第20話 無視しよ、無視

「うおおおおおお!!!」


そんな雄叫びを上げながら騎士たちが、既に亡骸であるモンスターへと突撃してくる。


どういうことだ?


あっ、そうか、アイツ等もしかしてコイツが既に死んでることに気づいてないのか。


「なんちゅう間抜けどもだ・・・」


まあ、無理もないか、確かに外見上は丸まる残ってるうえに、立ち往生してるんだもんな。


そのことを教えてやっても良いが、


「面倒だな・・・。それに、むしろ放っておいた方が、都合が良いかもしれん」


騎士団はまだダークオークが生きてると誤解している。


この後、斬りかかったり突いたりと一通り攻撃を仕掛けるだろうから、敵の死亡に気づくのはその時だ。


・・・とすればだ、敵にトドメを刺したのは自分たち騎士団だと誤解してくれるかもしれない。いや、むしろ世間へのメンツ的には自分たちが倒したことにするしかないだろう。


騎士団総出でかかって全滅寸前になりましたが流浪の魔術師に助けられました、などと上司に報告するわけにはいかないからだ。


そして、その方が俺としても都合が良い。


なぜなら、俺が倒したとなれば、どうしても目立ってしまうからだ。


それは俺の希望する所ではない。


俺の望みはただ一つ。ラナさんとベッドでゴロゴロしたり、おっぱいに顔をうずめたりして過ごすことなのだ。


有名になってしまっては、せっかくの俺の怠惰な日常が破壊されてしまう可能性が高い。


ちょっと盗賊団を壊滅させただけで、ジキトラとかいう馬鹿貴族に押しかけられたということを忘れてはならないのだ。


あのおかげで、せっかくラナさんとダラダラ出来る時間を、わずかであろうとも削られてしまったんだからな。


ああいった悲劇を繰り返さないためにも、騎士団が倒した事にしてくれた方が良いのだ。


それに、そもそも名誉なんてものに興味ないしな。


そういうのは犬にでも食べさせてやったほうが良い。


さて、方針は決まった。ならば、さっさとこの場所から退散するのが正解だろう。


一刻も早く別の宿をとって、ラナさんとベッドでゴロゴロしよう。


「うおおおおお!!!!!」


「これでも喰らええぇぇぇぇえええええ!!」


「どりゃああああああ!!!」


おおー、やっとるやっとる。


アレが死体蹴りってやつか。


俺はそんなことを思いながら、こっそりとモンスターから離れ、ラナさんの元までやって来る。


ラナさんは「お帰りなさい」とばかりに俺に抱きついて来た。すると、俺の頭はラナさんのおっぱいにすっかりと隠れてしまう。


うーん、我が家よりも居心地の良いこの安心感・・・。


が、浸っていてばかりもいられない。


俺はおっぱいに顔をうずめながら口を開く。


「聖域を破壊した不埒ものは倒したぞ、ラナさん。次の宿を探すことにしよう」


「まぁ、ではやはりあのモンスターはすでに死んでいるのですね? けれども、宜しいのですか? ご主人様が倒したことを主張すれば、きっと名誉は思いのままですよ? それに莫大な報酬を得ることもできると思いますが・・・」


ふむ?


俺はその言葉にラナさんの顔を見上げる。


だが、彼女の表情を見るに、俺がそういったことをちっとも望んでいない事を分かった上でいちおう聞いているようだ。


「分かってるだろう? 俺はそんなことに興味はない。ラナさんと一日一緒にベッドの上でダラダラと過ごせれば良い」


「名誉にもお金にも興味を示されないなんて、本当にご主人様は魔導の道を極めんとする求道者なのですね、素敵です。ええ、早く次の宿を見つけましょう。本日はお疲れでしょうから一日私の胸の中でお眠りください。お癒し致します」


それは楽しみだな。


しっかり者のラナさんはすでに部屋から俺の所持金を持ち出してくれていた。


俺とラナさんは死体蹴りを続ける騎士団を尻目に、路地裏へと消えたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る