第24話 春の祭典①売り子
はしっと手をつかまれた。驚いて見れば、わたしたちと同じぐらいの女の子が眉を寄せていた。
「ねぇ、あなた本当に男の子?」
エプロンドレスを着た子は、そんなふうにわたしに尋ねる。
隣のミケが笑いだす。
「うん、女の子の格好したら可愛いと思うよ」
ミケが笑いながら言った。
「ミケのお皿に、苦瓜入れるから」
「え? やめて、そんな陰険なこと」
わたしたちが女の子そっちのけで話しだすと、女の子は頬をぷーっと膨らませた。
「ちょっと、無視するなんてあんまりだわ」
「それより前にねーちゃんがシツレーだろ」
女の子に似たもう少し小さな男の子が姉を嗜める。同じ薄い茶色い髪に茶色い瞳だ。
井戸の前であった姉弟は、キイロとヒイロと言った。お父さんとお母さんがイーストのメインストリートから一本外れた道で食堂をやっているんだって。
雪深いところでは春が来るのは大きな喜びだ。この街も街をあげてのお祭りをするそうだ。食堂もいつもと少し様相を変えてお祭りを盛り上げることが決まっているのだがウエイトレスの数が足りないのだという。そしてわたしはスカウトされたみたいだ。
キイロは自分の服を貸すからそれをきてウエイトレスをやってくれという。わたしはスカートを履くのは嫌だと断った。じゃあ格好はそのままでいいから、食堂の外でテイクアウトの売り子をやってくれないかと言われた。ミケと一緒にやっていいし、その売り上げの4分の1をくれると言う。例え売れなくてもイーストチルドレンのみんなに食堂で好きなものを食べさせてくれるそうだ。それならやってもいいかと、ボスに相談していいと言われたらだが、それでもよければと約束をした。
ギルドに戻り聞いてみると、お祭りはみんなあちこちで手伝いをするらしく、食堂なら危なくないだろうとのことでOKがでた。それを伝えに行くとおじさんやおばさんにも紹介されとても喜ばれた。
お祭りの初日は青空が広がった。朝早くからお祭りの準備でみんな起き出していた。わたしたちはお昼前ぐらいからのゆっくり出勤だ。
行くとキイロに髪の毛を整えられた。前髪が良くないといって、デコ丸だしで後ろに結ばれてしまった。
「でも、フィオ可愛い」
「可愛いはいらない。かっこよくして」
と頼むとそれは無理とキイロに却下された。
顔にせっかく土をつけてきたのに拭われてしまった。接待だから汚いのはダメだって。
キイロたちの予備のエプロンをかり、お金の計算を練習して、テイクアウトのお弁当を外のテーブルに運び出す。値段の札を立てる。
どこかでポンポンと音がして、それがお祭りの始まりの合図だったみたいだ。
わたしはミケと手を合わせて、気合を入れた。
「お弁当はいかがですか? キイロ食堂の春を詰め込んだお弁当ですよー!」
「こんなに量があっておいしいのに、銀貨4枚だよ!」
変わりばんこに声を張り上げる。
お弁当は本当においしそうだ。丸パンの間にお肉が挟まれたもの、野菜が挟まれたもの。チーズが挟まれたものがぎっしり詰まっていて、その横に菜の花のお浸しが添えられている。黄色い蕾の花が見た目も楽しくしてくれている。
「春を詰め込んだか、いいね、ひとつもらおうか」
「毎度あり!」
ゆるゆるとお弁当も売れ出した。おじさんやおばさんは売れ行きは気にしなくていいといってくれたけど、どきどきしていただけに、順調で嬉しい。
「ヒイロの友達かい?」
「ええ、まあ」
仕舞いには
「どこの子だい?」
と聞かれる始末。もしかしてイーストチルドレンだと知られると、買わないとか言い出すのかもと思って、わたしたちは口を閉ざした。
休憩のときにそのことをおじさんたちに話すと、多分違うと思うよと言われ、気にしなくていいと言われた。
1日目は早くに終わった。予定していたのよりだいぶ早くに捌けたみたいだ。明日もよろしくといって、銀貨80枚ももらった。お祭りの時だけは子供もお手伝いをして賃金をもらってもいいんだって! お祭りさまさまだ。
わたしとミケはお礼を言って、串焼きを人数分買って帰った。絶対食べたいと思っていたのだ。
「でも、引き受けてよかったね。ちょっと心配だったけど、フィオが元気になったから」
「オレが元気?」
「うん。自警団に行ってから元気なかったからさ」
ああ、心配をかけてたんだ。
自警団で鏡を見て、わたしは自分の生まれが、侯爵家の双子の姉なんじゃないかと思った。そうするとここは小説の世界ということになる。もし、そうだったら、わたしは本を最後まで読んでいないからどうなるのか知らないけれど、復讐劇のはずだ。
わたしは妹に復讐をするのかと思うと絶望的な気持ちになった。
けど、そこでわたしは自分に待ったをかけた。
だって、わたし妹を恨んでないじゃん。物語では大きくなるまでずっと隔離されて閉じ込められ、やりたいこともできず虐げられていたと言えるかもしれないけれど、わたしは今自由だ。ほぼみんなの手を借りてだけど生きていけている。家とは関わりがない。だとしたら、わたしはもう自由なのでは?
それに復讐しなければいいだけの話だ。そう思えたら、気持ちがとても軽くなった。
みんなが帰ってきた。串焼きをみんなで頬張った。明日はみんな早く上がって、一緒にお祭りを見に行こうということになった。みんなでお祭りを見る、それはとても楽しいことになるだろうと思った。
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