第17話 復讐の街(後編)
マグナム44ではググトを仕留められなかった。だがジャックには切り札があった。涼介は危険だと止めるが、ジャックは敢然とググトに挑んでいく・・・
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ジャックは妻を殺したググトに遭遇したものの、それを倒すことはできなかった。マグナム44まで用意したというのに・・・。そして涼介の変身したマサドが逃げたググトを追って行ったが途中で見失ってしまった。
次の日、ジャックはアメリカ大使館に呼び出されていた。彼の前でトムが怒っていた。
「ジャック!どういうつもりなんだ!街中でマグナムをぶっ放すなんて!正気の沙汰とも思えん!」
「すまん・・・」
包帯を巻かれたジャックはうなだれていた。しかしそれは、折角モンスターを見つけたのに仕留めることができなかった失望感が大きいからだった。だがトムにはジャックがひどく落ち込んで反省しているように見えた。言いたいことは山ほどあったが、憔悴した親友にこれ以上、強く言うことはできなかった。
「こんなことをすれば君はムショに入れられるが、私が警察の方に言っておいた。もみ消してくれるだろう。」
「すまない。トム。迷惑をかけた。」
「それはいい。だが今すぐアメリカに帰るんだ。君を強制的に帰国させることはできるんだ。でもそんなことはしたくない。悪いことは言わない。ここにいれば君はおかしくなるだけだ。」
「いや、もうすこしだけ居させてくれ。妻の墓にお別れを言わせてくれ。頼む。」
ジャックはトムに必死に訴えた。その姿にトムはため息をついてうなずいた。
「まあいいだろう。ではあと1日だ。私にできるのはそこまでだ。でも絶対、あの街には行かないと約束してくれ。」
「ありがとう。トム。 約束は守る。」
ジャックはそう言った。だが彼は約束を守るつもりなどなかった。残された時間を復讐に使おうと考えていた。
◇
ジャックは街を歩きながらポケットの写真を取り出した。そこには自分と妻が幸せそうに写っていた。それを見ると妻との楽しい思い出が頭を駆け巡っていた。プロポーズ、結婚式、幸せな家庭生活・・・
(決して許さない。幸せを踏みにじった奴を!)
ジャックは写真をポケットのしまうと、街を歩き始めた。すると彼の前にあの若い男がまた現れた。彼は何か言いたげだった。
「何の用だ?」
ジャックは警戒しながら訊いた。男はジャックをじっと見て言った。
「話がある。」
「いいだろう!相手になってやる!」
ジャックは、その男がジャックに羽交い絞めされたことで自分に文句を言いに来たのだと思っていた。
「勘違いするな。あの赤い斑点のモンスターを追っているのだろう。それについてだ。」
2人はすぐそばの狭い路地に入っていって、そこで話をした。男は小川涼介という学生だった。彼もモンスターを追っているようだ。ジャックは涼介が普通の者ではないことを感づいていた。涼介はジャックを止めようとしていた。
「聞いてくれ。あのモンスターはあなたの手に負えるものではない。」
「お前には関係ない。俺は自分のやるべきことをするだけだ。」
ジャックはタバコに火をつけながら言った。
「それなら本当のことを言おう。あれはググトだ。平行世界から飛ばされてきた。俺もそうだ。俺はあの黒い人影、マサドになって戦うことができる。」
涼介は言った。あまりにも荒唐無稽の話だが、ジャックはそれを信じた。
「奴を倒すのはどうしたらいいんだ? 奴は妻を殺した奴だ。復讐してやりたい!」
「普通の人間には無理だ。それにあのググトはB級だ。俺でも倒すことは難しい。」
「ググト?」
「そうだ。ググトだ。しかもあの赤い斑点のググトは向こうの世界でも有名だった。まだらググトと呼ばれていた。ひどく狂暴で狡猾な奴だ。奴のためにどれほどのマサドがやられたか・・・。だから俺もこの街で見張っているんだ。」
「俺は奴を倒したいんだ! 俺一人の力で!」
「それは危険だ。ここは俺に任せてくれ。俺が奴を必ず倒すから。だからあのググトを追うのを止めるんだ。そうしないと命を落とすかもしれない。」
「命などもうとうに捨てている。だから放っておいてくれ!」
ジャックはタバコを投げ捨てると、また通りに出て歩き出した。いくらどんなに強い相手だろうが、ジャックの決心は揺るがなかった。
(今日だ。今日は奴が獲物を求める日だ。必ず現れる!)
