第104話 ちょ~っと鼻につく感じかも

「そうくるなんてねぇ。だけどシャルティア、あなたの作戦は見え見えよぉ?」


 C組の担任教師ラーナは、F組が八人もの生徒をこの競技に投入してくると聞いて、かえって上機嫌になっていた。


「この競技でまずあたしのC組を全滅させてから、一位を取ってポイントで並ぼうという魂胆ねぇ。あとは最後の競技で、どうにかC組のポイント獲得を妨害できれば、そのまま同点で終了……。このままだと勝てないと踏んだあなたは、負けないという方向に舵を切ったってわけ。うふふ、でもぉ、残念だけれど、その作戦は上手くいかないわぁ」


 そう独り言を呟いてから、ちらりと他のクラスの担任たちを見やる。

 すると軽く頷きを返してくれた。


「あははっ、真っ先に全滅させられるのは、むしろあなたたちF組の方よぉ」


 ラーナが不敵に笑う中、フィールド内では、プレイヤーたちが所定の位置についていた。


「ほ、本当に八人も投入してよかったんだろうか?」

「残ったのがいくらあのエデルくんでも、さすがに厳しいんじゃ……?」

「もしかしたら準優勝狙いなのかも……」


 そんな不安を口にしているのは、F組のプレイヤーたちである。


「あいつのことなら心配要らないわよ。それより自分たちの競技に集中しなさい」


 咎めたのはアリスだった。

 彼女もまた、この競技に出場するのだ。


 だがアリスの言葉に、彼女の意図とは違う反応を示す少女がいた。


「……なんか今の台詞、ちょ~っと鼻につく感じかも」


 ジト目で指摘したのは、小柄な女子生徒、ティナだ。

 彼女もまたこの競技に出場するプレイヤーの一人なのである。


「どういう意味よ?」

「だって、まるで自分が一番エデルくんのことを知ってるかのような言い方だったし!」

「そ、そんなつもりで言ってないわよっ」

「一緒に訓練してるからって、リードした気にならないでよ!」

「何の話よ!?」

「ていうか、他に友達らしい友達一人もいないのに、エデルくんとだけは親しくしてるなんてっ……間違いなく狙ってるでしょ!」

「………………………………どうせあたしには友達いないわよ」

「あ、アリスさん?」


 いきなりコンプレックスを突かれて、不貞腐れるアリス。

 ティナは予想外の反応に少し慌てた。


 気を取り直したアリスは、ため息交じりに説明する。


「だいたい、訓練はいつもガイザーが一緒だし、あいつと仲良くしてるように見えるのは、おばあさまから直々に面倒を見るように言い渡されたからよ」

「……それならいいけど」


 まだ納得がいっていない様子のティナだったが、それ以上、追及する時間はなかった。


「そろそろ競技が始まるわよ」


 そうアリスが告げた直後、開始のブザーが鳴り響いた。


 これまでの競技では、バラバラになって行動するクラスも多かったが、今回は一塊になって動くクラスばかりだろう。

 別行動していたら、各個撃破される危険性もあるからだ。


 プレイヤーが八人いるF組も同様だった。


「最初に狙うのは隣のE組よ。五人しかいないし、上手くいけば無傷で全滅させられるはず」


 アリスたちは開始と同時に、E組のスタート地点に向かって走り出した。

 当然、相手も狙われる可能性を考慮し、動き出しているかもしれない。


「……大丈夫です。今のところ、動く気配はないみたいです」


 そう報告したのは、索敵魔法を使える生徒だ。

 このフィールド全体をカバーするまではいかず、一部分での人の動きを見ることしかできないようだが、この競技では非常に重宝するメンバーだった。


「行けそうじゃん! 早速、五人分ゲットしちゃおう!」

「(まったく動かないってのも不気味ね……?)」


 テンション高く叫ぶティナとは対照的に、アリスは違和感を覚える。


「(スタート地点なんて最初から相手に位置がバレてるわけだし、まずは様子見だとしても、少しは安全なところに移動するはず……。何か罠でも仕掛けて、待ち構えるつもりかしら? ……まぁ、何にしても叩き潰してやるだけね!)」


 しかし脳筋的発想で、すぐにその違和感を振り払ってしまうのだった。

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