クラスカード『ディレクター』はヒロイン育成に役立ちます

人間の体には、カードスロットと呼ばれる概念器官が存在するのは、既に周知の事実だろう。

首筋に刻まれた黒い線、『スキャナー』に通す事で、カードの情報を取り込み、能力スキル契約エンゲージを結ぶ事が出来る。

スキルのセット数は個体差はあれど100が平均値。

炎を手から放つ『ヒートショット(Ⅰ)』が大体10くらいだとすれば、最高級レベルである『万象燃え去る劫火(Ⅴ)』が50~70程である。


広く浅く能力を得るのならばレベル『Ⅰ』~『Ⅱ』あたりで編成する者が居れば、狭く深く、能力を発揮するレベル『Ⅴ』の能力を取得するだろう。


尤も、スキルカードのみで編成する馬鹿は居ない。

人間の肉体は脆い、だからこそカードで補強するのが最善の手。

だからと言って、『肉体強化』や『機敏活動』と言ったスキルカードにちまちまセット数を消耗させるなど愚の骨頂。


カードには様々な種類が存在する。

先程も言った様に『スキル』を所持するカード、召喚獣や英霊と主従関係を結ぶ『エンゲージ』のカードの他にも、武器として召喚させる『マテリアル』のカードや空間内の法則の書き換えや空間そのものを現実空間に敷く『エリア』のカードなど。


その中でも、単純に自身を強化させるとすれば、やはり『スキル』よりも、肉体に刻まれた経験と能力を自在に引き出す事が出来る『クラス』カードが適正的だ。


『クラスカード』。市場に出ている平均価格で一枚一億以上は下らない。

何故ならばクラスカードにレベルの概念が存在しない。

これは、どのクラスカードでも所得すれば一様にレベルを上昇する事が出来る為だ。

同時にクラスカードは種類は複数あれども、その内容が同じカードは一つも無い。


一枚所持すれば、その時点で誰も真似出来ないオリジナルを所持する事になるからだ。


尤も、希少性が高い分リスクもある。

全てのクラスカードには極限までレベルを上げたとしても、戦闘力に差が出る事もある。

ユニークスキルが多すぎて戦闘では使えないし、逆に力が強すぎて暴走する可能性がある。

何よりも、クラスカードを装備している場合は、基本的に他のカードを使用する事が出来ない、と言う欠点が存在する。


最悪な事に、カードは一度取得すると、消去しても微かばかりの情報が肉体に残ってしまう。

レベル『Ⅰ』のカードを消去すればセット数が2程残ってしまう。

クラスカードを使ってしまうとセット数が50も残ってしまうのだ。だから一度取得した以上は、そのまま使った方がマシになる。


この様に当たり外れがあるが、それでもクラスカードには他のカードには無い魅力があるのは事実だった。


カードの入手方法は簡単だ。

近場に展開されている『扉』を潜り、迷宮内部に存在するモンスターないし封印庫を開けばその時点でカードを入手出来る。


神々廻ししばさん、どうします?」


刀を装備する片目隠れのホスト風の椛澤かざわがそう言った。

周囲の雑魚モンスターを蹴散らした所で、俺と椛澤は封印庫前に立つ。


「まあ開けるだろ、そんでカードが出たら山分けって事になってるが…」


「クラスカードが出たら神々廻さん、欲しいんでしたっけ?」


「あぁ、山分けだかんな。相場の半分をやるよ、前欲しがってたレベル『Ⅴ』のカード二枚やるからよ」


「いいっすよ別にそれくらい。僕はクラスカード装備してますし、神々廻さんだけカード装備してないの、面倒でしょ」


出来た後輩だ。思わず頭を撫でてやりたくなる。

封印庫はカードを結晶の様なもので覆われている。


メリケンサックを嵌め直すと、さっそく封印庫を破壊した。

硝子の様に砕ける封印の結晶。カードが出て来るので俺はそれを掴んだ。


「どうです?神々廻さん。カードの内容。なんでした?」


「見てみるか?ほれ」


興奮を隠せぬ様子で俺はカードを椛澤に見せる。

俺の後ろから顔を出して椛澤がカードの内容を確認した。


「クラスカード…『ディレクター』?…どんな効果なんですかね?まあ、効果は装備しないとわかんないか…あぁ、神々廻さん、おめでとうございます。これで晴れて、クラスカード保持者ですね」


椛澤が手を叩いてそう言った。


「セット数は…90か」


かなり容量が大きいな…これを装備したら、他のカード効果の恩恵を受けられない。


「神々廻さん、大丈夫なんですか?セット数」


「十五の時から『筋力強化(Ⅰ)』のスキルカードだけしか保持してないから容量は十分にある」


俺のセット数は105。

これを装備したら他のカードを装備する事は出来ないが…。

首筋にカードを揃える、黒い線のスキャナーに向けてスライドさせると、カードが消える。

クラスカードを所持する事に関して俺は恐らく後悔はない。

俺はクラスカードを得る為に、セット数を一枚で抑えて来た。

その時点で俺の覚悟は承知だろう。クラスカードを入手するに至っては、一切の後悔は無かった。


俺、神々廻ししば骨牌かるたは、クラスカードを装備する為に生きて来た人生と言っても過言じゃなかった。




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