中華紅茶男子!

かがみ透

中華紅茶男子!

序章

序章

 雨粒が叩きつけられる甲板。

 大きく船艇が傾き、乗組員たちが駆け回る。


 舵を取る操舵手そうだしゅ波飛沫なみしぶきが降りかかった。


 先ほどまでの青空が嘘のようだ。

 普段は穏やかな青緑色の波が、黒々と怒りを携えているかのように行手を阻む。


「あと少しなのに……! ここまで来て、たどり着けないのか……!?」

「ボス! 甲板は危ないですぜ!」


 黒いスーツの男たち数人が呼びかける。


「僕は大丈夫だ。お前たちこそ船の中にいろ」


 大雨の中を進む小型船は、吹き荒れる風と波に揉まれていた。


 その時、乗組員と数人の黒スーツたちは、目を疑った。


 青い蝶に導かれたようにやってきた青い小鳥が、青年の白い指先にとまった。


 鳥の姿が小さく煙を上げて消えてまもなく、上空の黒々とした雨雲が、金色の稲光を走らせながら渦を巻き始めた。


「なっ、なんだありゃあ!」


 雨雲が渦を巻く。まるで何かに巻き取られているようにぐるぐると集まると、ゆっくりと空を滑るように移動していった。


 青年は、につぶやいたが、気付いた者はいなかった。




「……奇跡か?」


「先生、もう大丈夫! 嵐は通り過ぎましたぜ!」


 弾んだ声に、碧い瞳が振り向く。


 嘘のように晴れ渡る空。


「陸が見えるぜ!」


 乗組員が大声で指差す方向には、緑の陸地があった。


「だけど先生よぉ、ホントに行くんですかぃ?」


 頭に布を巻いた、上半身を日焼けした男が、物好きなと言わんばかりの顔で、南方の訛り混じりで尋ねる。


「もちろん、行く」


「何度も言いますが、あそこは、上海シャンハイ以上に……魔窟まくつですぜ?」


「出来れば誰も近寄りたくねぇトコロだぜ?」


 西洋人からすれば小柄に見える乗組員たちが、顔をしかめて、ダメもとで意思確認している。


「それでも行かなくちゃならないんだ」


 二十歳そこそこに見える若者は、彼らの言語でそう応えると、碧い瞳を魔窟の砦へと馳せた。

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