第13話 下心
昨日はあいつらが変な話をするから、カリナで童貞を卒業する夢を見た。
長い黒髪だし、シナリオに絡むキャラなので顔はいいのだ。
それにリサと違って見た目は清楚だしね。
早めに起きたので、散歩でもしながら頭の中を整理することにした。
授業があるためレベル上げに裂ける時間が少なすぎるのが第一の問題点だ。
ゲームなら授業をさぼればよかったが、出席日数が足らなければ落第させられてしまう。
勇者のようなジョブを持っていれば大目に見てもらえるところなのだが、今の俺ではどうにもならない可能性がある。
きっと容赦なく落第させられるだろう。
それにスケルトンファイターでレベルが上げられるのも、あと一つか二つが限度である。
愚者のデバフ40%弱体化が思ったよりもきつくて、敵を倒す速度が落ちているから湧きで殺されかねない。
それにデバフのせいで体力も落ちているように感じられる。
カリナたちとダンジョンに行くだけで、その後に動けるような体力が残らない。
ゲーム時代では感じることがなかった身体と精神の疲れに参っていた。
グローバゼラートまで持っていて、この程度のデバフに苦しめられるのだ。
ひとり旅になっているがゆえの弊害でもあるだろう。
主人公ならパーティーを組んでなんともないような部分も、今の俺にはどうしようもないところだ。
しかし、たとえ俺が主人公であったとしても、強い味方を手に入れようとすれば命の危険があるから、このくらいの次期に無理はできなかっただろう。
セリオスだって意外と苦しい状況にあるのは間違いない。
もともと、ひとり旅ならこのくらいの大変さはあたり前なのだが、なにか裏技でも欲しいところだ。
引くか進むか考えて、俺は校門を飛び出した。
別にあの三人で童貞を卒業したいわけじゃない。
そう自分に言い聞かせて朝の王都を走り、一番高級そうな道具屋の扉を叩いた。
眠そうな顔した親父が出てきたので、開けてくれと頼みこんで中に入る。
勢いのままに、解放の宝珠(希少級)、解放の宝珠(上級)、解放の宝珠(中級)を買い付けた。
これだけで85万クローネである。
支払いを済ませて、もう後には引けなくなった。
教会で道化に転職を済ませてから、解放の宝珠(上級)を使ってドロップアップのアビリティを開放してから愚者に戻した。
なんとかこれで使った分のお金を取り返さなければならない。
今日からはもう朝ご飯は売店でサンドイッチでも買って食べよう。
手作りだからあんまり安くはないが、節約しないと本当にパンクしてしまう。
そしてクラスに行けば、昨日の揉め事のことなどなかったように、セリオスが仲間と盛り上がっていた。
「もうレベル8になったなんて信じられないわ。セリオスのおかげよ」
「いやいや、アンナプルナの回復があるおかげさ。バフも優秀だから多少の無理もできるしね。それにサクヤは最初からレベルが高かったのもあるよ」
まったく、のん気そうで羨ましくなる。
あのパーティーなら何の心配もなしに攻略が進められるだろう。
しかし停滞期はやってくる。
たしかにレベル12が混じっていれば最初は早いだろうが、しっかりとした攻略チャートなしでは頭打ちになるはずだ。
その辺りを抜けてくれないと、世界を救うことなどできはしない。
まあ、この二人より目立たなければ、災難が降りかかってくることがないのは救いだ。
この日の朝、クラス委員長にカリナが選ばれた。
面倒見がいいということと、俺の面倒を見ながら順調にレベルを上げたことが評価されたらしい。
座学が終わると、今日もダンジョンに入る。
さすがに慣れてきたのかカリナたちは元気がいい。
逆に俺は、愚者によるデバフのせいで昨日の疲れがまだ体に残っているようなありさまだった。
こんな状態を長くは続けたくない。
「今日は4階に行こう」
「今日はずいぶんやる気じゃない」
「本当だわ、下心かしらね」
カリナにまでそんなことを言われる。
3階は混みあいすぎていて、狩りどころではないらしいのだ。
周りにクラスメイト達がいるが、みんな3階を目指しているようだった。
4階に向かったのは俺達とセリオスたちだけである。
アンナプルナが驚いたような顔でこちらを見ている。
4階に入ったところで、アンナプルナ達とは別方向に向かった。
カリナが声を掛けられていたが、サクヤに無理をしないでねとか言われたらしい。
