25. 渡米
学校では、温泉での会話こそが偽りだったかのように、また当然の如く、芹花と行動しているキレト。
1時間目が体育で、着替える時に、さり気なくキレトとの件を芹花に尋ねてみた。
「ちゃんと私が振ったって事にしてくれているんだ、優しいね、
そう言った芹花は、少し口元だけ笑っていた。
「ホントは違うの?」
「愛音ちゃんにだけ白状するけど、ホントはね、私が振られたの。私、実は今まで、家庭教師とか大学生とか、年上彼氏が多かったの」
えっ、そんなの初耳!
「芹花、お付き合いしている人いたんだ!」
しかも、そんなに複数!
「だから、同学年の男子でも、遊んでいるタイプの男子の方が気軽に付き合えていいかなって思っていたの。
「だって、キレトは、チャラ男っぽいから......」
でも、チャラ男っぽいのは外見だけで、ホントは違っていた......
「この前、私の家でデートした時、
えっ、それは......!!
キレトじゃなくても引くと思う!
純情可憐なイメージでしかない芹花が、いきなりビッチなアピールし出したら、親友の私でもパニクる!
話を本人から聞いている今だって、信じられないし......!
「それにね、
アメリカ......?
婚約者......?
何それ?
絵美さんが言っていた「無理」って......この事?
芹花も知っていたのに、私だけが知らなかったの?
キレトとは家族なのに、私だけ知らないままだったんだ......
「芹花ちゃんは知らなかったの? なんか意外~。家族なんだし、てっきり、家でもそういう話題が出ていたと思ってたのに......」
経験豊富な芹花に、逃げ腰になったキレトの
でも、キレトって、わりと不器用だから、そんないかにもバレそうなウソを突発的に用意できる感じしない。
「ただ、温泉旅行行った時に、もう4人揃っては行けないような事を絵美さんが言って、気になってた......」
「絵美さんって、
「えっ、うん......だって、私にはお母さんがいるし、何となく呼び
芹花が私の立場なら、結婚前から呼べてそうだよね。
私よりスラスラとスムーズに話せるし、絵美さんも、私のような不愛想な子より、すぐに『お母さん』呼びしてくれるような義理の娘の方が良かったのにって思われてそう......
「愛音ちゃんがそんなに抵抗有るなら、無理して呼ばなくてもいいと思う。でも、きっと『お母さん』って呼んでもらった方が嬉しいんじゃないかな?」
分かっているけど.......それがすんなりと出来たら苦労しない。
「うん......頑張ってみる」
「私も正直に答えたから、今度は、愛音ちゃんの番ね! 愛音ちゃんって、渡上君と上手くいってる?」
突然、何を聞いて来るのかと思ったら、渡上との事......?
「あのね、芹花......ホント言うと、私と渡上君は付き合ってないの。協力体制というか、同盟結んでいるような感じ」
「何それ? 面白い! な~んだ、渡上君とは付き合ってないの?」
「うん。だって渡上は、まだ芹花の事を諦めてないもん」
私の言葉で、芹花が嬉しそうな表情になったように見えたけど......
どうして......?
「この前の手洗い場での愛音ちゃんと渡上君のキスを見て、あんな風に学校とかでも人目はばからないでキス出来るって、スゴイと思ったの! 私、そういうのに憧れるから、灯台下暗しっていうのかな? 愛音ちゃんと付き合ってないなら、
え~っ、それって意外でしかないんだけど!!
あの渡上とのキス、私はムカついたのに、芹花にはそんな風に見えていたなんて!
しかも、そういう感じが良くて、渡上と付き合いたいって!
私、今まで、芹花の親友ずっとしてきたつもりなのに、ホントは芹花の事を何も分かってなかったんだ......
「芹花が、そういう感じの男の人が好きって知らなくて、ホント驚いた! 渡上、ずっと芹花の事が好きだったから、きっと喜ぶよ!」
「
「無理してキレトと付き合っているような演技は、もう続けなくてもいいと思うけど......」
「そうかな? こんな短期間で別れて、別の男子とくっ付くのって、周りから
芹花は、何をやっても、可愛いだけで許されるから!
