大魔法と地域別カウント形式。
アイゼンとニースが奮闘を見せ、他の冒険者もつられるように動きが良くなった。
飛び道具や効果的な魔法がワイバーンに畳みかけられていく。
「ニース!」
「おう! あいつら方向変えるの苦手だな! まっすぐは速いけど止まるのも下手だ」
「良い洞察力だ」
アイゼンがわざとワイバーンの滑空を誘い、屋根で構えたニースが背中から叩き斬る。
地面に叩きつけられたワイバーンは、アイゼンと冒険者たちが集中砲火で倒す。
「いっせーのっ!」
「今だっ!」
冒険者たちは誰ともなく掛け声を合わせ、ワイバーンに隙を作らせない。
「アイゼン! あっ……さん!」
「呼び捨てでいい! 何だ!」
「アイゼンおめーちょっと飛べ!」
「飛べ?」
ニースがアイゼンを呼び止めた。ニースは激しい戦闘の中、地面に図を描いていく。
「どうよ」
「なるほど……面白い。やってくれ!」
地面の上には、棒人間が棒ではなく剣を持って描かれている。
その剣のすぐ上には、別の棒人間が2本の棒ならぬ双剣を構え、膝を曲げて描かれている。
図解をすると、アイゼンが跳び上がった際、その靴底をニースが剣の腹で押し上げるという作戦だ。打ち飛ばすと言ってもいい。
「いくぞ! さん……」
「え、3から始まるのか?」
「あ? 他に何があんだよ」
「いやいい、3からでいい」
ニースがカウントを取り、アイゼンがそれに合わせる。
ワイバーンが頭上を通り過ぎるその一瞬がチャンスだ。
「来たぞ! ニース!」
「おう! ……さん! ……のー、がー、はいっ!」
「うぉいうぉいちょっと待った!」
アイゼンが慌てて前方へと避けた。ニースの剣先がアイゼンのマントギリギリを掠める。
「なんだよ、タイミングばっちりだったろうが」
「違う、違うんだ! 何だその、さんのーがーはいって」
「あ? 何言ってんすか」
「いや、聞きたいのはこっちなんだが」
どうやらニースのカウントの取り方が、アイゼンの思ったものと違ったらしい。
アイゼンは「3,2,1……飛べ!」のカウントダウンのつもりで構えたのだが……。
「さんのーがーはいっ! で合わせるんだろうが。お前もか、お前も庶民ナメてる口すか」
「俺も元は村人だ、だけどそんな掛け声は知らない」
タイミングを合わせる以前の部分で躓き、ワイバーンへの攻撃が滞る。
そんな中、ニースの後方から悲鳴が聞こえた。
「避難中の奴らが襲われてる!」
「はっ? 何だよオレらが強過ぎて弱い者いじめに切り替えか? ワイバーンくそだせえな!」
ニースが舌打ちをして避難の列めがけて駆けだす。
アイゼンもすぐ隣で並走し、2人はその先で皆の誘導を頑張るジェインを発見した。
「ジェイン! ああまずいぞ、3体来やがった!」
「とにかく物陰に隠れるんだ! 奴らは空から狙える場所しか見ていない!」
アイゼンがそう叫ぶが、郊外は家も少なく、畑や更地が目立つ。
大勢が隠れられる程の物陰がない。
「ジェイン!」
ニースの声が聞こえないのか、ジェインは皆を強引に宿へ入らせ、自身はワイバーンと対峙する。
だが、持っていると言っていた銃を構える様子はない。
「え、あいつ何やってんだ!」
「ジェイン! いくら君がおっとりしているからって、対話で解決など無理だぞ!」
「え、あいつワイバーン語いけるんすか」
「何だよワイバーン語って」
ワイバーンが今にも毒を吐かんと口を大きく開ける。他の個体は大きな爪でジェインを切り裂く気だ。
「ジェイン! 逃げねえか!」
ニースが再度叫んだ瞬間、ジェインの周囲が淡く光った。
それは魔法詠唱の際によく見られる現象だ。
