第2話 これが異世界での初コンタクト
創が次に目を覚ました時、見たこともない天井だった。
そこから目を動かして横を見てみると壁が見える。
今度は反対方向へ目を動かすと木で出来たドアが見えた。
体を起こそうとした創だったが、神から言われていた事を思い出して自分が流行り病で死んだ少年の体だということを思い知った。
そう、立てないのだ。
いきなりこれは酷い。
とはいっても創には神から貰ったチートがある。
早速試してみようと創は自身の体に回復魔法を掛けるのであった。
「えっと……
ちょっと恥ずかしかったが無事に回復魔法は発動した。
どういう原理で発動したのかさっぱり分からなかった創だが深く考えるのはやめた。
変に考えて使えなくなっても困るからだ。
もっとも、神から貰ったスキルが使えなくなることはないとは思うが念のためである。
「よいしょっと……」
立ち上がった創は小さな小屋にしか見えない家から出て行く。
家を出ると村は聞いていた通り滅んでいるようで人っ子一人いない。
これからどうするかと悩んでいた創はお腹が鳴った。
ひとまず腹ごしらえが先だと何か食べ物がないかと村を見て回った。
やはり流行り病で滅んだ村だ。
食料はどこにもなかった。
それどころか腐敗した死体が転がっており、蝿がたかって、蛆虫が湧いているといったショッキングな光景に創は吐き気を催して胃液を吐いた。
「うぅ……。リアルで見るとマジでキツイな」
食料も見つからず金目のものもなかったので創は村を出て行く事に。
まずは人が住んでいそうな街を見つけるのだと意気込んでいた。
その前にまずはスキルの確認だと創は神から貰った三つのスキルをそれぞれ試すことにした。
とはいっても回復魔法の効果は確認済みなので残りは二つである。
まずは空間魔法からと創は考えた。
「…………転移!」
発動しない。
「テレポート!」
うんともすんとも言わない。
「空間を跳躍せよ!」
ただ恥ずかしい言葉だけが響いた。
「……どうやるんだ?」
これは非常に困ったと首を捻って考える創。
空間魔法の定番といえば転移なのだが全く出来る気がしない。
これでは折角の空間魔法が勿体無い。
どうしよかと悩んだ創は、結局空間魔法をやめて錬金術を使うことにした。
とりあえず、漫画やゲームの知識を用いて錬金術を使ってみると簡単に出来てしまった。
本当にこれで良かったのだろうかと思ってしまう創だったが、難しく考えても仕方がないと思考を切り替えた。
その後、適当に創は作れそうなものを作った。
服や靴からナイフや食器まで。
なんでも作れる事に驚いた創だったが、最後には「流石神様から貰ったチートだぜ」と考えるのをやめて、神様へ感謝の祈りを捧げるのであった。
一応、空間魔法以外のスキルは使えたので良しとした創は村を出て行く事にした。
ここに留まっても仕方がないからだ。
村を出た創は道を歩く。
田舎のように舗装されていない地面がむき出しになって雑草が所々に生えている道だ。
どこまでもまっすぐに続いており、この先に街があるのあかどうかすら分からない。
それでも創は歩くのが案外楽しかった。
未知なる世界に胸躍る冒険だと創は年甲斐もなくワクワクしていた。
まあ、体は子供になっているので不思議な事ではない。
ずっと歩き続けていた創だったが、やはり子供の体に空腹は負担が大きかった。道の途中で動けなくなったのだ。
パタリと倒れた創は本気で焦る。
このままでは野垂れ死んでしまうと。
しかし、悲しい事にここはド田舎なのか誰も通らない。
このまま餓え死にするのだろうかと思っていた時、馬車が見えたのだ。
創は最後の力を振り絞って立ち上がり、馬車の方まで走って、大きく手を振りながら、大声を出した。
「おーいッ! おーーいッ!」
その声が届いたのか馬車に乗っていた男が創の方に顔を向けた。
男が顔を向けたのを見て創は助かったと安心した瞬間に足がもつれて盛大にこけた。
「ぶへッ!」
顔面から思いっきり地面にぶつけてしまった創。
