第37話 宝箱に化けた魔物だよ

 がこん。


 エデルがトラップを発動させた。


「「「何をしてるんだああああああああああああああっ!?」」」


 ダンジョン探索部の部員たちが絶叫する中、エデルは小首を傾げて、


「……? じいちゃんが言ってたよ。どんなトラップも、真正面から受け止めていくのが真のダンジョン探索者だって」


 色々と酷い目に遭ったものの、お陰で随分と鍛えられたものだ、とエデルは懐かしく思う。


「トラップは回避するものだから!」

「ていうか、どんなじいちゃんだ!?」


 部員たちが狼狽える中、ゴロゴロゴロゴロ、と。

 地響きと共に、どこからともなく嫌な音が近づいてくる。


 段々とその音が大きくなっていき、


「み、見ろ! 巨大な球がこっちに転がってくるぞ!」

「か、躱せ~~~~っ!」


 通路いっぱいを占めるほどの巨大な球が、凄まじい速度で彼らの元へと迫ってきていた。

 慌てて近くの横穴へと逃げ込む部員たち。


 そんな中、エデルだけはその場を動こうとせず、


「え? もしかしてトラップってあれだけ?」


 モンスターハウスに強制転移させられたり、数秒ごとにランダムで状態異常にかかったり。

 魔界のダンジョンの凶悪なトラップを幾つも体験してきたエデルにとっては、あまりにも拍子抜けだったようだ。


「お、おい! 何をしている!? 早くこっちに来い! 死ぬ気か!?」


 セレナが慌てて怒鳴りつけるが、エデルは逆に転がってくる球の方へと向かっていった。

 エデルの数十倍はあろうかという大きさだ。


 巨大球に潰されると思った、そのとき。

 エデルが片手を前に突き出し、それを受け止めようとした。


「よいしょっと」


 ズガガガガガガガガガガガガガガガッ!!


 しばらく回転が止まらず爆音を轟かせていたが、やがてぴたりと制止してしまう。

 信じられないことに、エデルが片手で巨大球を受け止めてしまったのだ。


「…………は?」


 理解不能な光景に、セレナは絶句するしかない。

 さらにエデルは巨大球を殴りつけ、それだけで木っ端微塵に粉砕してしまった。


「う、嘘だろう……? 今、何をしたのだ……?」


 セレナが呆然としていると、横穴に逃げ込んでいた他の部員たちが戻ってくる。


「ふう、マジでビビったぜ」

「うおっ、何だ、あちこちに破片が……」

「まさかあの球が割れたのか?」


 どうやらエデルが巨大球を破壊したのを目撃していたのは、セレナだけのようだ。


「見かけによらず軽い素材でできていたのか……? いや、普通に硬くて重たい破片だ……」


 破片を確かめながら呻く彼女を余所に、エデルが言った。


「ほら、これ、見てよ」


 部員たちの視線が一斉に彼が指さす方へと向く。

 するとそこに現れたのは、先ほどまではなかったはずの新しい通路だった。


「「「か、隠し通路……?」」」


 すぐにダンジョン探索部が更新を続けている地図と照らし合わせるも、こんな通路の記載は一切ない。

 すなわち未発見の通路だった。


「時々こういうのがあるんだよ。トラップを発動させてみないと、発見できない通路とか部屋とか宝箱とかがね」


 平然とそう言って、真っ先に足を踏み入れるエデル。


「さすが兄貴っす!」

「お、おい、待て、二人とも!」


 ガイザーがすぐ後に続き、セレナが慌ててそれを追いかける。

 しかし通路はほんの数十メートル先で途切れ、袋小路となっているようだ。


 ただしそこには金色に輝く宝箱が置かれていた。


「こんなところに宝箱が……?」

「す、すげぇぞ! きっと貴重なアイテムが入ってるに違いない!」

「開けてみようぜ!」


 部員たちが興奮する中、エデルはすたすたとその宝箱に近づいていき、


「多分これ、ミミックだね」

「ミミック? 何すか、それ?」

「知らないの? 宝箱に化けた魔物だよ」


 そう言いつつ、エデルはそれを開けた。

 次の瞬間、輝いていた金色の箱が一瞬にして黒く変色、牙を剥いて飛びかかってくる。


「よいしょ」


 ズゴンッ!!


 だがエデルが軽く裏拳を見舞うと、ミミックは近くの壁に叩きつけられ、ぐしゃりと潰れてしまったのだった。

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