第36話 海
—翔太side—
「さあさあ、お二人さんも乗った乗った!」
サングラスの女性は助手席の窓から陽気にそう言った。
車に乗り込んでから、一応自己紹介をする。
「初めまして。ひろみの友人の五十嵐翔太です。今日はよろしくお願いします。」
「硬いなー。私は佐倉美樹。私もひろみの友達。今日はよろしくねー。それで、運転してくれてるのが私の彼氏の井上
「マサヤでーす。先輩だけど、全然タメ口でいいからよろしくー。」
タメ口でいいと言われても、そもそも年上だし、まだ友人ではないので難しい。
「よ、よろしく〜。」
「タメ口下手すぎん?うけるー。」
案の定笑われてしまった。
「ミキ笑いすぎ!私にはめっちゃタメ口なのに何でなの?」
「え?なにそれひろみ、もしかしてノロケ?」
「いや、普通にひろみとは友達だから」
「ふーん」
車内に流れる夏の歌に浮かれて、以上のようなしょうもないやり取りが繰り広げているうちに、車窓を開けると潮風が吹いてきた。
「海だー!!!」
3人が口々に叫ぶのに驚きながら、「うおー」などと言ってみたが、あまり性に合わなかった。
—ひろみside—
車を降りた私たちは、更衣室で着替えてから改めてビーチ集合となった。
さて。今日のために準備した私のキュート水着が火を吹くぜ。
というか翔太に一泡吹かせてやるんだから。
「ミキの彼氏、ノリ軽くていいよねー」
「ありがと。で、どうなの?翔太くんとは」
「うーん。普通に友達って感じ。」
「そうじゃなくて、ひろみの気持ちはどうなの。」
「そりゃ、付き合えたら嬉しいけど、って感じ。」
「ふーん。押せばすぐいけそうな感じなのにね」
「私も最初はそう思ったの!それで行ってみたら翔太が年上女子に絶賛片思い中。」
「うわー。勝ち目ないやつ?」
「かも。」
「そっかー。私が男なら、こんな水着着てきたらイチコロなんだけどな。頑張って!」
「ありがと。ミキもファイトだよ!」
「おうよ!まさやを骨抜きにしたるわ!」
「なにその口調(笑)」
秘密の作戦会議を終え、一枚羽織った私たちは戦場に赴くような覚悟で更衣室を出た。
ビーチで男子たちと落ち合うと、ミキは彼氏を見事に水着で悩殺していた。
私も負けていられない。
「じゃーん。可愛いでしょ!」
「そりゃ可愛いよ。元から顔はいいんだし。」
「いや、水着とかどうなのよ」
「僕に女性の水着の良し悪しがわかるほどの恋愛経験があると思う?」
「まあなさそうだけど!!!」
なんなんだ
可愛いとか言って、そのくせはぐらかしてきて。
カッコつけてるつもり?それとも私のこと好きじゃないの?勇気がないの?
そんな翔太は、目のやり場に困っているのか、自分だけ少し情けない体つきなのが恥ずかしいのか分からないがキョロキョロしていた。
「翔太は、なんか、うん。普通だね。」
「まあ、こんなもんだよ。」
「別に私は全然いいと思うよ」
「優しくされると逆にしんどいけどな」
天邪鬼なコイツには、どうやら逆効果だったようだ。
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