ジャックは確信していた。彼には今夜しかなかった。もう拳銃はなかったが、彼には切り札があった。サングラスを光らせてググトの出現を待っていた。
涼介はジャックの後を歩いていた。彼のことが心配だった。大事な人を殺された悲しみとググトに対する憎しみは涼介にはよく理解できた。だからこそ命を大事にしてほしかった。この世界でググトと戦うのは、マサドである自分だけでたくさんだと思っていた。
「ぎゃあ!」
近くで叫び声が聞こえた。
「来たか!」
ジャックはその方向に走って行った。涼介もその後に続いた。すると空き地に若い女性を捕まえたあのググトがいた。頭に赤い斑点がある奴だった。
「この野郎!」
ジャックはサングラスを投げ捨て、落ちていた鉄パイプを拾ってググトに向かおうとした。
「下がっていてください!」
涼介はジャックを制すると、
「エネジャイズ!」
とマサドになった。そしてあのまだらググトに向かって行った。
「うるさい奴らだ!」
ググトは触手を振り回した。マサドはそれを避けながら反撃の機会をうかがっていた。するとジャックが鉄パイプを振り上げて、
「モンスターめ!」
と向かって行った。ググトは触手で簡単にジャックははね飛ばした。そこに隙ができた。
「食らえ!」
マサドが接近してパンチを繰り出した。だがB級のまだらググトは一筋縄ではいかなかった。別の触手がマサドに打撃を与えて吹っ飛ばした。
「うううっ・・・」
マサドは大きなダメージを受けて地面に倒れ込んだ。
「貴様ごときにやられるか!先に殺してやる!」
ググトは立ち上がれないマサドに近づいてきた。そして触手でがっちり捕らえると鋭い口で斬り裂こうとしていた。その背後でジャックは傷つきながらも立ち上がった。
(ヒロコ。見ていてくれ・・・)
ジャックはまた鉄パイプで向かって行った。
「カーン!」
鉄パイプは油断していたググトの頭を直撃した。ググトはその衝撃でマサドを放した。頭から少し血を流していたが、そのダメージは少なかった。
「貴様!下等動物のくせに!」
ググトは触手でジャックを捕まえた。そして鉄パイプをもう一方の触手で奪い取ると、
「グサッ!」
とジャックの胸を貫いた。血が辺りに飛び散った。
「うっ・・・」
胸を貫かれ、ジャックは口から血を吐いた。だがその目は死んでいなかった。左手でググトの体をしっかり捕まえると、右手でポケットからライターを取り出した。服の切れ目から最後の切り札が見えていた。その体にはダイナマイトが巻かれていた。
「よせ!やめろ!」
驚いたググトが叫んだ。
「一緒に地獄に落ちてもらうぜ!ベイビー!」
ジャックはダイナマイトの導火線にライターで火をつけた。
「ドカーン!」
爆発が起こり、土煙が舞った。それは空高く飛び散り、やがて空に消えていった。そして地面には何も残っていなかった。
マサドは立ち上がって涼介の姿に戻った。妻を殺された男を救うことができず、ググトとともに自爆させたことに涼介は気を落としていた。
(また不幸な人を増やしてしまった・・・)
涼介が足元を見ると、端が焦げた一枚の写真が落ちていた。そこにはジャックとその妻と思われる女性が笑顔で写っていた。やがてその写真は風に吹かれて宙に舞い、そして夜の街に飛んで行った。
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