16. 遊園地にて

 バスで行くよりもずっと早くスカイランドに到着して、小型バスから降りると、早速、渡上が提案した。


「グーチョキパーして合った人で、3組のペアを作ろう!」


 そんな事しなくても、私、芹花と一緒でいいんだけど......


 あっ、そうか!

 芹花は私じゃなくて、キレトと一緒がいいんだった。


 私だって出来るなら、最後くらい川浦君と一緒に過ごしたいけど、そんな上手くペア組めると思えない。


 渡上の提案に、誰も反対する人いないよね、やっぱり......

 私以外は、カップルになれるのを楽しみにしている人達なんだもんね。


「グーチョキパーで合った人~!」


 えっ、嘘みたいに合ってる!

 最初の1回だけで、キレイにグーチョキパーの3組に分かれるなんてスゴイ!


 川浦君と芹花


 渡上と磯前いそまえさん

 

 ......って、私、キレトとじゃない!!

 そんなのイヤだ!

 

「あっ、もう1回やり直ししない?」


 思わず、口出しせずにいられなかった。


「これだと、俺達は、変化に乏し過ぎるからな~!」


 キレトも、モチロン同感。


「しゃーないなー、もう1回きりだぞ!」


 芹花とペアを組めなかった渡上が、仕方無い様子で言ったものの、内心は絶対に違っているのが、顔に現れている!

 今回のは、誰もが望んでない組み合わせだったから、みんなが賛成して、スムーズにやり直しが効いた。

 やり直してからは、なかなか合わなくなり、8度目でやっと分かれた。


 川浦君と磯前いそまえさん


 芹花とキレト


 私と渡上......


 当然、渡上は不服そうだけど、自分で、もう1回きりだと言った手前、今さら後に引けない様子。

 

 渡上、いい加減、気付きなよ!

 4/6は、喜んでいるの!

 つまり、私達以外は理想のカップリングなんだって!


「川浦君とペア組めて、嬉しい!」


 本音ダダれの状態で、磯前いそまえさんがはしゃいで言ったのが、心に突き刺さる。

 もうダメだ、精神的にきつ過ぎて耐えられない、帰りたい......

 

「悪いけど、僕は、上柳さんと組みたい」


 えっ......?

 今の.......って、私の空耳じゃないよね......?


「どうして......?」


 川浦君の予想外の返答に、磯前いそまえさんの表情は固まった。


磯前いそまえさんの事は好きだけど、誰にでも言い寄ったり、キスしたりするような女子中学生はどうかと思う......」


 後半はともかく、前半部分は聞きたくなかった!

 やっぱり、川浦君は、磯前いそまえさんが好きだったんだ......


 えっ、ちょっと待って!

 キスしたりって......川浦君、言ってたけど


 確か、キレトから聞いた話だと、2人はキスしてなかったはず!


 川浦君は勘違いしたまま、その事だけが引っかかって、本当は好きなのに自分の気持ちに素直になれないでいるんだ。


「私、してないのに......」


 磯前いそまえさんの呟くような声は、川浦君にも届いていたはずなのに......


「とにかく、僕は、上柳さんと組ませてもらう!」


 川浦君とペアは望んでいたけど、そんな理由で私と組みたいだなんて、私は磯前いそまえさんの代用品なんかじゃない!


 キレトの方も、もの言いたげな感じでいたけど、今のは絶対、私の方が何倍も言いたいところだから!

 先を越してやった!


「私は、川浦君と組まない!」


「えっ?」


 出鼻をくじかれ、意外そうな顔になった川浦君。


 川浦君だけじゃなく、キレトも渡上も驚いていた。


磯前いそまえさんの代わりに当然みたいに、私を指名してきて、そんな風に言われた、私の気持ち分かる? 大体、男だったら、好きな女子の言う事くらい信じてあげたら!」


 今まで、キレト以外にこんな発言してなかったけど、キレトで慣らされてしまったせいか、思わず、川浦君が相手なのに、ズバズバ言ってしまっていた!


 みんな、私の勢いに呆気あっけに取られてる!


