第7話 侵入




チーズバーガーを食べ終えた僕は、イヤホンから音楽をかけながらスーパーに向かった。その足取りはいつもより軽く、なんなら小躍りしていた。



ミラクルナンバーをかけながら気分上々↑↑でスーパーに来たものだから、気が大きくなってしまっていた。



その結果、カレーの具材と掃除用品を買うのにとどまらず、

明日以降分の肉、魚、野菜、冷凍食品、お菓子、おつまみ、よく分からない便利グッズ、謎に割引されているレトルト食品、さらにはレジ横の変な味のガムまでカゴに入れて、レシートがめちゃくちゃ長い巻き物になってしまった。




その勢いのまま意気揚々と帰路に着いたのだが、301号室の前に着いたところでふと冷静になった。


あれ?よく考えたら勝手に部屋に入るのは不法侵入では?


急に怖気付き、どうしていいかわからなくなってしまった。




そんなわけで一度302号室に戻った僕は、買い込んだものを片付けてから、不法侵入の定義について調べてみた。

こうやって行動に理由をつけないと動けない臆病な自分が少しだけ嫌になりながら。


するとどうやら、「権利者の許可なく悪質な目的で侵入する」ことが不法侵入らしい。ネット情報だから正しいかはわからないが。


まあ今回の場合は、


・合鍵を本人から渡されている

・一応家事代行を頼まれた

・悪質な目的はない


から大丈夫だろう、といった具合に言い訳が浮かんだので、とりあえず必要そうなものだけを持って、301号室に向かった。



緊張しながらそっと鍵を開ける。



部屋の中は、朝とは見違えるほど荒れていた。脱ぎっぱなしの服や下着、雑多に放り出された本、食べ終えたままのケーキ箱と皿。




は??




この数時間でなぜここまで汚せるのか。





早くも心が折れそうだが、とりあえず中に入り、冷蔵庫に食材を入れる。



まだ夜までは時間もあるし、まずは最低限の片付けとして、ゴミ袋にゴミをまとめよう。

散らばった本はある程度まとめて、洋服もとりあえずハンガーにかけるか畳むかくらいはしようかな。

それが終わって時間があったらお風呂と台所の掃除もしよう。


下着は・・・見なかったことにしよう。




ケーキ箱と雑多なゴミをゴミ袋に入れ、本を一箇所にまとめながら、あらためて部屋を眺めてみる。今朝は色々とバタついていたので、部屋の雰囲気もよくわからなかった。


人生で唯一入ったことのある女子の部屋である幼馴染の部屋と、社会人のゆかりさんの部屋は、当たり前だけど違うものだな、などと呑気に考えながら、洋服を片付けようとクローゼットを何の気なしに開けたのが運の尽きだった。



その瞬間、僕は雪崩に飲み込まれた。






「何だよもう」

独り言をこぼしながら、雑多な物たちの山から脱出し、何とか片付けに着手する。

どうやら、クローゼットの中では、布団からたこ焼き器までありとあらゆるものがひしめいて均衡を保っていたようであり、それが破られた今、部屋中が混沌の渦に飲まれていたグチャグチャだった


それから日が沈みきるまでの時間をかけて、どうにかしてクローゼットに新たな秩序をもたらすことができた。


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