第38話 3対1
流されているようでアレだが、とりあえず俺は稽古の依頼を受けることにした。
だが、出来れば1時間くらいでぱぱっと終わらせたいと思う。
あと、いくつか条件をつけておこう。
そう、何度も何度も来られてはかなわないからな。
「稽古のことは分かりました。ただし、俺にも魔法の修行があります。その修行は非常に時間がかかるもので、精神の集中力を高めるために、本来ならば俗界との交流を出来るだけ断つ必要があるのです。こうして皆さんと話しているだけでも、俺の訓練は遅れているのです。ですから、こうした事は今回の1回切りにして頂きます」
俺の言葉にミホルさんは頷いた。
「ふむ、了解した。さすがミキヒコさんほどの魔術師だな。やはり、そうした厳しい修行を日々、自らに課しているとは・・・、改めて感服したぞ。まあ、そもそも、本来ならばこんなことを頼める筋ではないのは理解しているんだ。よろしく頼む。ああ、それからもちろんそれなりの報酬も渡すつもりだ。帰りにお渡しすることとしよう」
あ、お金もらえるんだ。
労働なんてするつもりはなかったのだが、結果としてそうなってしまったらしい。
まあ、今回は乗りかかった船だ。
怠惰の道には反するが、甘んじて受け入れるとしよう。
「分かりました。あともう一つだけ条件があります」
「ふむ、なんだろうか?」
「俺の実力はあのモンスターとの戦いでご覧頂いたとおりです。1対1の戦いをしても、あまり意味はないでしょう。むしろ騎士団はチームとしての実力を向上させるべきです。ですから、今回の戦い、俺一人に皆さん全員でかかって来て下さい」
と、それっぽいセリフを並べる。
もちろんその本音は、いっぺんに倒してしまって戦いをサッサと終わらせるたいだけである。
まさに鬼畜。嘘も方便。
ただ、プライドの高い騎士団だからなあ。
土下座はしていたけど、きっと戦いという面においては、1対多、というのは卑怯とか言って、良しとしないかもしれない。
が、そんな俺の心配は完全に的外れだったらしく、ミホルどころか他の2人までもが深く頷いた。
おまけに、何やら感銘を受けたのか尊敬の眼差しで俺を見て来る。
それで良いのか君たち・・・。
「さすがミキヒコさんだ。私たち騎士団のことまでよく考えていてくれている」
「はい、本当ですね。確かに私たち騎士団は一騎打ちを好む傾向がありますが、ああした強力なモンスターが現れた以上、そうした考えは捨てるべきです」
「むしろ今後は組織でのチームプレーをもっと真剣に考えるべき。作法にこだわって国を損なってしまうのは本末転倒」
本当にこの人たち貴族で騎士なんだろうか?
ちょっと柔軟に受け止め過ぎじゃないですかね?
まぁ俺にとっては都合が良いから、別に良いんだけどさ。
彼女たちに語った内容だって、おかしな方向性ではないから問題はない。
前世でも「個より多、いざ物量で押し潰せ」って何かに書かれてたしな。
「よし、それじゃあ早速始めるとしようか?」
俺は椅子から立ち上がる。
これほど積極的なのは、もちろん単に早く稽古を済ませて、ラナさんのおっぱいに顔をうずめながら二度寝がしたいからである。
「い、今すぐにか!?」
「さすがですよね。いつでも戦えるよう常在戦場の心構えができてるってことですよ」
「私たちも見習うべき。私は騎士団には儀礼的な要素が多すぎるとかねてから指摘してきた」
何やら勝手に色々と勘違いされているようだが、どう釈明したらよいのかも分からなかったので放っておく。
ともかく俺たち5人は騎士団が普段訓練している広場まで移動したのであった。
◆◇◇◆
「ところで薔薇騎士団は3人しかいないんですか?」
広場に来た俺たちは5メートルほどの距離を空けて、向かい合う形で佇(たたず)んでいる。
ラナさんには危ないので少し離れてもらっていた。
俺の足元には砂利が広がっていて、小石なんかも転がっている。
俺の質問に、ミホルさんは「いや」と首を振った。
「あと20人ほどいるんだが、前回の戦いで負傷していてな。それなりに実力のある私たち3人以外は療養中だったり、一旦実家に戻ったりしているんだ。死人が出なかったのが不幸中の幸いだな」
なるほど、そういうことか。
全部で20人強のチームらしい。
そういう事なら3人の力が上がれば、チーム全体の実力の底上げになるだろう。
まあ、俺は普通に戦うだけだが。
「よし、じゃあ始めましょうか。すみませんが俺は手ほどきをするなんてことは出来ないから、とりあえず好きに俺にかかってきてください。俺も適当に反撃します。実戦形式ですね」
「承知!!」
そう言ってミホルさんが早速真剣で斬りかかってくる。
うお、容赦ないな!