 川浦君には、嫌われたよね......?


 でも、いいんだ!

 元々、好いてもらってなかったんだし......


「そうか......臼井さんも、僕とのペアは断る?」


 川浦君は、懲りずに、今度は芹花に尋ねた。

 そんなの芹花が引き受けるわけない!

 念願のキレトとペアになれたのに!


「ごめんなさい、私、坂井君とペアがいいです」


 芹花がそう言った時のキレトの顔ったら、単細胞な丸出しな感じ!


 おめでとう、お幸せに!!


「他に相手がいないような僕だけど、あきれられてなかったら、ペア組んでもらえますか?」


 さっきは、断っておきながら、今度は磯前いそまえさんに王子様がするようにお辞儀じぎして、右手を差し出した川浦君。

 磯前いそまえさんは、少し涙目になって、川浦君の申し出にうなずき、手を乗せた。

 

 この瞬間、失恋フラグだったのが、失恋確定になった!!


 しかも、自ら招いてしまった......!


 私、なんで、こんな損な役回りにしてるんだろ?


「どうする? 一緒に行動する? それとも、別行動する?」


 他の5人に尋ねながらも、きっと、磯前いそまえさんは、川浦君と2人で別行動したいんだろうな。


「絶対、一緒!」


 渡上は、さっき、芹花にあんな決定打された後でも、芹花から離れたくないんだね。


 私は、川浦君と磯前いそまえさんの仲良さげな様子とか、目の前で見せつけられたくないし、別行動でも、よかったんだけど......

 考えてみたら、渡上と2人でずっと一緒の行動は、ハッキリ言って苦痛!


「乗り物とか乗れない人がいたりするかも知れないから、取り敢えず、一緒に行動しておこうか」


 キレトがそう言った事によって、渡上がキレトを引き寄せて2人で歩き出し、親衛隊長として、芹花と接する上での注意事項を事細かに説明しているようだった。


 そのおかげで、私は、芹花といつもの学校の時のように、一緒に歩いて行動する事が出来て内心ホッとした。


 そうだ、乗り物乗る前に、トイレに行っておかなきゃ!


 芹花を待たせてトイレに行くと、生理二日目だから出血多量でフラフラして来た。

 手洗い場に近付いた時、キレトと渡上の会話が聴こえて来た。


「渡上、いい加減ペア行動させてくれよ~」


 いつまでも渡上に付きまとわれて、迷惑気味のキレト。


「お前はペアの相手が、芹花ちゃんだからいいよ! 俺なんて、まだ磯前いそまえさんの方が良かった。上柳って、さっきのコワイ態度が、本性なんだろ~? 普段は芹花ちゃんと一緒にいて、大人しぶってたりしてるけど。今日のおめかしも、なんかイタイって思ってたんだ」


 渡上......


元からイヤな奴と思ってたけど、あんな奴に陰でここまで言われると、ムカつき通り過ぎて、泣けてきそう!

 ただでさえイヤな事ばっかで凹んでるところ、こんな追い打ちかけて来なくてもいいのに。

 それでなくても、生理2日目で、情緒不安定なんだから......


「お前さ、あいつがどんな気持ちで、川浦にあんな事を言ったのか、分かってるのか? いや、芹花ちゃんの親衛隊とかって、マジでキモイと思うから、お前の方が、百倍イタイ!」


 キレト......


止めてよ、こんな時に限って......

渡上と一緒に、いつもみたいに私の悪口を散々言ってくれて良かったのに......

 そうじゃないと、涙が止まらなくなってしまう......


 ああ~っ、ダメだ!

 こんな泣き顔をみんなの前でさらしたら、ドン引きされてしまう!

 トイレの中にもう1回戻ろう!


 しばらく経っても戻らないでいると、1つだけ締まっていたらしいトイレのドアを叩いて来た芹花。


「愛音ちゃん、大丈夫? 生理痛とか、辛いの?」


 これ以上待たせたら、乗り物に乗る時間とか無くなってしまうから、いい加減、何事も無かったようして出ないと。


「ゴメンね、待たせて」


「愛音ちゃん、泣いていたの? 川浦君と磯前いそまえさんの事で......?」


 それも、無きにしもあらずなんだけど......

 でも、芹花にキレトの事は説明しにくい。


「うん、大失恋だった~!」


 苦笑いして答えた。


 みんなが待っていてくれた所に戻ったけど、誰も、私の泣き顔の理由をえて聞いて来なかった。


「まずは、突き当たってしまったから、お化け屋敷でいい?」


 楽しそうに提案してきた磯前いそまえさん。

 そうだよね~。

 念願叶って、編集委員の中で唯一誕生した七夕カップルだもんね!


 芹花やキレトも、七夕カップルに続いて、2年3組にもう1組のカップル誕生って勢いだから、お化け屋敷に入って急接近を期待してそう。


 えっ、でも、待って......

 お化け屋敷って、私はムリなんだけど!


「ゴメン。私、休憩しておく」


 みんなは、私が参加しなくて、少し意外そうな様子をしていた。

 ただ1人、渡上は、私が参加しない事によって、必然的に芹花の近くを陣取る事が出来て、願ったり叶ったりな顔してる。


「坂井の反対側は、僕が守ってあげるから! 安心して、芹花ちゃん!」


 渡上に言われて、少し困ったような表情を浮かべた芹花。

 せっかくキレトと2人で行動したかったのに、私が休憩したせいで、浮いてしまった渡上がそっちに行って、芹花には申し訳無いけど.....


 私、暗闇が苦手なの!!


 だから、室内の暗闇を通って行くような感じのジェットコースターも苦手。


 物心ついたのは、5歳くらいなのかな......?

 一番昔の記憶がそれだから。


 お母さんが亡くなったお葬式の日、雷が凄くて、停電になって......


 すごく怖かった......


 雷もだけど


 電気が点いてからも、しばらく、その暗闇が怖かった時の余韻は続いていた。

 でも、お葬式で、お母さんの木棺のふたを閉めた時、お母さんには、その暗闇がずっと続いているんだって思うと、その事が何より怖かった......


 それがトラウマになったんだと思う。

 それ以来、暗い所が怖くてたまらない。


 だから、お化け屋敷なんか入ったら、お化けに驚かされる前に、絶叫しまくって、みんなから顰蹙ひんしゅく買ってしまう。


 考えてみたら、そもそも私、遊園地って無理だったのかも知れない......


 生理なだけでも、貧血気味でフラフラするし、暗闇はダメだし、乗り物も気持ち悪くなりそうだし。

 でも、みんな、目的地は遊園地って事で乗り気だったし、私1人が反対したって、多数決で、ここに決まってたよね。

 七夕カップルにもなれず、嫌々ペアになった渡上からは、あんなブーイングされて、なんかもう面倒臭くなって来た。


 私1人、先に帰った方がいいのかも......


「怖かったね~!」


 お化け屋敷から、一番乗りで出て来た、芹花とキレトと渡上。

 渡上は、最後まで、2人に離れないで付きまとっていたんだ。

 なかなかしぶといよね。


「愛音ちゃん、お待たせ! 怖くて、叫びまくってしまった」


「芹花ちゃん、思ったより、声がデカくて驚かされた」


 あっ、キレト、芹花の事をちゃん付けで呼んでいる!

 今までは、臼井さんだったのに。


 そして、そんなキレトとまだ手を繋いでいる芹花。

 渡上が横にいても、お構いなしで、キレトと親密度深めたのかな?

 

「次、どうする?」


 川浦君と一緒に、お化け屋敷から出て来た磯前いそまえさん。

 2人の手は、恋人繋ぎしてる......


 渡上と3人の芹花とキレトでさえ、お化け屋敷に入っただけで、親密度が急上昇してるんだから、水入らずの2人で入った川浦君と磯前いそまえさんが、それ以上に急接近しても当然の事なんだ......


 そんなの見せつけられる為だけに、私が今、存在しているみたいで、なんだか道化感丸出し......


 だからって、何も乗り物に乗らないで、私だけ先に帰るのって、それを認めてしまっているみたいで、惨めだし......

