勇者に就職したし異世界でスローライフをしたいな。

りょあくん

序章

第1話 勇者に就職

 勇者とは、ゲームや漫画、アニメなどの空想の世界でしか見ることのできない、人間の作り出した"架空"の存在。


 昔から人々は、そのように考えていた。


 そして、それが当たり前のことだった。


 勇者という存在がこの世界に存在するはずがない。


 だが、いつの日にかその考えは覆されていた。


 20年以上前から、ネットで噂されていた『異世界が本当に存在する説』。


 それがいつの間にか、社会に知れわたり、人は『異世界』という存在を信じるようになっていた。


 そして、西暦2050年。


 とある1人の人物が、とある物を発表した。


 それは、異世界。

 そして、異世界の発表と同時に、異世界で働くことのできる、『勇者』という仕事が生まれた。


 架空の存在だと思われていたものは、現実になったのだ。


 そして、西暦2060年。異世界の発表から、10年たったこの年。


 とある1人の男が勇者となった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




《西暦2060年4月20日・始まりの草原》


???

「ん……。」


???

「ここは……どこ……なんだ。」




???

「まさ、か。ここは……!!」


???

「異世界だ!」


 彼の名は、佐藤牛丼。世界を救うことになるかもしれない勇者の卵だ。

 

 昨日、勇者になった新米勇者。


 この世界での生き方など知るはずがない。


牛丼

(遂に、やっと来れた! この異世界に!!)


牛丼

(これで俺はスローライフを満喫出来るってことだ!!)


 ウキウキ気分で草原をスキップする牛丼。


 そのハイテンションのまま、草原から少し外れた森林の中へと足を踏み入れた。


 目の前にあった街には目もくれずに。




《近くの森林》




牛丼

「す、すげぇぇ。見たことねぇ木の実があるっ!!」


――グゴゴゴゴゴォォォ


牛丼

「ん?」


――グォオオォ。


牛丼

「ギャァァァァァァァァ!!」


牛丼

「待て待て待て待て!!」


牛丼

「いきなりあんな怪物でます? 普通。いや、普通じゃないだろおおおおおお!!」


牛丼

「何か、何か打開策は無いのか?」


 牛丼がそう叫んだ時。


 牛丼の来ていたスーツのポケットから1台のスマホが飛び出した。


牛丼

「え?」


 そのスマホは自力で空中を浮遊し、牛丼の目の前を飛んでいた。


牛丼

「なんだよお前!!」


ケンタ

「挨拶。私の名前は、ユウシャホン。縮めてユウホ。名前は、適当にケンタとかで呼んでもらって構わない。」


牛丼

「け、ケンタって……。」


ケンタ

「説明。私は、勇者牛丼やその仲間たちの情報をまとめている。デストライトでいう所のステータス画面と思っていただいて構わない。」


――デストライト


 それは、10年近くの間、世界中のプレイヤーから遊ばれているゲームのタイトルで、実在した異世界を題材に作られたVRMMORPGだ。


牛丼

「てことは、お前に頼れば俺の武器とかスキルとか見れるんだな?」


ケンタ

「正解。」


牛丼

「じゃあ、さっさと俺に戦わせろ!」


ケンタ

「不可能。」


牛丼

「は?」


ケンタ

「説明。勇者牛丼は現在、武器もスキルも保持していないからだ。」


牛丼

「はぁぁぁぁぁぁ!?」


牛丼

「ヤバい。


 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!」


――キンッ!!


――ドォォッッ!!


牛丼

「何が、あったんだ。」


牛丼

「あなた……は?」


???

「それよりも、お前。大丈夫だったか?」


牛丼

「お、俺は全然大丈夫です。」


???

「そうか、それなら良かった。」


牛丼

「お、俺の名前は佐藤牛丼と言います!


 あなたの名前を教えて頂けませんか?」


コレル

「あぁ?


 あー、俺の名前はコレルだ。よろしくな。」


 コレルはそう言うと、地面に転がるイノシシのようなモンスターの体を抱えて歩き出した。


 牛丼はその後ろを着いて行く。


牛丼

「これ、倒したんですか?」


コレル

「まぁ、倒したな。」


牛丼

「す、すげぇぇ。このモンスターをどうするんですか?」


コレル

「今夜のメシにする。」


牛丼

「め、メシに!? く、食えるんですか!?」


コレル

「牛肉みたいで美味いぞ。」


牛丼

「そ、そうなんですか。」


コレル

「なんだ、お前も食いたいのか?」


牛丼

「い、いえ! そんなつもりは……。チラチラ。」


コレル

「食いてぇんだな。まぁ、着いてきな。俺の家は近いからな。」


《コレル宅》


 コレルの家に着いた牛丼は、モンスターの肉が焼き上がるまでの間に、なぜ自分がこの森にいたのかを説明した。


コレル

「んじゃ、お前はさっき勇者になったばっかなのか。」


牛丼

「そうなんですよ。


 入社試験が終わってすぐに呼ばれたから、呼ばれた場所に行ったら、急に眠くなって、気がついたら草原で寝てたんですよ。」


コレル

「それでお前、スーツだったのか。」


 今は、コレルから衣服を貸してもらい、それを着ている。


コレル

「たしか、お前が目覚めた時、お前が森林じゃなくてその逆の方に進んでいたら街があったはずだ。」


牛丼

「な、なんだとッ!?」


コレル

「ドンマイだったな。」


 コレルは牛丼の事を盛大に笑う。


牛丼

「そこまで笑う必要ないじゃないですか。」


コレル

「ハハハハハッ! 悪い悪い。」


 牛丼は、先程のコレルの太刀打ちを思い出す。


牛丼

(俺もあんな風に戦えたらなぁ。)


 牛丼は、コレルの顔を見る。


コレル

「なんだ? 俺の顔に何かついてるのか?」


牛丼

「コレルさん。」


コレル

「なんだよ。急に改まって。」


牛丼

「俺に、戦闘を教えてください!


 いや、戦闘じゃなくても、狩りを教えてください!


 俺にこの世界での生き方を教えてください!!」


 牛丼はその場で頭を下げた。


牛丼

「俺はデストライトで、異世界の基本的知識は分かっています!


 なので、戦闘とかのその辺を教えていただきたくて。」


 コレルは、少し悩んでいるようだった。


 そして、しばらくした時。


コレル

「いいだろう。

 

 だが、俺の修行は厳しいぞ!!」


牛丼

「それでも頑張ります!


 コレルさんみたいに、この世界でスローライフを満喫したいです!」


コレル

「そんな言い方だと、俺が適当に生きてるみたいじゃないか。」


牛丼

「パッと見、働いてなさそうでしたから。」


コレル

「ま、ままままぁ!!


 そんな事より、お前のような勇者ってのは、基本的に『クエスト』ってやつで生活費を稼ぐ必要がある。」


牛丼

「なるほど。」


コレル

「だが、俺の下で修行をするからにはその必要は無い。


 この森林に生息しているモンスターや動物、魚、畑などで生きていく。


 これこそ、スローライフだ!」


牛丼

「す、すげぇぇ!!」


コレル

「そんじゃあ今から、外に出てモンスターの倒し方を教えてやる。


 着いてこい!!」


牛丼

「もう、夜ですけどね。」


コレル

「確かに。そんじゃ、明日だな!!」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




《西暦2060年4月21日・コレルの家の近く》


コレル

「牛丼! 目の前から来るぞ!!」


牛丼

「はい!!」


 牛丼とコレルは、森林の中を走っていた。


 そして、目の前の動物を追っていた。


コレル

「来る!」


 コレルが叫んだ瞬間。


 木の死角となる部分から、イノシシのような動物が飛び出してきた。


コレル

「避けろ!」


 そしてもう一度、コレルの叫び声が聞こえた。


 それを合図に、牛丼は勢いよく飛ぶ。


 イノシシの体を跳び箱の要領で軽く飛び越えると……


 近くの木の枝に飛び乗り、そこから突進を続けるイノシシの頭上へと飛び降りた。


牛丼

「はァァァァァ!!」


 牛丼は飛び降りる勢いで、イノシシの首を斬り落とそうとするが……


 牛丼の持つ剣は、イノシシの首を通らなかった。


牛丼

「嘘……だろ!?」


 その横から、コレルが飛び込んで来た。


 イノシシの首を下から上へ斬り上げる。


 真っ直ぐに。


 素早く。


 正確に。


牛丼

「す、すげぇぇぇぇぇぇぇ!!


 一太刀の威力が桁違いだ。


 剣が全く通らなかったのに、意図も容易く斬り落とすとは。」


コレル

「いやいや、俺も驚いたぜ。


 まさか、お前がここまで動けるやつだったとはな。」


牛丼

「実は俺、運動は出来るほうなんですよ。


 運動が出来ないと、この世界で生き抜くのなんて大変だと思いますし。」


コレル

「なるほど、見込みがあるってことだな。」


牛丼

「それよりも、コレルさん!」


コレル

「なんだ?」


牛丼

「ぜひ、師匠と呼ばせてください!!」


コレル

「ししょう……。師匠!!


 いいだろう! 俺のことは師匠と呼ぶが良い!!」


牛丼

「一生着いていきます! コレル師匠!!」


 それから牛丼は、コレルによる修行の日々を送ることとなった。

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