Episode4 根津さんの復讐

【問題】


 自称・愛され系OLのマリカさんには、とある裏の顔がありました。

 外に出る時はオシャレで身綺麗な装いですが、一人暮らしのマンションの部屋は星が五つも付くほどの超汚部屋だったのです。

 五つ星汚部屋を何年も放置していたマリカさんでしたが、「まずはこれを何とかしなきゃね……」と重い腰を上げました。

 かといって、自分で”何とか”するわけではなく、会社の後輩の根津(ねづ)さんに手ごろな価格のハウスクリーニング業者を調べて、依頼するように言い付けました。

 根津さんは、マリカさんが命じた条件に合致するハウスクリーニング業者を手配してくれました。

 そのうえ、料金的なサービスまでしてもらったらしく見積もり価格は、一般的な相場よりかなり格安でもありました。

 マリカさんは、自分のために(勤務時間外ならびに完全なプライベートかつ迷惑でしかない事案であるのに)骨を折ってくれたであろう根津さんに一言のお礼すら言わず、「スタッフたちは二度と会わない人とはいえ、可愛い私がこんな部屋で暮らしていたなんて思われるの嫌だから、あんたが最後まで私のふりをしててよね。あんたはチビで貧相だから、ネズミ女っぽいし、汚部屋住人にピッタリよ(笑) あ、念のため、私は後輩を心配している優しい先輩って役柄で最後まで立ち合いはさせてもらうけど」と言い放ちました。

 しかし、結局、マリカさんは汚部屋をハウスクリーニング業者に掃除してもらうことはありませんでした。

 さて、それはなぜでしょうか?

 今回は、5枚のルノルマン・カード「2 クローバー」「23 ネズミ」「1 騎手」「29 淑女」「24 ハート」をヒントに考えてみてくださいな。



【質問と解答】


キクちゃん : うーん……マリカさんと根津さんの会社がどんな環境であるかまでは問題文に書かれていませんが、マリカさんがしていることは明らかなパワハラですね。五つ星汚部屋住人であることよりも、こっちの裏の顔の方が大問題だと思います。


チエコ先生 : 確かにそうね。コンプライアンスに厳しい会社なら、確実に懲戒処分になっているわね。マリカさんのパワハラの最大の被害者は根津さんだったけど、実は他にも被害にあっていた女性社員は複数名いたのよ。マリカさんは男性には愛想を振りまいていい顔をするけど、女性には……それも年下の女性に対しては女王様気取りでふるまう人だから。


キクちゃん : ”男性には愛想を振りまいていい顔をする”人なんですね。そして、「24 ハート」のカードもヒントであるわけですし、ひょっとしてマリカさんと根津さんは同じ男性を好きだったんですか?


チエコ先生 : NO。マリカさんは好きな男性がいたけど、根津さんは恋愛とか結婚にはそれほど興味がない人だったのよ。


キクちゃん : マリカさんには好きな男性がいたんですね。”好きな男性”と一言で言っても、彼氏彼女の関係なのか、片思い中なのかでは違いがありますよね。問題文中に「五つ星汚部屋を何年も放置していたマリカさんでしたが……」という言葉から推測するに、マリカさんは男性を家に招き入れてイチャイチャできる状況にはなかった……つまるところ、片思い中だったのですか?


チエコ先生 : YES。


キクちゃん : その男性こそが、今回の問題を解く鍵かもしれませんね。男性を示すカードとなると「1 騎手」ですね。「1 騎手」は”メッセージ”、”ニュース”という意味だけでなく、”若い男性”や”スポーツマン”も示すカードですし。マリカさんは、爽やかなスポーツマンタイプの男性に片思いしていましたか?