「あいつ、魔法の才能はあんまりねえって……」
2人が駆け寄り、慌ててジェインを守ろうと前に立つ。
「お前、魔法は制御が出来ねえって、才能ねえって言ったじゃん! お前も嘘つきか! 本当つきオレだけじゃん!」
「ごめん、集中したいんだ! ……確かにボクには才能はない」
空から襲い掛かるワイバーンを剣で払いのけ、2人はジェインを宿の中に押し込もうとする。
だが、ジェインはその場を譲らなかった。
「王子が怪我なんかしたら、オレが殺される!」
「元勇者がいながら王子を怪我させたなんて、俺もどうなるか……」
「大丈夫だ! ボクは……」
ジェインがそう口にした瞬間、目の前の広い更地の景色が変わった。
周囲が赤黒く染まっていき、強い風が更地に向かって吹き込んでいく。
「何だ、どうした!」
ジェインの目が光っている。魔法が発動する寸前によく見られる現象だ。
ジェインはそのまま手を前にかざし、首を縦に小さく振ってタイミングを計る。
「2人とも、ボクの後ろに! 巻き込みたくない!」
「あ? 何だこの魔法!」
「せーの……が、さんはいっ!」
「はっ?」
ジェインの不思議な掛け声と共に、50メルテ程先の更地の草に火が付いた。
その火がどんどん大きくなり、ついには真っ赤な竜巻が現れる。
火災旋風だ。それも、超巨大な。
直径数十メルテ、建物で言えば10階よりもうんと高い。
「た、竜巻……炎の竜巻だ!」
「ジェイン、君……」
それはジェインが放った魔法だった。
ニースもアイゼンでさえも、このような魔法は見た事がない。
炎の渦は空を飛ぶワイバーンたちを引き寄せ、強引に巻き取っていく。
炎には強いとされるワイバーンが、成す術もなく業火で焼かれて断末魔を上げる。
「すげえ……お前、すげー魔法使いだったんだな!」
「城にいた頃は禁止されていたんだ。ボクは魔法の加減が出来ない」
「確かに、こんな魔法を城で放たれたら……」
「だからボクは才能がないと言った。おまけにどんな魔法が出るか、自分でもよく選べない」
それでも皆が襲われて傷付く位ならと、腹をくくって繰り出した結果、たまたま今回は火災旋風だった。
周囲一帯を大量の水や、雷が襲う可能性もあった。火災旋風はマシな方だという。
「おい、ワイバーンが逃げていくぞ!」
「この炎の竜巻を見れば、さすがに恐れをなして去るか」
「猿? 何言ってんすか、ふざけるところじゃねえす」
「君の耳、どうなっているんだい」
怪力で恐れなしの退治屋、頭脳明晰な勇者、そして超強力魔法を使う王子。
3人の活躍により、ワイバーンは大半が倒される事となった。
残った僅かな個体が、一目散にはるか遠い北の山へと逃げ帰っていく。
「ワイバーンがいなくなった! 勇者様のご一行がやってくれた!」
「やっぱり勇者様ね! ドラゴン退治で傷を負ってもあの強さ!」
「あの剣士も見たか? ワイバーンを上から叩き潰した!」
「あの魔法使い様もすごいぜ! あの炎の竜巻、あんなの誰が出せるんだよ」
町の住民や冒険者たちが一斉に駆け寄り、3人を胴上げして喜ぶ。
時折焚火のすぐ近くのような暑さを感じ、服が燃えていないか確認する者もいる。
「ジェイン、もうワイバーンはいないぞ、あの火災旋風を消してくれ」
「……済まない、制御できないついでにもう1つ。ボクは……魔法を消すことが出来ないんだ」
ニースとアイゼンが顔を見合わせる。
「魔法使い! いたらみんな全力で水魔法だ! こいつ、魔法の消し方を知らないらしい!」
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