馬車に乗っていた男は創が顔面から地面に突っ込んだのを見て驚き、進行方向を創の方に変えた。
突然、馬車の進行方向が変わったことで馬車に乗っていた者達が驚いて騒ぎ始めた。
「おいおい、いきなりどうしたよ!」
「ちょっと急に曲がらないでくれる~?」
「なんかありましたか、旦那~?」
御者をしていた男に馬車に乗っていた男の一人が話しかける。
男の質問に御者の男は一言詫びて答えた。
「いやー、ごめんごめん。子供を見つけてね。ほら、あそこで転んでるのが見える?」
御者が指を差した方向には創が突っ伏して倒れている。
それを見た男がなるほどと頷いた。
「お優しいことですね~」
「あはは……。まあ、困ってる人は放っておけない性分でして」
照れているのか御者は顔を赤くしながら後頭部をかいていた。
それから、すぐに馬車を倒れている
「お~い、大丈夫かい?」
転んで倒れている創に御者の男が声を掛ける。
創は顔を上げて男の顔を覗いた。
すると、そこには温和そうな男がこちらを心配そうに見詰めている。
それを見た創は優しそうな人で良かったと安堵しながら立ち上がる。
「はい、大丈夫です」
そう言って立ち上がる創だが、顔面から地面に突っ込んだせいで鼻血を出している。
本人は気付いていないのか、全く気にしていない。
しかし、彼と対面している御者の男は困ったように笑っている。
「アハハハ。君、鼻血出てるよ」
「え、あッ!」
慌てて鼻血を拭う創に男は笑って、持っている手拭いを渡した。
「これで拭くといいよ」
「い、いいんですか?」
「うん。ほら、早く拭かないと服に血がついちゃうよ」
「うわッ! すいません。ありがとうございます!」
男から手拭を受け取った創は、すぐに鼻血を拭いて止血する。
回復魔法を使っても良かったのだが、あらぬ疑いをかけられても困るし、それに変な勘繰りをされても不味いので創は男から受け取った手拭で鼻を押さえるのであった。
「落ち着いたかい?」
「あ、はい。もう大丈夫だと思います」
「それじゃ、まずは初めまして。僕は近くの町で商人をやっているデニスって言うんだ。君の名前は?」
名前を聞かれた創はいつものように苗字を名乗ろうとしたのだが、開きかけた口を閉じる。
この世界についてまだ詳しく知らないのだが、もしかすると苗字を持つのは身分のある人間だけではないのだろうかと考えたのだ。
実際、デニスは苗字を名乗っていない。
つまり、そういうことなのだと創は推測して、自身の名前を教えるのであった。
「創、ハジメと言います」
「ハジメ……。そっか。いい名前だね」
「ありがとうございます」
「ところでハジメは一人なのかな? ご両親の姿はどこにも見当たらないけど?」
「えっと、両親は……流行り病で死にました」
「え! そうだったのか……。だから、一人なんだね。でも、子供一人って言うのはちょっとおかしいな。もう少し詳しく話を聞かせてくれるかい?」
嘘をついて誤魔化すか悩んだハジメであったが、話をしている限りデニスは悪人ではないと思った。
もしかすると演技なのかもしれないが、現代日本という治安のいい世界で育ってきたハジメに見抜くことは出来ないだろう。
「実は、村の人達は皆死んじゃって……」
「ええッ!? もしかして、両親と同じように流行り病で?」
「はい。僕は運よく病気にはならなかったのですが、食料も水も尽きてしまい、餓死する恐れがあったので村を飛び出したのです」
「そうだったのか。それは大変だったね。良かったら僕と一緒に町へ行く? 流石に子供一人だと町までは厳しいよ」
「え、いいんですか?」
「うん。君さえ良ければね」
「ありがとうございます! 是非、お願いします!」
「いいよ、いいよ。これくらい」
デニスは笑顔でハジメに手を差し出す。ハジメはその手を取り、デニスと一緒に町へ行くことを決めたのであった。
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