たしかに4階だと少し無理をすることになるが、ボスさえ避ければどうということはない。
狩りが始まって気になったのは、カリナたちのレベルが上がって来てそれなりに戦えるようになったのに対して、適当にルーン魔法を放っているだけの俺が本格的に足を引っ張り始めてきているという事実だ。
せめてバックアタックを取らないと40%デバフではダメージが少なすぎる。
俺が足を引っ張っているだろうことについて、カリナたちは気が付いているだろうに何も言わない。
これは後で多少の恩返しをしておかないと、申し訳ないことになる。
今日の三人はヘイトをとる、攻撃を受ける、回復するを意識してやっているから、ペースが遅いのが救いだった。
「役割を分けた方がいいんじゃないか。カリナがヘイトを稼いで、リサが後ろから攻撃するんだ。その方が早く倒せる」
相手にしているのは雑魚スケルトンだ。
錆びた鉄パイプのような武器を持っているが、攻撃パターンは一つしかない。
「いいわ、やってみる。アンタもサボるんじゃないわよ。カリナもそれでいい?」
「ええ、私が攻撃してから後ろに回ってね」
カリナとリサの間でヘイトが剥がれることが何回かあったが、両方戦士だから、それは問題ではなかった。
むしろ後ろで火力職を気取っている俺にヘイトが向かない事の方が問題だ。
ただ、今はいいが、ボス戦でヘイトの剥がれるようなことがあれば、その時は本当に全滅する可能性がある。
少なくとも回復職は死ぬだろう。
アンナプルナのようなスキルツリーがあれば別だが、普通はそれを回避する手段がない。
だから戦闘中に回復魔法を使う練習は必要不可欠であるし、ヒーラーにとっては命にかかわる。
それにしても俺の立ち位置は退屈だ。
これだから魔法職が嫌いなのである。
色んな魔法があって、姿を消したり、いきなり現れて強力な魔法を使ったり、誰かを強化したりと、万能タイプではあるが使っていて楽しくない。
防御が紙だから、近寄られたら終わりというのもつまらない。
PVPに明け暮れていた頃は、とにかく接近するまでが大変でボロボロにされたものだ。
「やっぱり後ろからの方がいいわ。隙だらけだから、思いっきり振りかぶれるもん」
「こっちはちょっと大変かしら。前からだと攻撃が当たらないのよね。意外といい反応をしてくるわ」
「リサはもうちょっと溜めてから攻撃してみろよ」
「溜めるって何を溜めるのよ。溜まってるのはアンタでしょ。変なとこ見てたら許さないわよ」
無理して下品なことを言っているが、顔を赤くしているので純情なのを隠しきれていない。
俺は軽口には取り合わずに説明する。
「こう、大きく振りかぶってから攻撃する感じだ」
こういわれて初めて、強攻撃のモーションを取得するのだから手がかかる。
説明書くらい読めと言いたくなるような内容だ。
「あら、めちゃくちゃ調子よくなった。アンタやるわね」
「私にアドバイスはないのかしら」
「剣の軌道を見切られてもいいから、ちゃんと振るように心掛けた方がいいかな。さっきから変に突くような動きが多くなってる」
知識があるなんてことを周りに知られたくないので、なんとなく思いつきを喋るような感じでしかアドバイスできない。
突きは当てやすいが、特定の武器以外では弱攻撃扱いである。
攻撃を繋げるタイミングに関しては、こんな一朝一夕のアドバイスではどうにもならない。
そしてついには我慢できなくなって、俺もグローバゼラートを抜いて前線に加わった。
コンボやキャンセルは使わず、ただひたすら攻撃を当てるだけだ。
武器の持っている追加打撃効果と割合ダメージのおかげで、こちらの方が火力が出る。
ひたすらスケルトンを三人でボコす格好になった。
「ずいぶん上手に攻撃を当てるのね」
カリナにそう言われて、ギクッとした俺は体が縮こまる。
カンのよさそうなことを言われると、ちょっとビビってしまう。
どうしても今はまだ秘密にしておきたい。
なにせ女の噂話は広がるのが早いからな。
もうちょっと効率を良くしたいが、そのためにはボスを狩る必要があり、そのためにはもう少し三人のジョブレベルが必要だ。
この日で三人は、レベル8、ジョブレベル4になった。
一人頭の稼ぎはドロップアップの効果もあって8000クローネだった。
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