第39話「ガーン!?」

『やれやれ、もはや話し合いの余地はなさそうだな』


「ふーんだ、もう決めたもんね! ギガントと話し合う余地なんてないよーだ!」


『いいだろう。ならば今この瞬間より、キサマはドラゴンの敵と認定する! そして勇者ともどもこの場で葬り去ってくれるわ!』


「そんなこと言って、ギガントはボクに勝ったことがなかったはずだけど?」


『くくっ、それは疲れていない時の話だろう。今のキサマが、勇者同様に疲れ果てているのはわかっているのだぞ?』


「へへーんだ! それがどうしたっていうの? ボクとおにーさんの絆の力なら、そんなもの簡単に乗り越えられるんだから! ねっ、おにーさん」


「え? いや突然そんなこと言われても……」


 急に始まったミストルティアとギガントドラゴンの激しい討論の行方を静かに見守っていた俺は、突然話を振られてしまい困惑を隠せないでいた。

 いやほんとなぜそこで俺に振るんだ?


「ボクとおにーさんなら、どれだけ疲れていてもギガントなんて余裕で倒せちゃうよね!」

 なんかやたらといい笑顔で言われたんだが、ちょっと待って欲しい。


「そもそもミストルティアに人類の味方をするとか言われても、イマイチ信用しきれないんだが……」

「ガーン!?」


『ガハハハッ! それ見たことか! しょせんドラゴンと人の間に絆など生まれぬのだ! しかも勇者とドラゴンの姫の間になどなぁ!』

 俺とミストルティアのやり取りを見てギガントドラゴンが高笑いする。


「おにーさ~ん……」

 ミストルティアが捨てられた仔猫のような顔をして俺を見つめる。

 なんで俺が悪いみたいになってんだよ?


「そんな顔で見るなよな。そもそも俺たち、ついさっきまで何時間も全力で殺し合いをしてたわけだろ? なのにいきなり力を合わせるとか言われてもさぁ……」


「ええっ!? でもボク知ってるよ?」

「知ってるって何をだよ」


「人間って、拳を交えたら分かり合える種族なんでしょ? それってまさに今だよね?」


「微妙に斜め上に人間文化に詳しいな……そりゃそういう奴らもいるんだろうけど」


「それにほら、よく考えてみて? 何もしなければおにーさんはここでギガントに殺されるだけなんだよ?」

「それは、まぁそうだけど」


「だったらボクと一緒にギガントを倒した方がいいでしょ? 簡単な話だよね? 悩むことなんてある?」


 ミストルティアの中では、俺と協力してギガントドラゴンと戦うことはもう既定路線のようだった。

 だけど俺の中では、ミストルティアをそこまで信頼していいものか正直怪しくはあるんだよな。

 なにせついさっきまで敵同士として殺し合いをしていたのだ。

 信用も信頼もしようがない。


 でもま。


「たしかにどうせこのままだと殺されるんだ。だったら騙された時はしょうがないと思って、ミストルティアと協力してみるのもありっちゃありか」


「ひっどーい! ボクはおにーさんを騙したりなんてしないもん!」


 俺の出した「ダメで元々」論にミストルティアがプリプリした。

 なんかさっきからのミストルティアを見ていると、絶体絶命のピンチだっていうのになんか気持ちが楽になってくるから不思議だ。


 妙に懐いてくれる親戚の子供を見ているみたいっていうか。


「ああうん、わかってるわかってる」


「その言い方、絶対わかってないし! じゃあそうだね、これなら信じてくれるかな?」

「えっ?」


「ボクの初めてをおにーさんにあげるね」


 そう言うとミストルティアはいきなり俺にキスをした。

 唇が触れ合うだけの子供だましのキス。

 だけどそれは間違いなく男女のキスで――。


「ちょ、おまえ何するんだ!?」

 俺はビックリして突き飛ばすようにミストルティアを押しのけた。


「何ってキスだよ? 人間は本当に大事に思っている人とキスをするんだよね?」

「だからっておまえ、いきなりキスとか……」


「ボクがおにーさんを信頼しているのを見せるのにはこれが一番だって思ったんだ。ね、どうだった? これで信じてくれた?」


 少し頬を染めたミストルティアが上目づかいで見上げてくる。


 やれやれまったく。

 ほんと意味不明なやつだぜ、こいつは。

 でもま。


「ここまでされたら信じるしかないだろ」


 ああもう!

 いいぜ、俺はもう完全に腹をくくったぞ。


 全力でミストルティアと協力してギガントドラゴンを倒す!

 それに俺の命を全ベットだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る