『極小防御が発動しました。怠惰ポイントから5ポイントが差し引かれます。怠惰ポイントの充電は残り3340ポイントです。ご利用は計画的に』
俺の怠惰スキルが自動的に発動して、彼女の剣を手のひらで受け止める。
俺の手のひらには魔力なのか不思議パワーなのか分からないが、白い輝きが集まっていて、それが剣を押し返しているのだ。
「もう、隊長ったら先走り過ぎですよ! 連携するって話し合ったじゃないですか!」
「だから見合い相手に脳みそ筋肉とか言われる」
「む、そうか。すまかった・・・なっ!」
ミホルさんが後退するのと同時に後ろから2人が斬りかかってきた。
なかなか良い連携に思えるが、少しばかり単純だな。
今度は2つの剣を俺は片手ずつで受け止める。
「さすがに一筋縄ではいきませんねー」
「でも、これで懐はガラ空きのはず」
2人がそう言い終わるのを待つことなく、先ほど下がったミホルさんがもう一度突貫してきた。
すごい速さで俺の腹を狙ってくる。
本当に容赦ないな。防御をしくじれば俺の腹を見事貫通するほどの勢いだ。
俺は受け止めている剣のうち、ルルンさんのを『極小攻撃』で攻撃する。
ベギィ!!
「う、うそ・・・」
ルルンさんが驚愕の声を上げる。
俺のスキルによって彼女の剣が真ん中あたりからベキリと折られたからだ。
そして、その折られた刃先はちょうど突っ込んで来たミホルさんへ飛んでゆく。
「くっ!?」
ミホルさんが体勢を崩しながら、目の前に飛んできた刃先を切り払った。
致命的な隙である。
俺は足元の小石を『極小攻撃』を発動させて蹴り上げた。
両手はふさがっているが、足は比較的フリーだからな。
蹴った小石は物凄い勢いで飛んで体勢を崩しているミホルさんの胸へと命中した。
「ぐわっ!」
そんな悲鳴を上げて地面に手を付いた。
胸元は鎧で守られているため、大怪我は負っていないようだが、どうやら頑丈であるはずの鎧がベコリとへこんでいることからも、相当の衝撃だったようだ。
俺はミホルさんの負傷に気を取られている2人にも、同じく『極小攻撃』を発動させる。
戦場で油断してはいかんよ?
手加減はしたが、俺の攻撃をまともに受けて2人が吹っ飛ばされた。
これで終わりかな?
「さ、さすがミキヒコさんだ・・・。3人がかりだというのに、こうもうまくあしらわれるとは・・・」
「ミキヒコ様に対して油断してるつもりはなかったですけど、それでも甘かったってことでしょうかね。えっと、代えの剣っと・・・」
「ミキミキの不意をつくことが肝心。次は私から行く」
おっ、まだやるか。
まだ10分くらいしか経ってないしな。もうちょっとだけ付き合ってやろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます