充電式勇者。サボればサボるほど俺TUEEEE

初枝れんげ@3/7『追放嬉しい』6巻発売

第1話 怠惰な神様

「はっ!?」


俺の名は殻田幹彦からたみきひこ。どこにでもいる高校生だ。


さっきも授業中に先生の話をのんびりと右から左に聞き流していたはずなのだが、知らない間に変な場所にいた。


周囲を見ても青空・・・地面は・・・と思って下を見ればモクモクとした雲だ!?


なんだこれ!? たちの悪い夢か!?


「夢ではないぞい?」


「わっ!?」


俺の目の前には見知らぬ爺さんがいた。おかしい、今の今まで目の前には誰もいなかったはずなのに。


「い、一体いつの間に?」


「まあ、神なんでそこら辺は柔軟じゃよ」


か、神!?


あの一番偉い神様だっていうのか!?


「あ、と言っても儂は木っ端役人みたいなもんでの。ちょっとした伝言のために来ただけなんじゃ」


え? 下っ端? あと伝言?


「うむ、そうじゃ。実はの、日本のとある教室で先ほど予定外の事故が・・・具体的には天井の蛍光灯が落下し、その結果として下に偶然いた高校生の頭に命中し、しかも打ち所が悪かったらしくそのまま死んでしまう、という痛ましい事件が起きたのじゃよ」


「ふむふむ」


「ま、君のことなんじゃけどね?」


「えっ」


「なんじゃ、察しが悪いのう。話の流れから分かりそうなもんじゃぞ?」


「す、すいません・・・」


「まあ、原因は儂なんじゃけどね?」


はい?


「予定外の事故、と言ったじゃろ? 本当なら君は・・・殻田幹彦からたみきひこ君はそこで死ぬ運命ではなかったのじゃ。じゃが、天界で思わぬ事態が起こってのう」


「お、思わぬ展開ですか・・・?」


ゴクリと俺は喉を鳴らした。


人間の運命を狂わす程の出来事・・・天界で何か重大な事件でもあったのだろうか。


うむ、と神様は重々しく頷いた。


「ちょっと、儂が運命調整を面倒くさがって、タイムリミットの今日まで伸ばし伸ばししておったのじゃ。いやあ、今朝調整しようとしたんじゃがなあ、つい寝坊してしまってのう」


「ええええええええええ!?」


「いや、本当に申し訳ない。上司にも一度謝ってこいと言われたのじゃ」


そういってぺこりと頭を下げた。


うーむ、下げた頭にかかと落としでも食らわせてやりたい気分だが・・・まぁ、いいか。


俺は代わりに「ふわー」と欠伸をする。


すると神様が頭を上げて驚いた顔をして俺の方を見た。


「なんじゃ、怒らんのか? かかと落としくらいされるかと思ったのじゃが・・・」


いや、まあ確かに考えましたけどもね。


「面倒くさいし・・・」


そう、ぶっちゃけ面倒くさい。死んでしまったものは仕方ないだろう。


はっきり言って俺ってば、何もやる気にならない駄目人間なのだ。家にいてもベッドでごろごろしてるだけだし、友達と遊ぶのも面倒くさい。LINEやらツイッターやらとても無理。考えただけで頭が痛くなる。


そんな俺は何でも邪魔くさがって最後の最後にするタイプだ。そうこの神様と同じである。だから、この目の前の神様のせいで俺の命が失われたと知った今も、そんなに怒る気になれないのであった。


まあ、まだリアリティがないだけかもしれないが。


それよりも俺としては、さっきの続き・・・つまり、教室でまったりとくつろいでいた怠惰なる時間を満喫させてほしいのだ。


これから連れて行かれる世界が天国か地獄か知らないが、なんとか怠惰に過ごさせて欲しいものである。


「いや、実はお主には転生してもらうと思っているのじゃよ」


は? 転生? 転生ってもう一度人生やり直すってこと? っていうか心読まれるのか?


「もちろん、神なんてやってるんで心は読もうと思えば読めるぞい。ふむ、話を戻すがお主には転生をしてもらおうかと・・・」


「いっ、嫌です!!」


俺は初めて怒りに身を震わせて叫んだ。


やっと・・・やっとあの煩わしい面倒くさいしょうもない現世から解き放たれたと思っていたのに、またやり直しなんて冗談ではない。


周囲の人間は競争やら優劣やら勝敗やら努力やら、そういった価値観ばかりを押し付けてくるのだ。


俺にすればなぜだろう、と言うしかない。


なぜ、君たちは何かをしていないと気が済まないのだ。進歩しないと気が済まないのだ?


いいじゃないか。最低限やることをやったら、あとはゴロゴロとしていれば。そりゃあ、あとは美少女でもいれば最高だが、それは望み過ぎというものだ。


何はともあれ、もうあんな怠惰とは程遠い世界に戻るなんてごめんだ!!


「じゃが断る!! 既にお主の転生は決定しておるのじゃ!! 主に儂のせいじゃがな!!」


「最悪!!」


「だがお詫びとしてお主の望みをかなえよう。最強の力でも最高の魔術力でも何でも・・・」


「そんなのいらないから怠惰に過ごす権利を下さい」


「えっ、そんなのでいいの?」


「もちろんですよ! むしろそれ以外いらいないんで」


「うーん、そうか。なら儂の能力の一部を与えるかのう・・・。あまり同僚から褒められたことのない能力じゃが、お主であれば使いこなすことが出来るじゃろう。人を選ぶ能力ゆえな」


「えっと、具体的にはどんな能力で・・・」


「おっと、もう時間じゃな!! 返品は受け付けんので、頑張って次の人生を生きのじゃぞ!!」


「あっ、ちょっ、ちょっと!!」


「ぐっらーく!! あ、ポイントは今世の分を一部繰り越しサービスしとくからの! 詳細は来世でのー」


「あーれー」


そうして俺の意識は真白に塗りつぶされたのである。

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