チエコ先生 : YES。マリカさんは近所のスーパーで時々見かけるけど、一度も話したことはない男性を好きになってしまったの。長身で爽やかな顔立ち、細マッチョで服の上からでも相当にいい肉体をしていることがゴクリと見て取れてしまう彼はマリカさんの超好みのタイプであったし、自分のルックスに自信を持っているマリカさんは自分から声をかければ、絶対に細マッチョさんを落とせるだろう自信もあったわ。


キクちゃん : それならなぜ、せっかく根津さんが格安のハウスクリーニング業者さんを見つけてきてくれたのに、汚部屋を片付けてもらわなかったんでしょうか? 気の毒すぎる根津さんを自分の身代わりにしているし、スタッフの人たちだってプロなわけですし、たとえドブネズミですらドン引きレベルの汚部屋であろうが仕事だと割り切っているんでしょうから、そのまま片づけてもらえば良かったのに。もしかして、スタッフの人たちの中にマリカさんの知っている人がいたとか…………あ!!


チエコ先生 : そうよ。その調子よ。


キクちゃん : スタッフの中に、細マッチョさんがいたんですね?


チエコ先生 : YES。正解よ。マリカさんは、ドブネズミですらドン引きレベルの汚部屋を意中の細マッチョさんに見られてしまったというオチよ。


キクちゃん : ……自業自得とはいえ、穴があったら入りたいというか……ゴミだめの中であっても、キャイーンって潜り込みたい状況ですね。


チエコ先生 : さらに補足の説明をしておくと、細マッチョさんは若くして起業していて、ハウスクリーニング会社の代表取締役社長でもあったのよ。……と、キクちゃん、ここで今回の問題のタイトルと「2 クローバー」のカードに注目してみない? まだ、謎は全て解けてはいないわよ。


キクちゃん : タイトルは「根津さんの復讐」ですよね。そして、「2 クローバー」は”幸運”や”希望”だけでなく、”シンクロニシティ”という意味もあります。”意味のある偶然の一致”ということですね。ひょっとして、根津さんと細マッチョさんは偶然にも知り合いの間柄だったんでしょうか? 問題文中にも「そのうえ、料金的なサービスまでしてもらったらしく見積もり価格は、一般的な相場よりかなり格安でもありました」とあるから、知り合いということで割り引いてもらえたのではないかと……。


チエコ先生 : ”知り合い”かと問われると、答えはNOね。彼女たちは、単なる知り合い以上の関係にあったのよ。それこそ、お互いが物心ついた時から、一緒に過ごしているような間柄ね。


キクちゃん : やっと分かりました。根津さんと細マッチョさんは家族の間柄だったんですね。


チエコ先生 : YES。細マッチョさんは根津さんのお兄さんだったの。マリカさんは細マッチョさんの名前すら知らなかったし、兄妹と言えども顔や雰囲気は全く違うから、マリカさんも彼女たちがまさか兄妹とは思わなかったんでしょうね。以前に、マリカさんは根津さんにスーパーで隠し撮りした写真を自慢げに見せて、「ねえ、滅多にいないほどのいい男だと思わない? 絶対落としてみせるわ。ま、あんたには縁がない話だろうけど」って言ったの。写真を見せられた根津さんは「(うわぁ……見ず知らずの他人を隠し撮りするとか、この人って本当に……って、あれ? これって、うちの兄さん?)」となり、マリカさんに超汚部屋の後始末を押し付けられたことも加わり、復讐を思いついたの。ハウスクリーニング当日、勇ましい騎手のごとく集結した男性スタッフの中に細マッチョさんがいることに驚き、真っ赤な顔でブルブルと小刻みに震えているマリカさんに、根津さんは「うちの兄の会社に頼んだんです。マリカさんには”常日頃から大変にお世話になっていますし”、兄も格安で片づけてくれるってことで……(ニヤリ)」と見事、復讐を達成したというわけよ。恥ずかしいやらショックやら何やらで、超パニックを起こしたマリカさんは「帰って! 帰ってよ! 見ないでよ! 見ないでって言ってるでしょ! 見ないでってばぁ!!」と超汚部屋の玄関を閉めて、根津さんたちを追い返したの。ちなみに、マリカさんは翌日、会社に辞表も提出したわ。


キクちゃん : 人って、誰がどんな繋がりを持っているのか、表面からだけでは分からないわけですし……整理整頓やゴミ捨てが壊滅的にできないのは百歩譲って仕方ないにしても、日頃の行いは大切と言いますか、「24 ハート」のカードが示すように、思いやりを持って他人に接することは、人との間で生きていくにあたって当たり前のことですよね。



(完)

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