのリュスターナも切れるわ。

 下手したら刺されるまである。


「じゃあボクがリュスターナさんって人に話してみるね。お城からおにーさんと一緒に出てきた綺麗な人だよね? 顔は覚えてるから」


「ちょ、やめろ馬鹿! ただでさえ2号さんとかマズい話なのに、それを女同士で話させるとか俺完全にクズムーブじゃないか」


 ガチでクズ過ぎてヤバイ。

 希代のクズ勇者リョーマ=オクムラとして俺は後世の歴史家に断罪されるに違いない。


「じゃあおにーさんから話してくれる?」

「だからそもそもハーレムなんて作らないって言ってるんだが……」


「つがいになる儀式までして、戦闘でいいように利用するだけ利用して、要らなくなったらポイなんて、おにーさん酷いよぉ……」


 うぇぇぇっっ!?

 なんかミストルティアがさめざめと泣き始めてしまったんだが!?


「え、これ俺が悪いの……?」

「うっ……ぐす……ひぐっ……」


 嘘ぉん!?

 っていうか女の子に泣かれた経験なんてないから、俺どうしたらいいか分からないんだけど!

 誰か助けて!? と周りを見渡したものの、ここにいるのは俺とミストルティアの2人だけ。

 誰も助けてくれる人などいない。


 そもそも男女関係のこじれを第三者にどうにかしてもらおうという時点で俺はもっとクズになってしまうだろう。


 だから、

「とりあえずお友達から始めるってことでどうかな?」

 にっちもさっちもいかなくなった俺が、そう妥協案を提示したのはこれはもう仕方のないことだった。

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