 もう、入園料も払ってあるから、1つ2つくらいは乗り物に乗らないともったいないよね。


「ジェットコースターとかいいよな~!」


 渡上が張り切って言っている。

 

「えっ、私、パス」


 芹花が小声で言った。

 あっ、前に芹花が言っていた。

 私は貧乳だから、そういう感覚分からないけど、巨乳だと、揺れ具合が気持ち悪いって、前に芹花が言ってた。


「僕らは、何でもいいけど」


「うん、川浦君と一緒なら怖くない!」


 なんで、そんなに見せつけて来るの~、この2人?

 どういう顔して返していいのか分からない。


「芹花ちゃん、苦手なんだね。1人じゃ心細いと思うし、俺も一緒に休むよ。みんな楽しんで来てくれ!」


 えっ、渡上、さっき誰よりもジェットコースター楽しみにしている感じだったのに!

 これが、恋のなせる技なの?


はどうするの?」


 あっ、私の事だ!

 キレトにそう呼ばれるのって、まだ慣れない。


「もちろん、ジェットコースター大好きだから、乗る!」


 お化け屋敷といい、断ってばかりいたら、共調性の無い人間だと思われてしまうもんね。


 最前列が特等席なのに、川浦君&磯前いそまえさんカップルに取られてしまって、彼らのいちゃつく様子がよく見える最悪の席になってしまった。

 芹花と渡上が休憩中で、あとは、私とキレトだったけど、混んでいるから1人ずつバラバラな位置に座らせてもらえないし、私は、ちゃんと空気読んでキレトの隣に座った。

 

 出発して数秒後、最前列に座らなくて助かったと体感出来た......


 ジェットコースターが大好きなのは、体調が絶好調の時だけで、こんな生理時期は、酔いやすくて気持ち悪くなるって事を初めて思い知らされた。


 身体があちこち押されて気持ち悪くなる中、磯前いそまえさんの絶叫と川浦君の励ますような手の動きを見聞きし、隣のキレトの「おー!」だの「あー!」だの連発している声を聴きながら、私はひたすら『無』になっていた。

 あんなに大人しく仏像のようにジェットコースター乗っていたのは、生まれて初めてだったかも知れない。

 途中、チラッとキレトの方向いた時に目が合ったけど、すぐにサッと周りに視線を移した。


 そんなにお行儀よく乗っていたのに、機体が停まって降りようとした時に、クラクラっとめまいがして倒れそうになったから、荷物置き場の横にしゃがみ込んだ。


「そんな無理してまで乗んなよ!」


 キレトに怒鳴られて、カチンとなった!


「無理じゃない! 普段は好きだもん!」


「大丈夫、上柳さん?」


 川浦君と手を繋いで降りて来た磯前いそまえさんが尋ねて来た。


「大丈夫だけど、少し休憩するから、先に行ってて」


 今、立ち上がると、立ち眩みで地上に降りるまでの階段でコケそう。


「うん、分かった。待っている人達にも、伝えとくね」


 磯前いそまえさんは声かけてくれたけど、川浦君の視界に、私は入ってない。

 笑顔でまた話しながら、下に降りて行った2人。


「キレトも、先行ってていいから」


「それで、愛音に何か有ったら、誘った俺が、親から責められる」


 親が責める......?


 お父さんは、キレトを責めたりしないよ。

 絵美さんは、そうだね......確かに、責めそうな気がする。


「体調の事も考えないで乗った私が悪いんだから! キレトが義理立てする必要無いよ」


「俺は母さんから、女の子は体調が悪くてもガマンする事がよく有るから、気遣うように言われている」


 絵美さんらしい......


 きっと、鈍感な男達に囲まれて、自分が辛かった経験が有るから、キレトには、女の人の苦しさを分かってくれる人に育てようとしているんだね。

 

 でも、私、今まで、男子から気を遣われたり優しくされた事が無さ過ぎたし......

 今まで悪態をかれっぱなしだったキレトが、そんな風に紳士的に接して来られても、どう反応していいのか分からない。 

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