第9話 猫に小判を 5



 「ママーー!」


 「リン! どこに行ってたの? 心配したんだから!」


 流石に心配もするだろう。


 ママは慌てる余り、履き物すら身に着けておらず足が少し血で滲んでいる。


 強いな、親って言う存在は。


 「困ってたら黒猫さんに助けて貰ったの」


 「え、黒猫?」


 ママの顔色が少し変わる。


 「確かに助けて貰ったのかも知れないけど黒猫は、死神の使者だと教えていたはずよ? もしかしたら殺されていたかも知れないのに 悍ましい!」


 あー 出ましたよ、また偏見ですか。


 「吾輩、悪い黒猫じゃないニャンよ?」


 せっかく暖かい光景が見れたのに残念である。


 「きゃゃ! 猫が喋った! リン帰るわよ!」


 ママは慌てる様子で、リンを引っ張り逃げ出そうとしていた時だった。


 「黒猫さーん! 本当に! ありがとー!」


 リンが感謝の言葉を告げると、フルスイングで俺に何かを投げてきた。


 それは、銅貨一枚。


 冷たい板であった。


 「ごめんねー! それ私のお小遣いの全てなの! これぐらいしかお礼出来ないけど許してねー!」


 あっという間に、リンとママの姿は見えなくなり、俺は一人、いや一匹か、貰った銅貨を眺めていた。


 人に感謝されたことなんてあまりない。


 されても、セレナぐらいであろう。


 人の励みに、初めてなれたのかも知れない。


 その対価、銅貨一枚。


 その価値は、金額ではなく人の善意がもたらす、気持ちなのである。


 本当は、スマイル一つあればよかったのだがね。


 


 吾輩は猫である。


 名前は、まだ思い出せない。


 人の為になりたくて、迷子のお嬢さんとママを探して見つかるまで励ましておりました。


 スマイル一つでよかったのに、追加で銅貨一枚を頂いた。


 この銅貨以上の価値なんて知らない、猫に小判な











             ーーーー黒猫である。

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