第16話 課題

 ワシルとの戦闘からの帰路も、天登あまとと小雪は10体ほどの妖魔に襲われた。


 疲れ果てていたことに加え満身創痍だったため、厳しい戦いだったが、なんとか切り抜けることができた。

 あまりの疲労困憊と怪我で、逆に無駄な動きが無くなったからかもしれない。

 そしてようやく神社に帰り着いたのは、明け方だった。


 天登あまとと小雪は、本殿の裏に回り、縁側に寝そべった。


 「やっと、帰ってきた」

 天登あまとはつぶやいた。


 「………………」

 小雪は無言だが、安堵と疲労が混ざった表情だ。


 「おかえりー、遅かったねぇ」

 瑠川るかわが出てきた。


 僕らはワシルの件を報告した。


 「ワシルクラスが出るとはねぇ……。討伐リストではこの辺りへの出没は報告されてなかったんだけど……。しかし無事でよかった。2人とも、まずはゆっくり休みなさい……って、もう寝ちゃってるわね。ハハ」


 天登あまとと小雪は、聴き終わる前に寝入ってしまっていた。


 瑠川るかわは本殿の大黒柱に触れ、心気を注入した。本殿の結界を強めたのだった。


 夕方頃、天登あまとは目覚めた。

 小雪はすでに起き、活動しているようだ。


 庫裡へ降りていくと、夕食の用意がされていて、瑠川るかわと小雪が席に着いていた。


 「夕方だけど、おはよう天登あまと。さぁ席について。まずは腹ごしらえを」


 「ありがとうございます」

 天登あまとも着席した。


 食事中、瑠川るかわが口を開いた。

 「ワシルは知ってのとおり、6血だね。一般に駆け出しの破邪士が相手にできるレベルじゃない。2人ともよく戦いました。その中で、2人とも課題が見えてきたんじゃないかな?まずは小雪から」


 「私は、あらゆる実力が足りないと思いました。その中でも特に、心気が十分に刀に伝わらなかったことが、致命的だった。これができていたら、たぶん急所じゃなくても妖魔に決定的な攻撃ができた」


 「ふむ。天登あまとは?」


 「俺は……。本当にいっぱいありますけど、小雪と比べると体術もヘナチョコだし、心気弾も、一発が軽い。そして、心気の形状化。短刀を心気で伸ばした剣は強力だったけど、これにはもっと、可能性がある」


 「そうだね。2人の課題は共通していて、まさに心気のコントロールにある。心気を身体に巡らせられれば、身体能力も飛躍的に向上する。武器にまとえば、攻撃力が格段に上がる。だからトレーニングといえば、わかるね?」


 「心気をまとめる」

 天登あまとと小雪の声が揃った。


 「そう! 明日からも、がんばっていきましょう。それと天登あまと、心肉痛はない?」


 「え、そういえば……、痛い!痛い!痛い!」


 翌朝から天登あまとと小雪は、心気をまとめる訓練を再開した。


 そして夜はやはり、2人で夜回りに出る。ワシルほどの妖魔は出ないものの、3〜4血程度の妖魔はいくらでもいた。


 「天登あまとが来てから、神社から漏れ出る心気が多くなったからね。どこからともなく妖魔が嗅ぎ付けてるんだろうね」

 という瑠川るかわの分析だった。

 小雪の感覚では、4、5倍の数だという。しかし僕らは、日々なんとか、夜回りをこなしていた。


 2ヶ月ほどが経った。


 季節はすっかり秋めいて、頬を撫でる風も冷たく心地いい。


 小雪はかなり心気を束ねられるようになっていた。

 もう少しで、ビル何階分かだった心気の広がりは、長剣ぐらいの長さ、細さに収まりそうなくらいだ。


 休憩中に、天登あまとが小雪にコツを尋ねると、「腰」と一言だけ返ってきた。

 確かに、訓練中の小雪の腰を見てみると、円を描くように振っている。


 よく考えてみると、訓練中は両手は真上に上げ、足は踏ん張り、首も上に向けている。つまり、身体の動かせる箇所は腰ぐらいだ。  

 心気をまとめるとは、ねじり上げるような感覚が近いのだ。小雪もその感覚を、身体の残った可動部分で表現しているのではと、天登あまとは推測した。


 ヒントを掴んだ気がしてうれしかったが、小雪の腰を、その近くにしゃがんで凝視している図を瑠川るかわにスマホで隠し撮りされ、食事の時に暴露されたのは、かなり痛かった。


 天登あまとも腰を回し、捻ることに意識を集中してトライした結果、確かに、広がってグラグラしていただけの巨大なカリフラワーは、縮む様相を見せ始めた。


 腰の微妙な振り加減でそれが左右されるように感じるが、可動域が狭いせいで、すぐにやりようがなくなる。

 ここからはイメージトレーニングの世界で、腰の振りはあくまで調子を取るもの。捻り上げるのは心の気なのだから、捻る量は体内でイメージし、膨らませていく必要があるようだ。

 2ヶ月目にしてそんな結論に至り、天登あまとはトレーニングを続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る