姉は怒っている
「奏方、今日は朝にもお話しした通りお話があります」
俺が露那に家まで送ってもらった…まぁ正確には着いてこられたんだが、を経て玄関で靴を脱いでいると、珍しく俺よりも早く姉さんが帰宅していて朝の続きがあると声をかけてきた。
「姉さん…」
「奏方、私は怒っているのですよ」
「え、怒って…?」
「はい」
…朝まさかとは思ったが、本当に怒ってるみたいだった。
…姉さんに怒られるなんて何年ぶりだろうか。
部屋を散らかしてもお茶をこぼしても怒らなかったし…そんな姉さんが一体何を怒っているのか。
なんとなく予想はできているが。
「何に怒っているのか、言わなくても分かりますね?」
「…なんとなくは」
「なんとなくではなく、露那さんのことです」
「……」
「少し話しただけですが、彼女からは並々ならないものを感じ取ることができました、何故一年間もの間私に黙っていたのですか?」
並々ならないもの…それをあんな短時間で感じ取れる姉さんも姉さんで並々ならないものを感じるが今それは置いておいて…
「それは…姉さんに要らない心配をかけたくないなって」
これは俺の本心だ。
姉さんには本当にずっとお世話になっているのに、そんなことでまで心配をさせるわけにはいかないと心から思っていたし、最近になってようやく姉弟だから…と姉さんに頼ることも考えるようにはなってきたが。
それでもやはりまだ迷惑をかけるわけにはいかないという考えも残している。
「何を言っているのですか、いつも私に頼ってくださいねとあれほど言っているじゃありませんか」
「いつも姉さんに頼り切ってしまってるから、もうこれ以上姉さんに負荷を掛けるわけにはいかないって……」
「奏方…本当に怒りますよ?」
そう言うと姉さんはその発言とは真逆に、俺に抱きついてきた。
そして耳元で囁く。
「奏方は私のたった一人の大事な人なんですから、私に遠慮なんてしないでください、そしてあのような方が居るのであれば、これからは私に助けを求めてください」
「姉さん…」
姉さんはさらに抱きしめる力を強めた。
「え…姉さん?」
「そうです…奏方は私の」
「痛い痛い…!姉さん!?」
「はっ…失礼しました…!」
姉さんはすぐに慌ただしく俺から離れた。
姉さんはたまにこういう時があるからこういうのは慣れてるが…今のは何かが少しだけ違ったような気がする。
「それにしても奏方も大きくなりましたね、少し前までは私のことを見上げていたのに、今では見下すほどに大きくなっています」
そんな言い方はどうかと思う。
「別に姉さんのことを見下すために身長が伸びたわけじゃ……」
「ふふ、分かっていますよ、ただ、奏方もそろそろ励める時期だと…励める…!?何を言っているのですか…!そんな、私と奏方は…!」
姉さんは首をふりながらぶつぶつと何かを呟いている。
…励めるって聞こえたが。
まさか…勉強か!?
もうそろそろこんなに大きくなったんだし、勉強ぐらいできないと危ないから姉さんの徹底したスケジュール管理のもと勉強に励めってことなのか…!?
「悪い姉さん!ちょっと課題があるから!」
「あっ、奏方…」
姉さんも課題だと言えば俺を引き止めることはできないだろう。
俺は姉さんから逃げるように自分の部屋へと駆け込み、ドアを閉めた。
これで一先ずは安心だな…
「もう…奏方ったら…そういうところも可愛いのですけどね…そんな可愛いくて私の愛しい奏方を苦しめるのは、誰であろうと見過ごせません、絶対に…あぁ、私の奏方、いつかあなたにただの好きではなく愛を伝えられる日を心より楽しみにしていますよ…」
部屋に入り俺が一番最初にしたこと。
課題?もちろんそんなことは後回しで、まずは優那ちゃんの配信があるかどうかを確認しなければならない。
俺はポケットからスマホを取り出しそれを確認する。
「…あ!」
今日はしっかりと二十時から配信があるらしい。
「これだけで癒されるな…」
やはり優那ちゃんは俺の天使だということを改めて再認識することができた。
俺は二十時までを刹那的に過ごし…とうとう、その時がやってきた。
「こんばんはー!今日も運命の人に見つけてもらうために配信して行きたいと思いまーす!」
という元気良い挨拶から始まった。
…本当に全世界優那ちゃんを見れば戦争なんて起こらないんじゃないだろうかと思えてきた。
「早速みんなに質問なんだけど、今日会ったこと教えてー!」
今日会ったこと…俺の今日の総評は、姉さんに怒られた…だな。
「学校しんどかった、仕事しんどかった、うん、色々あるね〜」
優那ちゃんは色々と濁してはいるが、コメント欄の七割ほどは疲れた系のコメントばかりだった。
因みに後の三割は楽しかったなどと言ったコメントもあった。
「私はね〜、今日は色々と感情と戦ってたの」
感情と戦う…?何かあったんだろうか。
「そう、また彼氏の話になるんだけど、まさかの彼氏にお姉さんが居たことが発覚したの!」
そんなに驚くことなのか…でもまぁ露那も驚いてたし、これが普通の反応なのだろうか。
「でね?ずっと付き合ってたのにお姉さんが居るなんて教えてくれなかったの」
それはまぁ多分言う必要が無いと思っただけだろうが…まさかこんなにも俺にとってもタイムリーな話題が来るとは。
「しかもそのお姉さんものすっごく綺麗なの、そんなお姉さんが居たことをずっと隠してたなんてなんか怪しくない?」
コメント欄では「確かに」や「隠す必要ないよね」と言ったコメントが散見される。
「だよね〜、もしかしてお姉さんと浮気してたりするのかな〜って疑わせるようなことばっかするから困っちゃうなぁ」
優那ちゃんは困った表情をしている。
姉がいる身の俺としてはそんなことは無いと思うが、優那ちゃんの彼氏がどんな人か分からないしな…擁護することができない。
「え?彼氏に直接聞いちゃえって?」
そんなコメントを拾ったらしい。
「ん〜、一応ぼかして聞いた見たんだけど…まぁ、そうだね!はっきりと聞いてみないとだね!」
そう言うと優那ちゃんの配信からは、高速のフリック音とともに送信ボタンを押した効果音が聞こえ……
『♪』
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