第81話 くせには余計っすよ
エデルによって強化されたダンジョンが、二人の挑戦者たちに牙を剥いた。
「コボルトのくせになんて素早さなのよっ!」
「こいつはめちゃくちゃパワーがあるっす!」
単純にコボルトが大幅強化されただけではない。
個体によって、強化された部分が異なるのだ。
ある個体は素早さが強化された上に、壁を駆け上がったり宙返りをしたりと、アクロバットな動きを見せるように。
ある個体はパワーが強化された上に、生半可な攻撃ではビクともしない圧倒的な耐久力も手に入れて。
ある個体は器用さが強化されたのか、様々な武器をまるで人間のように扱うようになり。
「魔法を使ってくる個体までいるんだけど!?」
「しかもこいつら集団で連携を取ってくるっす!」
コボルトは元より群れで襲いかかってくることのある魔物だが、能力の異なる個体同士が、互いを補う合う高度な連携で攻めてくるのだ。
アリスとガイザーは大いに苦戦させられてしまう。
「数も多過ぎでしょ!」
「次から次へと遭遇するっす!」
そんな彼らをさらに苦しめたのはトラップだ。
本来ならこのダンジョンには、ほとんどトラップがないはずだった。
だが少し進むたびに、厄介なトラップが彼らに襲いかかった。
プシュウウウウウウッ!!
「け、煙が……っ!」
足元のスイッチに気づかず踏んでしまったガイザーの顔に、壁から噴出した煙が降りかかる。
すると突如として猛烈な眠気が。
「ね、眠すぎるっす……」
「睡眠トラップ!? ちょっと、いま寝たら死ぬわよ!? 何とか耐えなさい!」
声を張り上げるアリスだったが、そんな彼女もまた壁にあるスイッチを押してしまった。
「身体が……重い……っ!?」
途端にまるで全身が石にでもなったかのような重さに襲われる。
どうやら今度は素早さを奪うトラップらしい。
幸い魔法を発動するにはそれほど支障がなく、二人はどうにかこのピンチを切り抜けたのだった。
「はぁはぁ……トラップまで凶悪過ぎでしょ……。……それはそうと、さっきから同じような場所をぐるぐる回ってる気がするんだけど、気のせいかしら……?」
さらに彼らを苦しめたのは、複雑に入り組んだダンジョンの構造だ。
ただでさえ洞窟型で似たような光景が続いているというのに、無数のルートに分岐している。
魔物やトラップに対処するのに精いっぱいで、もはや現在地がどこかまったく分からなくなってしまっていた。
「たぶん、ここは来たことない場所っす」
「何でそんなこと分かるのよ?」
「一応、こんなこともあろうかと、ダンジョンの壁に傷を付けておいたっす。ほら、これっす」
ガイザーが指さした壁には、確かに剣で付けられたと思われる傷痕があった。
「……ガイザーのくせに意外としっかりしてるじゃない」
「くせには余計っすよ!」
そうしてダンジョンを進んでいく二人の前に、やがて両開きの巨大な扉が現れる。
「これは……ボス部屋っ?」
「そうに違いないっす! やっとゴールっすよ!」
疲労困憊の彼らだったが、ようやく辿り着いたダンジョンの最奥に目を輝かせた。
扉を開け、中に入った彼らの前に現れたのは、これまで遭遇してきた個体の三、四倍もの大きさを誇るコボルトだった。
「エルダーコボルトっす! やっぱりボスっすよ!」
「こいつを倒せばダンジョンクリアってわけね! 行くわよ!」
「ワオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!」
巨大な棍棒を振り回し、時に配下のコボルトを呼び寄せるエルダーコボルトは、ボスモンスターだけあって非常に強敵だった。
それでも激戦の末、アリスとガイザーはどうにか討伐に成功。
巨体が轟音と共に地面に倒れ込むと同時、二人も疲れ切ってその場に倒れ込んでしまった。
「な、何とか倒せたわね……」
「疲れたっす……」
とそこへ、どこかで二人の様子を見ていたのか、エデルが現れる。
「二人ともお疲れさま。
「兄貴、どうっすかっ? 初見でダンジョンクリアしたっすよっ!」
「ちょ、ちょっと待ちなさい。今なんか、聞き捨てならないセリフが聞こえたような……今日のところは? もうこのダンジョンは攻略できたんじゃないの?」
ガイザーがドヤ顔を見せる一方、嫌な予感を覚えるアリス。
エデルは言った。
「まだクリアじゃないよ? だって今の、ただの中ボスだから。一応、まだ全行程のほんの五分の一くらいかな?」
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