第19話 女騎士との出会いを回想してみたい⑤
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その後他の面々と合流して無事に街へ戻り、騎士団本部へ報告に上がるとあなたは叱られました。
しかしその場にはあなただけではなく、女騎士フラン=ノエルもいっしょです。
命令なくフランを救いに行ったあなたと、そちらもまた命令を無視して独断して山賊たちを成敗しに向かったフラン、どちらも騎士団長から容赦なく叱責を受けました。
申し訳なさそうに恐縮するフランとは対照的に、あなたは窓の外に何度も視線を向けます。
反省していなくはないのですが、頭の中は今日の昼食のことばかり。
いちいちまじめに受け取り返答するフランへの叱責と、まるで話を聞かないあなたへの叱責。
その二つの対応に疲れ果てたか、騎士団長は「もうさがってよい」とうんざりした顔で解いてくれました。
部屋を出ると、フラン=ノエルはまだ気まずそうな顔です。
それもそのはず、実のところ、今のはふたつとも自分に責があったのですから。
特にあなたには、助けてもらった事も含めて頭が上がりそうになくて、目を伏せてばかりでした。
「……すまなかった、今までも、そして、今も……えっ!?」
やはり、あなたは話を聞きません。
聞かないまま、あなたはフランの手を引っぱり、かつて見た中庭の一角を目指して歩きはじめました。
そこには、よく人に慣れた小鳥たちが今もさえずっています。
騎士団の誰が作りつけたものか、餌入れや止まり木、近くの樹には巣箱までも据え付けてあります。
あなたは、ゆっくりと指を差し出し、息を整えます。
すると、数秒もしてから、小鳥たちの一羽があなたの指に止まります。
小さな
フランにも同じようにやってみるよう勧めましたが、気は進まない様子。
本当に自分にもそうしてくれるのか――――不安なのです。
でも、あなたの再三の勧めでようやく、フランもおずおずと指先を伸ばします。
不安げに揺れる碧眼は、あなたの指の上の鳥と視線が交わりました。
かすかに震える指を小鳥が見つめ、そして。
「あっ……」
あなたの指から、フランの指へ。
小鳥は飛び乗り、ぴぃぃっ、と鳴きました。
フランはそれを信じられないかのように見つめ、やがて……ゆっくりと、氷が解けたように、頬を緩めて微笑みました。
小鳥たちは、敏感なのです。
頑なな心に。
そして、柔らかくなった心にも。
初めて。
フラン=ノエルは初めて、あなたの前で、笑いました。
*****
“――――なんて事もあったな”
しみじみとそう語るあなたの隣で、フラン=ノエルは顔を真っ赤に染めて俯きます。
時は再び戻り、あの時出会った街辻です。
そこであなたとフランは出会い、どうにも印象の悪い一幕を演じました。
「っ……思い出させるな、この馬鹿!」
“じゃあ忘れるか?”
「忘れるな! ずっと覚えてろ!」
“ああ。ずっと心に秘めて何度も思い出す事にする”
「……もういい、もうそれでいい。いちいちおちょくるな、馬鹿」
今や、あの時の刺々しいフラン=ノエルの面影はありません。
決して馬上から見下ろすような事はなく、雨の日も、雪の日も、見回りは自らの足で行います。
困っている人がいれば助け、諍いがあれば仲裁し、あの時の少女とも今では気軽に挨拶を交わす仲です。
それどころか、騎士団本部へ戻る時には、街ゆく人達から手土産を貰う事までありました。
そんな変化をしみじみと思い出すうち、あなたは気付けば足取りが遅くなっていました。
時刻はちょうど夕暮れ、街の西にある塔のかげから、夕焼けが注いでいます。
あなたが遅れていることに気づいたフラン=ノエルは振り返り、からかうように呼びつけました。
「おい、何をもたついているんだ? 置いていくぞ」
夕焼けに染まる古都を吹き抜ける風が彼女の金髪を揺らし、輝かせました。
その顔は凛とした潔白な自信の中に強さと優しさを持つ、本当の、“騎士”のものでした。
でも――――あなたが見つめかえせば。
なんだか照れくさそうな、乙女の顔にも、変わるのでした。
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