......って言うと、あまり良い気持ちしないかな?
「周りはともかく、本人達の気持ちが大事だと思う!」
「そうよね、ありがとう、愛音ちゃん! 勇気が湧いたわ! ところで、愛音ちゃんは、渡上君とどんな協定を結んでいたの?
そう連想するのが自然だよね。
「もういいの、川浦君の事は諦める!」
「だったら、渡上君とカムフラージュのメリットって、愛音ちゃんには無かったの?」
渡上と付き合い出したのは、芹花と仲良く帰っていたキレトへの当てつけみたいなものだったけど......
でも、渡上通じて、昔の情報を色々ゲット出来たし、メリットといえば、それがメリットなのかも。
「渡上って、私の幼馴染みだったみたい。私、その頃の記憶が飛んでしまっているけど、渡上は、よく覚えていたから教えてもらった」
「幼馴染みって、渡上君だけ?
「芹花も知ってたの?」
芹花は、その頃はまだこの学区にいなかったし、幼稚園も別だったはず。
「
キレトのおしゃべり!
そんな事まで芹花に話して!
私だけが記憶力0のバカみたいじゃない!
ううん、キレトだけじゃなく、お父さんも絵美さんもヒドイ!
どうして、キレトがいなくなるって、私に一言も言ってくれないの?
大体、どうして、キレトはアメリカに行く事になってるの?
いくら婚約者が待っているからって、まだ結婚できる年齢じゃないんだから、今、行く必要なんて有る?
下校中、芹花とキレトはまだ交際してるふり続けているみたいだけど、相変わらず仲がいいから、ホントにふりなのか疑問......
もしかしたら、さっきの芹花は単なる気まぐれ言ってみただけで、またキレトと復活なんて事も有り得るかも......?
私は、例によって渡上と一緒に帰宅していた。
「坂井、アメリカ行くってな?」
渡上も知っていたんだ......
どうして、私だけ除け者にされてるの?
いつまでも記憶喪失の子供じゃないんだから、教えてくれてもいいのに!
「今朝、芹花から聞いた。坂井君も家族も、私には一言も言ってくれないんだよね......」
思わず渡上に愚痴ってしまった。
「そりゃあ言わねーだろ! そもそも、お前が原因なんだし」
えっ!
私が原因......?
「どうして私のせいなの?」
「一緒に暮らすのイヤだから、お前、進路を全寮制のとこ選ぼうとしてたんだろ? だったら、自分が出て行こうとする健気な男心、俺にもよく分かるよ!」
そんな前の事を引き
その後は色々有ったから、私の気持ちだってすごく変化していたのに......
キレトの中では、その時のままだったの?
なんか、それって......
悔しくて、すごくムカついて、泣けそうなんだけど!
「わっ、泣くなよ、こんなとこで! チクったの、ヤバかったか?」
「ううん! 教えてくれて、ありがと!」
キレトに抗議しなきゃ!
私のせいだったなんて......
そりゃあ、私ずっと、キレトと家族になりたくないアピール続けて来たけど......
それが、キレトにそんな
今まで私の発言は、心無い言葉の刃となって、毎回キレトにグサグサと突き刺さっていたんだ......
だとしたら、キレトの方から去りたくなっても、当然......?
私が、この3ヵ月くらいの期間、そんなにもキレトを傷付けていたとしたら、責められるのは、当然、私の方......
だから、お父さんも絵美さんも、この件に関して、私に黙ったまま進めていたんだ......
「キレト、一緒に帰ろう!」
渡上と分岐点で分かれた後、先に芹花と分かれて1人で前を歩いていたキレトに、走って追い付いた。
「何だよ? いつもと違い過ぎて、気持ち悪いな!」
ううん!!
やっぱり、私だけのせいじゃない!
私が仲良さげに接すると、ほら、キレトだって、この調子なんだから!
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