ネタ帳

三流木青二斎無一門

途中

二人同乗。

密室の最中動くエレベーター。

無機質な移動感覚が二人を高昇らせる。

しかし、その道中。


「あ?…エレベーター、動いてないな」


ごうんと、エレベーターが停止する。

碧の瞳が電子で出来た階層表示を確認する。


「んー?あ、まじだ」


無を表す黒い液晶画面。

エレベーターが動く気配が無い。


「勘弁してくれよな…待ちぼうけじゃねぇか」


苛立ちを思わせる様に揺蕩たゆたが緊急ボタンを連打する。


「まあ、いいじゃん。別に」


対して冷静さを浮かばせる雪凪ゆきなぎはとが慌てる事も無く平然と言った。


「楽観的にも程があるだろ、…まあ、流石にこのまま放置って訳にも行かないだろうし、すぐに復旧すると思うけどよ…いや、それでもな…」


色々と不便な事だ。

手持ちには手から提げているポリ袋に、今晩繰り広げられる鍋の為の材料しか揃ってない。


「別に、このままでも良いけどね」


「はあ?」


凡人には理解出来ない、彼女の思考回路。

何故、この状況下でそんな事が言えるのか理解出来ずにそう言ってしまう。


「このまま、二人。一緒に居られるじゃん。誰にも邪魔されずにさ」


雪凪鳩はどうやら、この状況下を楽しんでいる様子だった。


「…それなら普通に部屋の方が楽だろ」


こんな密室でなくとも。

二人きりで居られる状況などいくらでもある。

国童こくどう揺蕩はそう言ったが。


「閉鎖的で狭い部屋の中。娯楽も何も無い二人だけの密室空間。あるのは私と揺蕩だけ。私だけしか、見られない」


碧の瞳が国童揺蕩に向けられる。

草原よりも青々とした瞳は、宝石の様に澄んでいて、呆然と見続けていたくなる魅力を秘めている。

尤も、既に国童揺蕩にとっては見慣れた瞳ではあった。


「と言っても普通にスマホあるけどな…いてっ」


ポケットからスマホを取り出して、手始めにこのデパートの連絡を入れて従業員に連絡でも入れようかとした。

その直後に、雪凪鳩の拳が軽く国童揺蕩の横腹を突いた。


「…そういうの好きじゃない。ロマンが欠けてる、揺蕩は」


「現実主義者だからな、俺は…」


「ふぅ…ん」


「…まあ、たまには悪くないな、こういうのも」


「ん、う、んん」


「別の人間ならこうは言わねぇけど…、お前となら退屈は」


「ねぇ、揺蕩」


「あ?どしたよ」


「おしっこ」


「急に現実に戻すんじゃねぇよ」


「私、リアリストだから…、うぅ」


「我慢出来ねぇのか?」


「うーん……。一歩分は歩ける」


「かなり限界じゃねぇか…あぁ、もう…ほら」


「え?飲むの?」


「いや、もしもの為だ。マジで我慢出来なくなったらそれに」


「よいしょ」


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